Part17 実は
これはやばい…。俺の本能がそう言っている。
何せ父親が今までに見たことがないような表情になっているからだ。
「今、家の前にいるのか…?」
「…はい」
ますます父親の表情が厳しくなっていく。
「リオン…。お前は何をしたのかわかっているか…?」
「…はい」
俺はもうはいとしか言えない機械と化してしまった。
他の答えが見つからない。
その時、急に家の玄関が開いた。
エルが入ってきてしまったのか…?
と思ったが、入ってきたのはすらっとした長身の男性。
見覚えのある綺麗な黒髪を持っていて、白いスーツを纏っている。
そう、この人はリュイのお父さんだ。
「エトワールさん…!どうされたんですか?」
ちなみに俺の父親とリュイのお父さんは普通に仲良しで、休みの日には二人で飲みに出かけたりもする。
ついて行きたい…と思ったことが何回あったことか…。
「エトランゼさん、うちの子から話は聞きました。とりあえず時間も遅いので、私は今から馬を出してクレモンティーヌ家へ報告に行きます。」
「大丈夫なんですか?中央貴族のご子息ともなれば、軍が動員される可能性だって…」
「リュイによると、今回は何やら特別な事情があるようです。それを伝えればなんとかなるでしょう。私もそのぐらいには信頼を得ています。」
「はあ…。」
「ひとまずはエトランゼさんの方で、リュイとシエル様をお願いします。私は10分で戻ります。」
「…わかりました」
そう言った会話があり、リュイの父はすぐに家を出ていった。
ちなみに俺は会話の内容に一切追いつけずに、壁際で途方に暮れていた。
そして入れ替わるように、リュイとエルも家の中に入ってきた。
「お邪魔しま~す」
「ちょっとリュイくん、本当に…」
「心配しないでエルくん!僕のお父さんは王様のそばでお仕事してるから、なんとかなるはずだよ。」
「…」
とりあえず二人を俺の部屋に案内した。
外はすでに真っ暗になっていて、道路の街灯が灯っているのが見える。
「ここがリオンくんのお部屋か…」
ええそうですとも。
シエル様のお部屋の1/3のサイズもないところにわざわざご足労いただき感謝です。
ひとまずベッドの前の空間に三人で座る。
いつもは俺一人、もしくはリュイがいるぐらいなのに、今日は一人分の人影が増えて実に新鮮だ。
「ごめんね…。こんな狭い部屋で」
「...」
エルは急に黙ってしまった。
やっぱり部屋が狭すぎて慣れないのかな…。
「二人とも、ごめん…。」
と思ったら、急に俺とリュイに向かって頭を下げたではないか。
「ちょっとエルくん、、ど、どうしたの急に」
「仮にも貴族なんだから…頭あげて、ね?」
なぜかまた今にも泣き出しそうな顔でエルは口を開いた。
「僕、本当は…泊まるつもりじゃなくて…。その…。ちょっと悪戯っていうか、みんなのこと…からかいたかっただけ…だったんだ…。」
「えええっ!?」
「なんだってぇ…」
俺とリュイは思わずズッコケそうになった。
要するに、エルさんは俺が「俺の家でお泊まり会をしよう!」と意気揚々に言い出した頃から、まっさら俺の家に行く気はなかった…。ということらしい。
流れで俺たちの帰り道についてきて、家の前でネタバラシを試みたが、俺とリュイがいつの間にかいなくなっており、言い出す暇もなくリュイのお父さんが出てきて…。
そして今に至るというわけだ。
「本当にごめん!リオンくんとリュイくんのお家に、とんでもない迷惑をかけちゃってるよね…。僕、今からでも家に帰って事情を説明するから…。」
そう言って、エルは俺の部屋から出ようとした。
すかさずリュイがそれを止める。
「待ってよエルくん!今からって、もう外真っ暗だよ…?子供が一人で出歩いたら危ないよ!ましてや貴族のご子息なのに…。」
「大丈夫だよ…。このままご迷惑になるわけにはいけない…」
「っていうか、エルはそれでいいのか?」
「...」
俺の家に泊まることが冗談だとしても、その前のことは冗談じゃないみたいだ。
エルは家庭のことで何かしらの悩みを抱えている。
友達として、できることをしてあげたい…。
このまま家に帰しても、同じことを繰り返すだけだ。
「毎日勉強やらスポーツやらをこれでもってほどして、そして当たり前のように全部やってのけている…。お前はすごい、凄すぎる。普通の小学生にはできっこないことを当たり前のようにやってるんだ。けど、それがお前の本当にしたいことなのか…?」
「…」
「貴族だからこれぐらい当然、ってお前は言うだろうな…。けど、それはお前の本音って言えるのか?「貴族」っていう肩書きが決めたものじゃないのか?」
「…」
「自分のやりたいことは、自分が持ってる肩書きじゃなくて、自分自身で決めるものだと、俺は思う。だから今だけ、「中央貴族三男、シエル・クレモンティーヌ」じゃなくて、「エル」として考えてみてほしいんだ…。」
「…エル、として、、、」
「貴族だからって、自分の人生を肩書きなんかに決められるのは、俺は間違ってると思う…。」
「…」
つい熱くなってしまって、勢いに任せて色々言ってしまったが、俺はもう二度と、学校で泣いていたエルのあんな顔は見たくない。
自分の肩書きばっかりを気にして、常に完璧でいようとして、けれど最終的には本当の自分を見失ってしまう。
いろんな辛いことを隠すかのように、偽物の余裕で外側を覆う。自分は大丈夫って言い聞かせる。
しかし、それを永遠に繰り返していたら、いつか人間は壊れてしまう。
俺は二度目の人生でできた友達を、そう簡単に失いたくはない。
エルはわかってくれたのか、とりあえず部屋から出ていくのをやめて、また先ほどのように俺の前に座った。
続く




