7話
さしもの「虚」といえ、山を1匹作るには僕の魔力が持つかどうか分からん。ただ、すごい見てみたいというのはある。……いや、何。こうして悩んでるのは、きっと自分の中で答えがあるからだろう。あれだ、もう自分の中で買う方を決めているのに「どっちがいい?」って聞いてくる感じだ。
そんなものはぐずぐず悩むより行動したほうが早い。たとえ魔力不足でぶっ倒れたとしても、まぁ第一階層の子らがなんとか抑えてくれるでしょ。僕だってそれくらいの信頼はしてるさ。
……怖いのは未だ接続してない白光世界と暗黒世界がどんな感じに繋がるかというものだけど、その前に起きて仕舞えばなんら問題はないのだ。
さて、山はどんな感じにしようか。個人的には亀か蛇らへんがかっこよくて、モチーフとしてはピッタリだと思うのだが……しかし、魔力不足になった時が怖い。やろうとは思ったもののどうしても足踏みしてしまう。
……そうだ、時計なんてどうだろう。今まで必要ないと思っていたけど、今回は魔力不足になってから復活するまでの時間を計測するのが目的だ。
今回の実験が成功すれば、今日が大体何年目なのかというのがはっきりする。そうだ、そうしよう。
決まれば早い。安心安全の「虚」さんで時計……もといストップウォッチのようなものを作る。
外見は針がいくつか並んだアンティークな置き時計。
物静かで普段はあまり動かず、湧く範囲も普段の僕の生活圏あたり。
体で秒、分、時、日、週、月、年を刻んでいって……戦闘能力はなくてもいいかな。
久々の魔物創造だ、なんて思いながらいつものように体からスッと力が抜けてく様子を感じた。どうやら魔法は持ってないみたいでスライム君くらいの消費量だ。
ちょっとワクワクしながら待っていると、なにやら小さいギアがガチャガチャと湧いてきて、合体していった。
………………かっけぇ。えっ?……かっけぇ。
まさかの登場方法で少し驚いたけど、ちゃんと観察しよう。うん、大きめとは思ったけどまさか僕より大きくなるとはね。
しかし、その装飾は細かい。しっかりとアンティークの様子がありつつも、少しスチームパンクを感じさせる歯車の使い方。
さらに、歯車と連結した糸や棒などで歯車が回り時計が何個も連結してある。
外から見える部分は少しスチームパンクみは抑えてあるが、やっぱりかっけぇ。
黒い木製の箱に金の縁。僕の好みドストライクすぎる。
これには語彙力がなくなっていく。
ダメだ。ぼうっと眺めてしまって本来の目的を忘れるところだった。この時計君のカチカチと心地の良い音が頭の中に響いて、まるで春にする二度寝のような――
原因について考えると沼に嵌っていくという無限ループから抜け出す頃には、時計君に使った魔力もすっかり回復していた。
時計君を見る限り三時間程度だ。さっそく使うタイミングができて少し嬉しい。
下準備も全て尽くした。今の所一体しかいない時計君からも少し興奮したような様子が伝わってくる。
二人で協力する感じなので僕もワクワクしてきた。こっちにきてからはずっと一人であったし、魔物たちを創っても共同作業らしい作業はしてこなかった。
時計君も時間を測るだけといえば測るだけだけど、それは彼にしかできないことだ。頼りにする、ということがどれだけ心を支えることなのかしっかりと認識することができたよ。
さて、本題の山造り。蛇か亀かで迷ったけど、地獄には蛇の方が似合っていると思うから、蛇でいこう。その背中が山脈になっているほどの大蛇だ。
どこの神話か忘れたけど、地球を覆っているのは蛇みたいなものもあったはず。
ヤドカリ君のように自分の体の一部が岩になった蛇をイメージする。背中は立派な山脈となっていて、是非是非、地獄の空間いっぱいを存分に使ってほしい。
大陸一個分くらいは入るだろうからね。
大きさもさることながら、魔法ももりもりにする。大蛇君には地獄の地形管理を頼みたいから、そのために必要なものを与えるつもり。
まずは、砂や岩の形を変えたり、ある程度操れるようになる能力。自分の体も岩っぽい感じにして、ヤドカリ君の再生のように、自己再生を期待している。ヤドカリ君という先達がいるからこその選択だ。
次にマグマを操る能力。岩を操るのだからそれを溶かしたり固めたりして、自分にいい感じの環境造りをしてほしい。
願う前に、時計君をチラッとみてみる。常に変わらずカチカチと仕事をしている。実に安心させてくれるじゃないか。
お願いします――と普段はしないが、手を合わせて念じてみた。
ゆっくりと視界が暗転していく。もはや抜けてく感覚とかなかったぞ。
しかし、なるほど。このカチカチ音は心地いいな。まるで――