83 旅立ちの理由
あれから一ヶ月ほどたった。さくらの首も据わったよ。普通の人間より少し早いね。獣の血はそういうところで有利だと思うけど、私の血は逆効果だよね。たぶん、父親の血筋だけなら、もっと早く行動できるようになるんだろう。
お金を稼ぐ手段は得た。十分なお金も貯まったし、いざとなれば姫様のストレージにある宝箱をあさればいい。封印とか言ってたの誰だ。いいんだよ、ああいうのは普段は存在してないと思っていて、あ、そういえばあったね!的に使うもんなんだよ。って、そんな考えを持ってる時点で、それは成り立たないけど。
この世界の一般的な魔法も使えるようになって、超能力、というか古代魔法のカモフラージュもうまくなった。あれ、古代魔法ならごまかす必要ないじゃん。なんてことはないか…。物理化学なんて学問は、ないに等しい。
さて、もはや、孤児院に居座る理由がない。強いて言えば…情が移ってきてしまった。誰だよ、いつでもぎゅっとしてあげる、なんて言ったやつ。今思えばちょっと恥ずかしいな。
最初はお金の稼ぎ方だけ教えてもらって、すぐに去るつもりだったんだ。でも、みんな良い人だったんだよ。神父さんは私たちを無条件で受け入れて、魔法を教えてくれた。コネットとスローには仕事を教えてもらった。コンデとインダスは、ゆうきとあいかと遊んでくれた。スローには命を救ってもらったこともあった…。
もう!出て行きづらくなっちゃったよ!このままここに居座っても…。
でもね、私はこの身体のことが知りたい。私が生きていくのに一番大事なことなのに、それがよく分からない。この世界に来たときからの問題。
それから、この身体のもとの持ち主、女神様…じゃないや姫様のことが知りたい。知り合いに会えれば、自分のことが分かるかもしれないし。姫様に成り代わろうと思っているわけじゃない。姫様ごっこは、たぶん無理。
そして、それを知るためには、お隣の国、オプテイシアに行かなきゃならないと思ってる。魔王に滅ぼされたっぽいけど…。大陸全部滅ぼされたとも限らないし。何か情報は残ってるでしょう。騎兵もいたし。
私たちがこの世界に連れてこられた理由も分かるかもしれない。でも、それはあんまり気にしてない。日本にいたときは、仕事が辛かったし、子供たちも学校や勉強が嫌いだった。私も子供たちも、たいした友達がいなかった。だから、日本にあまり未練はなくて、のんびり過ごしていけるなら、この世界でもいいと思ってる。
あとは、出て行くための設定を考えよう。記憶が少しずつ戻ってきて、どうやらお隣の国のお姫様で、行ってみれば記憶を思い出すかもしれない。どう?完璧でしょう。最初の頃のヌルヌルの設定とは大違いだね。
いや、よく考えたら、設定とかじゃなくて、ほとんど事実だった…。




