番外編
彼は主人の元で音を鳴らす。カチカチと鳴らしていても、それが主人に聞こえているとは思っていない。ただ、彼は主人がいつ起きてもいいようにと音を出している。
彼の主人は未だ目を覚ましてはいない。
彼の主人は彼の兄弟を産むと、意識を手放した。彼の弟は主人に会いたがっていたが、主人が眠っていることと、その理由は自分を産んだからであることを伝えられると自分を責めた。
いくら彼が想定の範囲内であった、と伝えても、申し訳ないと謝っていた。
しかし、弟だってこの世界の住人であることに変わりはなかった。主人の意を理解していたし、自らのなすべきことも分かっていた。
弟の自責の念は、主人より与えられた「第二階層の完成」という命を遂行するモチベーションへと繋がった。
彼は弟は非常に大きいということを兄達から聞いた。兄達は、ちょくちょく主人の様子を聞いてくる。直接ではないが、なんとなく思考やらなんやらを送ってくるのだ。
その中の世間話に、弟の話があった。
彼は主人のそばを離れることはできないため、この迷宮であったことのある者は、この始まりの部屋に元々居たスライム達だけである。
兄弟達はどんな容姿なのか、ふわっとしたことは元々理解できているが、直接目にしたわけではない。彼の主人が目を覚ました後の楽しみがひとつ増えた。
どうも弟は張り切っているらしい。主人の望んだ「第二階層の完成」という目標を掲げ、主人が目を覚ます前に目標を完遂させたいみたいだ。
他の兄たちは弟に感化されたようで、各々で独自の技術を開発したり、何体かで集まって連携
の練習をしたりもしている……らしい。
兄弟らは与えられたものだけで過ごしていては主人に申し訳ないということを思い始めたようだ。与えられたものからどう発展させていくか……主人が目を覚ました時に主人を驚かせることができるように。
彼もまた、自分には何ができるのかと考えた。
彼の弟が主人に会いに来た。どうも彼の持つ岩を操る力を用いることで、小さい分身を作り出したらしい。この方が主人か、とずっとひっついては離れなかった。
弟を見ることができて、彼もまた嬉しかった。
弟は自らの分身を大量に作り出し、洞窟の製作を行なっているんだそうだ。光源の位置と分岐の位置を組み合わせることで、分かれ道が影となって見にくくなる、とか少し坂にする事で溶岩を流せるようにする、とか色々自慢げに語りかけている。
弟がそこまで言うのなら……と彼は興味を持った。彼の楽しみがまた増えた。
弟が洞窟を完成させた数日後のことである。彼らの主人が目を覚ました。




