85 変身魔法
「そろそろ、孤児院を出て行こうと思います」
「そうですか…。そういえば、生活が安定するまでと言っていましたね。あなた方が来てから丁度二ヶ月くらいですね」
「えっ?俺は聞いてない!」
「あら、十五歳までずっといるのかと思ってたわ。私より早く出て行くのね…」
「コネットだって十五歳を超えても、ここにいてよいんですよ。十五歳で出るというのは、もっと孤児が多かった、昔のルールです」
「私は独立できるわ」
「美奈子お姉ちゃん、出て行っちゃうの?私、寂しい」
「うん、今までゆうきとあいかと遊んでくれてありがとう」
「えっ、ゆうきとあいかも出て行くの?せっかく僕にも妹ができたと思ったのに…」
「うん、二人は私の子供だから。あと、さくらも」
「えっ?僕とあいかも行くの?」
「私、ここにいる」
「「うわーん」」
君たち、ママと行かなくていいの?ママ悲しい…。って、この姿だから、やっぱりママと認識してないんじゃないの?あっさりママと受け入れたと見せかけて、自分に都合がわるいからって、こんなときにママってこと忘れるなんて…、さすがうちの子…。
「じゃあ俺も…、いや何でもない…。なんで美奈子が出て行かなきゃならないんだ」
「私、記憶が少しずつ戻ってきたんです」
「やっぱりどこかの貴族様だったのかしら?」
「えーっと、ちょっと違う」
私はあらかじめ、ストレージ内で一番豪華なドレスに着替えて、ドレスを着たままの形状でアイテムボックスに瞬間移動させていた。姫様のティアラ付き。
そして今着ているお忍びドレスの範囲と、豪華なドレスの範囲の、和集合を「瞬間置換」した。瞬間置換は、以前獣の肺の空気と二酸化炭素を入れ替えたときに実証済み。
これには一つ不安材料があった。豪華なドレスの形状と、今の私の体勢が微妙にずれていたとき、体内にドレスが混ざり込んだり、私の身体の一部が削り取られたりしないかということ。
そこで、岩と袋で事前確認してみた。潰れた袋の中の空間と岩を置換したら、岩の形状に合うように、袋が膨らんだ。懸念したことは起こることなくて、拍子抜け。ちなみに堅い箱で同じことをやったら、箱は割れてしまった。
そもそも、瞬間移動だって、移動先は真空じゃなくて空気がある。空気は勝手に押しのけられてるみたいで、体内に空気が入り込んだりしない。
こうして数々の実験を繰り返して、私はドレスを一瞬で着替えられるようになったのだ。
この日のために練ってきたパフォーマンス。それは変身魔法!対外的には、ストレージ魔法。アイテムボックスがなくても、形状が変わらないようにして、瞬間移動はストレージゲートのスライドで代用すれば、誰でもできるんじゃない?
一瞬で変わるのでは何も面白くないから、光の精霊魔法できらきらエフェクトを付与。着替えはゼロ秒でできるので、一瞬たりとも裸になったりしないので、まぶしくて変身シーンの詳細が分からないなんてごまかし方は必要ない。だから、あくまで視覚エフェクト。音声エフェクトはない。
皆の見守る中、神々しい光とともに現れたのは、どこかの国のお姫様。




