その名はヴィア 2
「ねえ、私の名前とか剣を珍しいって言うけど、エドワードさんの武器もかなり珍しいですよね。光剣なんてあなた以外で使っている人、ほとんどいないでしょう?」
「うん?ああ、そうだな。俺自身、自分以外ではあと一人しか知らないな」
「やっぱり使うのは難しいの?」
「興味あるのか?」
「うん。今回の件みたいな場合、私の剣では致命打を与えるのに時間がかかるから。光剣が使えたら私自身が討伐できる魔物の幅が広がるかなって」
「そうだな……使い所を選ぶ武器ではあるけど、使えると便利ではある。でもなあ。君の剣ほどじゃないけどちょっと特殊な武器でね。種類としては魔法剣に近くて、本人の適性と相性に依存するから、誰でもが使えるものじゃないらしいんだ。買ったのはシュトラール島で、魔力を発している希少鉱物ステラを柄の部分に使っていて、それを媒介して使用者の適性により使えるかどうかが決まる」
「それで適性と相性か。つまりそもそも魔力がないと問題外だし、あってもステラの魔力の波長と使用者の波長が合わなければ使えないって事だよね」
「………………」
「あれ?違ってた?」
「いや、合ってる。凄いな。この説明で一発で理解してくれたのは君が初めてだ」
「そうなの?」
「ああ。うちの団員でも未だピンときてない奴が多くてな。難しい事は分かんないっす!なんて言うんだ。まったく」
「いいじゃないですか。自分が使うものについては知らないと時に危険だけど、使えないなら問題ないよ」
あっけらかんと笑いながら言う。こうして話していると普通の女の子に見えるが……と、エドワードは頬杖をついて興味深そうにヴィアをジッと見つめた。見つめられているヴィアの方はというと、突然真面目な顔で見られ、どうしたのかと首を傾げた後にハッとした表情を浮かべ、慌てて手を口の周りから頬にかけて撫でる。
「もしかしてパンくずとか付いてる?ああ、もう私ってば。ここの食べ物が美味しくて、ついがっついて食べちゃってるから。特にこの牡蠣のコキーユ!(グラタンの一種)レシピ覚えて仲間にも食べさせてあげたい!」
その雄叫びは店内中に響き、一瞬シーンと静まり返った後に皆が笑い出した。
「そうかそうか。ヴィアちゃん、うちの島の食べ物を気に入ってくれたのか。嬉しい事言ってくれるねえ」
「そういやムール貝の買い付けに来たと言ってたな。島を助けてくれた礼にサービスで牡蠣も持っていきな。丁度大粒の良いやつがあるんだ」
「ヴィアちゃん、ちょっと厨房においで!こんなの簡単なんだから教えてあげるよ」
「え?いいの?!嬉しい!」
厨房から笑顔で顔を出した恰幅のいい女性に手招きされ、ヴィアは嬉しそうに立ち上がった。
「エドワードさん、話し中にごめんなさい。ちょっと行ってきていい?」
「もちろん。また戻ってきてくれるならね」
「戻ってきますとも!エドワードさんと話すの楽しいから。じゃあ行ってきまーす!」
そう言い置いてヴィアは厨房に向かった。その後ろ姿を見ていると、一人の男がエドワードの背後から近付いてきて、突然頭頂部に拳骨を軽く落としてきた。
「ってー!突然なんだ?!……あ」
やがて満面の笑みで厨房から戻ってきたヴィアは、そこでエドワードと話している人物に目を留め、「あっ」と声を上げた。その声に男二人が気付いて同時にヴィアの方を見る。
「ランドルフさん!迎えに来てくれたの?」
「ああ。野郎の飲み会は夜通し続くからな。適度な所で連れ帰ろうと思って来たんだが、まさかエドがいるとはな」
「「え?」」
ヴィアとエドワードが同時に驚き、ヴィアはエドワードを、エドワードは“ランドルフ”を指差して「知り合い?」と聞く。
「俺とエドは10歳から18歳まで同じ学校に通っていた、まあ、昔馴染みってやつだ」
「相変わらず素直じゃないな。普通に友達だって言えよ。で、お前と彼女は?」
「ランドルフさんは私のチームに所属してくれている仲間なの」
「と、いうわけだ」
「……え?えぇーっ?!ランディが?自分で団を立ち上げるんじゃなくて人の下に?……ウソだろ。本当に凄いな、ヴィアさん」
「そんなに驚く事なの?」
不思議そうにヴィアがランドルフを見上げ、それからエドワードを見る。
「うん。まあ。実力があってプライドも高いから自分が認めた相手じゃないと絶対に下につかないんだ。だから」
「当たり前だ。何故自分より上だと認められない相手に頭を下げなければならない。バカバカしい」
