89 メリディ・オーナル
着いた頃にはお昼になっていた。スローが一時間も離してくれなかったから…。
食堂はあるかな。私は食べないし、子供はパンでいいや。ああ、私の食育…日本にいたときもこんな感じ。
道ばたに腰掛けて、子供にパンを食べさせていると、トラブルはやってきた。私たちのところで馬車を着け、二人の兵士とともに、身なりの良い男が、馬車から降りてきた。
どうせ、遊んでやるとか、俺の嫁にとかでしょ。はぁ。私は心の中でため息をつきながら、警戒を強めた。意識さえ失わなければ対処できる。
ところが、男は何も話しかけてこないまま、私の方を見ているだけ。私も男を警戒して観察。男は二十代、くすんだ銀髪で、なかなかのイケメン。男はずっと待っているようだったけど、しびれを切らしたのか、声をかけてきた。
「…こちらから話しかけることをお許しください。わ、私はこの領を賜っております、フォーサス・センソルズ子爵と申します。…あ、あなたはもしや、メリディ・オーナル王女殿下ではございませんか?」
「へっ?」
予想外の言葉に、私は声を裏返してしまい、同時に立ち上がってしまった。
「ひぃっ、お許しを…」
メリディ?それが、この身体のもとの持ち主の名前?
オーナル?家の名前?
王女殿下?あっ、やっぱりお姫様なんだね。
えっ?お許しを?イケメン貴族、私の前にひれ伏しちゃったよ。私の方を恐る恐る、ちらっと見上げる。
メリディ、怖い人?
「あの…頭をお上げください。あなたは、私のことを知っているのですか?」
「は、はい。遠目ではございますが、成人パーティで」
なんだか私が王女だと確信があって、恐れているみたい?私のこと教えてくれるかな?
「すみません、私、自分のことをよく覚えていなくて…記憶がなくて…」
「はっ?記憶がない?」
「はい…、身につけた物から、なんとなく王女だった気がするのですが…それだけです」
「あ、あなたの容姿、その髪色。あなたは間違いなく、オプテイシア王国のメリディ・オーナル第三王女殿下とお見受けします」
「そんなに珍しいですか…」
「その髪色は、他の王族でもございません。それに…、そのお美しい姿…」
「そ、そんなにですか?親とか姉妹とそんなに違いますか?」
「記憶がないのであれば、姉殿下や女王陛下のことも忘れておられるのでしょう。それは、とても不安でしたでしょう」
「はい…」
美しいなんて言われたことないから、なんて応えればいいのか分からなくて…。でも悪い気はしない。
「ねえママぁ、パン、もう一個~」
「私も~」
ゆうきとあいかは、私の後ろで黙々とパンを食べていた。話長くてごめんね!




