Part7 通学路
そこからは早かった。
お金と一緒に申し込みの書類はあっさりと受理され、俺は晴れて1年生として入学することとなった。
制服を一式揃え、勉強道具と教科書も取り寄せた。
金は一通りかかったが、両親も嫌な顔一つしないで、俺を学校に行かせてくれた。
そして、入学式の前日。
「リュイ似合ってるぅぅっ!!かわいいいっ!!」
俺たちはリュイの家で制服の試着会をしていた。
ブカブカの茶色いブレザーに、手提げ鞄を持ったリュイは、天使以外の形容詞では表せない。
カメラがこの世にないのが悔やまれる。目にしっかりと焼き付けよう…。
「リオンくんも似合っててかっこいいよ!」
不意打ちを喰らい、俺は少しだけ驚く。
「そ、そうかな…ありがと…。」
撮影会、もとい目に焼き付ける会は一旦終了し、俺たちは制服を脱いで普段着に着替えた。
「学校、楽しみだね」
「そうだな…。」
俺は正直、それほど楽しみではなかった。
ショタがたくさん見れると言う点では、これ以上ないことだったけど、前世のトラウマがいまだに邪魔をしてくる。
「リオンくん?元気ないよ?」
「…そう見えた?」
「明日、ついに学校に行くんだし、元気出さないとだよ!」
リュイはそういうと、俺の頭を撫で始めた。
俺がこんなんだったら、リュイにも心配をかけてしまう。
「ありがと。リュイのおかげで元気出たよ」
「ほんと!えへへ…」
「もう心配しなくて大丈夫。明日、一緒に頑張ろうな」
「うん!一緒にがんばろ!!」
そして俺もリュイの頭を撫で返す。
その後、俺はリュイの家から自宅へと戻り、明日の準備をしてから布団に入った。
学校…。この世界では大学などが存在するか、今のところはわからないが、おそらくいろんな出会いがあるんだろうな…。
いろんな人と出会って、いろんな人と話して、
もしかしたら誰かと恋に落ちるかもしれない。
うっ…。
やっぱり考えないようにしよう…。
普通に振る舞って、そして普通に生きよう。
それが一番だはず。
一年生では何を習うだろうか、足し算や引き算?
そんなことをうっすらと考えながら、俺は眠りに落ちた。
ーーー
「おはようございます」
本日は入学式だ。
しかし、前世の日本とは違って、親が特別参加したり、そういったことはないらしい。
「忘れ物はない?」
「大丈夫です。」
母が制服の帽子を直してくれた。
朝ごはんも食べたし、これから歩いてジュベナイルの中央、シャトー城へと向かう。
もちろん…
ピンポーン
「いらっしゃったかしら」
ドアを開けると、
「あらエトワールさん、おはようございます~!」
「エトランゼさん!お互いにめでたい日ですわね!」
おほほほと、母親二名が話し込むのを横目に、俺は同じ制服を着たリュイのそばへと行った。
「おはよう…ございます」
あら、礼儀が正しいこと。
学校でちゃんと挨拶ができるよう練習をしているのだろうか。
「おはようございます。」
俺も頭を下げて礼儀よく挨拶をする。
「今日からよろしくね?」
「こちらこそ。」
リュイが笑顔になったのを見ると、俺もふっと微笑んだ。
「行ってらっしゃい~!気をつけるのよ!」
「いってきま~す!」
俺たちは後ろから手を振る母親陣に手を振りかえし、そのまま通学路へと進んだ。
「あの子たちもあんなに大きくなってっ…ぐすっ」
「わかりますわエトランゼさん…うちの子とこれからも…」
「もちろんですわエトワールさん…!!」
さて、俺たちが向かう学校は、ジュベナイル中央学校。
国立の大きな学校で、俺の住む「ノル」地区からは徒歩20分ほどで、皇居であるシャトー城のすぐそばに位置している
通学路には、同じような制服を着ていた学生たちが他にもチラチラと見えた。
俺はリュイと手を繋いでトコトコと歩いていく。
「なんか、緊張するね…?」
「そうだな。けど、入学式なんてこんなもんだろ」
「え、リオンくん学校行ったことあったっけ?」
まずい。前世で4回入学式を経験しているだけあって、思わず先輩風を吹かせてしまった。
「そ、そんなことないよ!俺も緊張してるし」
「そっか…。どんな人がいるんだろ、、ちゃんと敬語?使えるかな」
「練習してみる?」
「うん…。」
リュイは俺と繋いでいた手を離し、喉をこほんと鳴らした。
「お、おはようございます!」
「おはようございます。」
「こんにちは!」
「こんにちは。」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
リュイが大きく挨拶した後に、俺が落ち着いた声で繰り返していく。
会社の朝礼かよ、とツッコみたくなった。
そうしているうちに正面には、中世的な城壁に囲まれた、美しいお城が見えてきた。
あれがシャトー城だ。
「綺麗だねぇ…」
「お父さん、ここで働いてるんでしょ?」
「うん、毎朝早く行っちゃうから、最近はあんまり話せてないんだ…」
「もしかしたら会えるかもしれないな」
「そうだといいな…」
シャトー城の一つ前の交差点を左に曲がると、シャトー城と堀を一つ挟んだところに、俺たちの向かうジュベナイル中央学校が見えてきた。
薄い茶色のレンガで造られた壁に、所々が丸屋根になっていて、まるで中世のお城のようだ。
RPGっぽさに俺は興奮した。異世界最高。
この辺りになると、生徒もぐんと増えてくる。
俺たちと同じような身長の子もいれば、背が高い高学年の生徒もちらほら見える。
とはいえ、これでも一部であり、学校には寮が併設されているようなので、そこからそのまま通っている生徒もいるとか。
俺たち二人は、正門の前でもう一度制服を整え、手を繋ぎながら校内へと入った。
続く