「って事はヴィアさんは上だと認めたんだな」
「頭は下げてないぞ」
「うん。下げてないね」
クスクスと笑いながらヴィアに言われ、ランドルフはそっぽを向く。昨日今日知り合った仲ではなさそうな雰囲気だ。
「ランディ、急ぎじゃないなら座ったらどうだ?久し振りに一緒に飲もう」
「エドの奢りならな」
「お前の酒量くらいなら構わないよ」
笑顔で席を勧められたランドルフは、まずヴィアの椅子を引いて彼女を先に座らせてから自分も座った。その様子をぽかんと見ていたエドワードに、ランドルフは「なんだ?」と不機嫌そうに聞く。
「いや……本当に彼女に敬意を払っているんだなと。そもそも一体何があってお前がヴィアさんのチームに入ったんだ?無論、お前の国が学校を出た後遊学を推奨しているのは知っているが、魔物討伐チームに所属する者は滅多にいないだろう」
「まあ、成り行きだ」
「成り行きでその態度ね。俺はお前がどういう奴かある程度は知っているぞ。よっぽどの事があったんだな」
「そう思うなら聞くな」
気心が知れた風の二人のやり取りを、ヴィアは頬杖をついて楽しそうな顔をしながら聞いていた。それに気付いたランドルフがヴィアの方へ視線を向けた。
「すまん。リーダーをそっちのけで盛り上がって」
「え?なんで?他人の話を聞くのは楽しいよ。それだけでも案外その人がどういう人か分かったりするし」
「お前のそういう発言は怖いな。どういう人間に見えているのかと」
「ランドルフさんはハッキリものを言うし、とっつきにくいと思う人もいるだろうけど、なんだかんだで優しいし面倒見いい人だと思ってるよ」
ヴィアはニコニコと即答した。ランドルフはなんとも複雑な表情をし、それを見たエドワードが吹き出す。
「あっははは!当たってる当たってる!」
「うるさい。じゃあエドはどうなんだ?」
「うーん?今日会ったばかりの人だしなあ。真面目な人なのは分かるよ。あと……」
突然口籠ってエドワードをチラッと見ると赤くなり、俯く。彼は昔から女性にそういった反応をされる事も多い見た目をしているので、好みの容姿だったのかと思い、ランドルフは次の言葉を待った。
「あとね、好きな声だなあって」
「……声?」
ああ、なるほどとランドルフはすぐに納得をした。数年前まで目が見えなかったヴィアは、目より耳の情報に頼る習慣がついている。声のトーンでその人の機嫌から発している言葉が心からのものかどうかまで、ヴィアにはバレてしまうのだ。ゆえに『声が好み』というのは彼女にとって顔が好みと同等の意味を持つものと思われる。一方のエドワードは思わぬ褒められ方をして照れて動揺していた。女の子に告白された事は幾度もあるが、声が好きと言われたのは初めてだ。
「なんだ。俺は先に戻った方がいいのか?エドがちゃんと送ってくれるなら構わんが」
向かい合っている二人で照れているもので、ランドルフが真面目な顔をして言った。
「迎えに来たのに初対面の男の所に置いて帰るのは無責任だろう。何しに来たんだ、お前は?」
「お前は初対面の女相手に手を出す人間じゃないと思っていたんだがな。まさか置いて帰ると出すつもりなのか?それなら連れ帰るぞ」
「そうは言ってない!と言うよりも俺は明日スクードに帰るんだ。もうそろそろ宿屋に戻って寝るよ!」
「なら最初からそう言えばいい。何をムキになる?」
「そもそもランディが先に帰るなどと言い出すから!」
そうして二人で言い合っていると、いつの間にやら場が静まり返っていた。それに気付いた二人がハッと周囲を見ると同時に皆が笑い出す。
「はっははは!ヴィアちゃんモテモテだな。どっちにするんだ?」
「いいわねえ。私もこんないい男二人に取り合ってもらってみたいわ」
「団長、珍しいっすね。今まで初対面の女の子を連れ帰った事なんてないですよね」
「スクードの女の子達が泣きますよー!」
……言いたい放題である。「まったく」と呆れ顔のエドワードと「ふんっ」と不機嫌顔のランドルフの顔を交互に見て、ヴィアも声を立てて笑う。そんな彼女を見て“いい男”二人も顔を見合わせ笑った。
先週が中途半端な所で終わっていたので、今週も引き続きこの作品を投稿しました。
で、今回もまだ中途半端なので、とりあえずキリがいい所までは、あと1〜2回続けてこちらを書こうと思っています。
なのでCrimson Snowの続きは来月にまた、よろしくお願いします。