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13.聖騎士の皆さんに認めてもらえたようです

 

 討伐には、スルギが率いる一番隊と四番隊が出動した。向かった先は、ある貴族が別荘として使っている古城。その貴族が二年ぶりに訪れたら、大型の魔物が住み着いていたという。

 ルセーネは新人なので、討伐の様子をひとまず観察させてもらうことになった。


 10人いた使用人のうち、3名が重症、2名が軽傷を負ったらしい。救命部隊がタンカを運ぶのを尻目に、スルギがふたつの隊に指示を出す。


「四番隊は逃げ遅れた者を数名で捜索し、残りは入り口と外で待機を!」

「「はい!」」

「一番隊は魔物がいるという寝室へ向かう。いいな」

「「はい!」」


 逃げ出した被害者の証言によると、魔物はライオンのような頭に、山羊のような胴体、そして蛇のような尻尾をしていたそうだ。その特徴から、スルギは雌山羊(キマイラ)と予測した。

 魔物には下級、中級、上級、更にその上の超上級にランク分けされ、雌山羊は上級である。


 一番隊は扉から寝室に侵入し、雌山羊を窓の外へと追い出す。そこで待ち構えていた四番隊の隊員たちが迎撃する。

 人間の男よりもふた周り以上大きな光沢のある魔物。ルセーネが圧倒されている間に、聖騎士たちは手際よく攻撃して、ダメージを蓄積させていく。


「邪魔だ! 救護隊の奴がこんなとこに突っ立ってんじゃねーよ!」

「ひっ、ごめんなさい……!」


 見知らぬ顔の聖騎士に怒鳴られて肩を竦める。一応、聖騎士の制服を着てはいるのだが、救護隊の人と間違われたようだ。ルセーネの顔を知らないということは、四番隊の人だろう。


 ルセーネは完全に手持ち無沙汰だったが、迷惑をかけないように端に寄り、戦闘の様子を黙って見ていた。


「ちょっとそこのあなた! そんなとこ突っ立ってないで手伝いなさい!」

「はい! すみません!」


 今度は、救護隊のひとりの女医に促され、慌てて手当てを手伝う。ルセーネは、雌山羊の牙で腕を負傷した男性の腕に、包帯を巻いていく。


 包帯を巻いたことなどなく、おまけに不器用なため、なんとも不格好な仕上がりになる。それを見た女医は再びルセーネを叱責し、「二度手間になった」とぐちぐちと嫌味を零しながら手当てをやり直した。


 屋敷に元々いた使用人だけではなく、怪我をした聖騎士たちも続々と救護用のテントにやってくる。ルセーネは一番隊の聖騎士のひとりに呼ばれ、大きな切り傷ができた足を消毒液で清めてやった。


「魔物討伐って……とっても危険なんですね。こんなに沢山の怪我人がいつも出るんですか?」

「あんな化け物と生身の人間が戦うんだ。怪我人も死人も出る。チビちゃんはそんなことも知らずにここに入ったのか?」


 危険な仕事だということは、無所属の退魔師として依頼を受けていたときからよく知っている。

 だが、ルセーネのような下っ端の退魔師は、下級のランクの中でもとりわけ弱い魔物を倒して生計を立てているため、上級の魔物を目にすることもなかったのだ。


 ルセーネはちらりとテントの隙間から覗く雌山羊を見た。


「お、おいチビちゃん! 手元ちゃんと見ろ!」

「わっすみません」


 魔物のことを考えていたら手元がおろそかになり、消毒液をどばどばと注ぐ。

 そんなルセーネに、あの女医の叱責が再び降り注ぐのであった。


 説教から開放されたルセーネは、汚れた水を捨ててくるようにと言われて、救護テントの外へと出た。


 今も激しい戦闘は続いているが、そこにルセーネが入る隙はない。今の自分にできることは、汚れた水を捨てて、綺麗な水を汲んでくることだけなのだと思い、重い桶を運ぶ。


「――お前も、あれと戦いたいか?」

「……!」


 戦闘から抜けてきたスルギが隣に立ち、汗を拭いながらそう言う。

 ルセーネは小さく頷く。


「私の力が、どこまで通用するのか試してみたいです」

「ははっ、おチビは度胸があるんだな」


 スルギは使い終わったタオルを置き、こちらに身をかがめた。


「俺が道筋を作ってやる。やってみるといい」

「……! いいんですか……!?」

「俺もお前の魔力が、どんな風に力を発揮するのか見てみたいからさ」


 そして、ルセーネはスルギの後ろに付いて走った。他の聖騎士たちは、なぜ新人のルセーネが魔物に接近することを認めるのかと懐疑的に見ていたが、ルセーネは構わず、雌山羊の目の前に立つ。


 振り下ろされる長い爪が伸びた前足。それをスルギが薙ぎ払いながら、「今だ!」と促す。ルセーネは右手に魔炎の丸い塊を生み出し、雌山羊の口内へ投げ込んだ。


 途端に魔物は悲鳴を上げて、内側から炎が燃え上がる。


(雌山羊の魔力が、私の魔力を押し出そうと抵抗してる……!)


 腕にびりりという感覚が走るが、ルセーネは奥歯を噛み締めて堪える。次第に、魔物はのたうち回り、弱っていく。光沢のある肌が、焦げ付いていく。

 ルセーネは魔力を注ぎ続け、雌山羊の魔力の抵抗がなくなったところで叫ぶ。


「スルギ隊長! 弱っているうちにトドメを!」

「新人のくせに俺に指図するとは、おチビはやっぱり肝が据わってるな!」


 スルギは一歩踏み込んでから跳躍し、身体をひらめかせながら、魔物を斬りつける。雌山羊はひときわ大きな咆哮を上げて絶命した。新人のルセーネの活躍に、聖騎士たちは呆然とする。

 特に、魔術師の入団を噂でしか聞いていなかった四番隊の驚きは大きい。


 だが、戸惑いによる静寂を真っ先に破ったのは――ルセーネだった。自分が注目を浴びていることに気づき、あっけらかんと微笑む。


「私は……新人聖騎士のルセーネです。救護隊の人ではありません。もし良かったら皆さん、覚えてください」


 人々に必要とされる魔術師になるためにはまず、王国騎士団の人たちに知ってもらはなくてはならない。


 あれほど強い力を見せつけておいて、驕ることなく、ふにゃりと笑ったルセーネに、聖騎士たちは拍子抜けするのだった。

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