漢字の策
「実は契約書に書いた名前…
一画だけ書かなかったの!
栄子の『栄』の冠ぽい『ツ』のとこ…
二つしか書いてないわ!
つまり私の名前であって私じゃない!」
栄は榮の略称だから、
部首は木の方だが…
「えぇ!?バレないだか!?」
「もしバレたら、
『アダムワールド漢字だから、
扶桑文字とは違う』とか、
『緊張のあまり書き忘れた』と
言い訳するのよ♪」
「うぬもなかなかの悪女だな…
狼にして女狐よ…」
「全然分からねえけど、
頭良さそうな豚山騙すなんて
なんか姐御すげえっす!」
私は怪物の騎士団にドヤっていたが
廊下で得意になるあまり、
早く帰らなかったのは災いした。
「おい!嬢ちゃん!
これ書き忘れとるやないか!」
「ギクッ!
それはアダムワールド漢字だか、
扶桑文字と違って…」
「アダムワールド日本転生者を、
何人も倒した言うたやろ!
記憶読み取って漢字も分かる!
特に「栄」は縁起ええ意味やしな」
しまった!ハイカー王、
そんなに漢字に詳しい感じなのか!?
豚なのに食えないヤツ!
やばい!私も石化か!?
「そもそも!
廊下ででっかい声で話されたら、
誰かて分かるわ!」
予想よりシンプルな理由でバレた!
策士策に溺れてしまった!
「ごめんなさい…
私も石像ですか?
今から魔神殿巫女!?」
「しかしこのワイを、
一瞬でも謀った悪知恵…
やるやないか!
魔神殿巫女も石像も、
やらんでええわ!
どのみち嬢ちゃんは必ず、
怪物帝国建国して、
人滅ぼせるやろしな」
ハイカー王は自ら、
契約書を破り捨てた。
どうやら本当に私に期待し、
試してみた様だった。
「ありがとうございます!」
「礼でも頭を下げたらアカン!
もうわいは怪物の魔女様の家臣や!
一人では振り向けん、
成り上がり商人のわいも、
騎士なれるとは思わんかったけど…
男としてええ気分やな」
猪オーク執事達も、
自分達が騎士になれた事を、
驚きつつ笑顔になっていた。
こうしてオーク達もなんとか、
怪物の騎士団に入った。