前日譚
――むかーしむかし、とある世界に三柱の神がいました。
一柱は白の女神で、光を司っていました。
一柱は黒の男神で、闇を司っていました。
もう一柱は灰の神で性別はありません。灰の神は、虚無を司っていました。
白の女神と黒の男神は常に争っておりました。その争いの激しさといえば、かの三柱が築きあげた世界をも壊しかねないほどのものでした。
初めはその世界を三柱とも愛していたのですが、白の女神と黒の男神がどちらが世界の支配者となるか、ということで争い始めたのです。
その世界は元々、白の女神が生命と創造を、黒の男神が死滅と破壊を。灰の神はどちらかに寄りすぎぬよう、丁度良いくらいになるよう調整を行っていました。
しかし、今まで仲介をしていた灰の神はついに怒ってしまいました。
灰の神は、世界から白の女神から生命と創造の力を、黒の男神から死滅と破壊の力を半分ずつ奪い取りました。
それから、世界を半分に分け、白の女神と黒の男神に半分ずつ分け与えました。
力こそ白の女神と黒の男神のものでしたが、その操作を実際に行なっていたのは灰の神でした。
なんとかして力を戻そうとしてもなんともなりません。
なんとかしてもう一つの世界を手に入れようとしてもどうにもなりません。
灰の神は言いました。
「白と黒よ。そんなにも争いが好きなら二人で争えばいい。それぞれの世界を成長させ、もう片方より強くすればいい」と。
しかし、灰の神は言いました。
「ただ、白と黒の世界の間は僕の世界だ。互いの世界を行き来したくば僕の世界を通っていけ。しかしそう簡単に通すつもりはない」
灰の神は二つの世界の間を作ることで二柱の争いを変えようとしました。灰の神は二柱の不毛な争いに飽き飽きしていたのです。
二柱はこの案に賛成しました。
勝利の条件は自分の持つ世界がもう片方の世界を征服すること。
そしてルールは自分や相手の世界にあまりに直接的な干渉を行ってはいけないということだけ。
最初は相手の世界の維持に使われている自らの力を戻そうとしていましたが、それも無理だと感じてからは自らの世界に自分の残った力を
まいたり、成長させたりしていました。
これが白の女神の治める世界「白光世界」と黒の男神の治める世界「暗黒世界」の始まりでした。
そんなこんなで力を蓄えている白と黒。しかしながら、灰の神は忙しくてなりません。二柱が持っているような世界のように元々あったものではないものですから、灰の神の世界は一からの創造です。とてつもない時間が掛かります。
そこで灰の神は思いついたのです。ここの管理者を任命してそいつにやって貰えばいいのでは?と。
元々、灰の神は二柱の戦いをずっと観察してきたほどの観察好き。怒ったのだって世界が壊されかけたからで、そうでなくば今でもずーっと見守り続けたいただろう。
であるからして灰の神は早速そいつに世界を作ってもらう準備を始めます。
一から作るよりもむしろ大変になっているのですが、灰の神は腐っても神。自分のしたいことがあれば猫まっしぐらです。白と黒の二柱から早くしろとせっつかれても、灰の神は黙々と作り続けました。
そうして神々の感覚でおよそ九日にしてようやく、世界の構築のためのシステムが完成したのです。
そして、灰の神は白の女神と黒の男神に新しい勝利条件を提示しました。
僕の使徒を先に殺した方……なんてどうだい?、と――
「というわけで、君の出番というわけさ」
「えっ……と、つまりは僕がその灰の神に任命された人ということ……ですか?」
「その通りだよっ!」
なんか気づいたら変な場所にいて、よく分からない昔話?を聞かされた。むしろよくここまで冷静でいられたものだ。
この目の前にいる小さい美……少年?少女?は灰の神らしい。
というか話の最後に聞き捨てならない言葉があった。
「待って待って、僕殺されるの?!」
「殺されないようにすればいいだけさー」
要約すると、全力で灰の神が作ったシステムを使って生き延びてみせろということだった。
やることはタワーディフェンスだけど、かかっているものが自分の命というのは重すぎなしないか。
「大丈夫さ、僕の使徒。人をいくら殺しても君は何とも思わないだろうし、そういった感情は湧かないようにしてあるから」
どこも大丈夫じゃないけど自殺されるのを防ぐ仕様らしい。
「まぁまぁ、ここで話し合っても何もできないよ?さぁ習うより慣れろってやつだ!」
あの神、なんの断りもなく飛ばしやがった。なんて思いつつも嫌な気持ちにはならなかった。これが使徒になった弊害というべきか、恩恵というべきか……