81 男子の愛と母の愛
「あ!さくら、ただいま!って、私はまた、おっぱいもあげずに、一日も留守にしちゃって…。悪いママだよね…ごめん」
私は教会の物置部屋に瞬間移動した。寝っ転がったまま瞬間移動したけど、出るときに向きを変えられるみたいだ。じゃないと、惑星の裏に行ったとき、ひっくり返ってしまうからね。いや、ここは惑星じゃない説が濃厚だけど。
それで、椅子があったかなと思ったんだけど、なんか椅子じゃないものの上に座ってしまったみたいで、不安定だ。
そして、下に何があるか確認しようと思って見下ろしても、いつも二つのメロンしか見えない。だから今回も身体をよじって、視界を確保すると……
「はわわわわっ、スロー、いたんだね!ごめん、重いよね!どくね。あ、ただいま」
「ああ、おかえり。いいんだ。おまえは重くない。退かなくていい。ずっと、こうしていたい。おまえがいるってことを、肌で感じていたい」
商人の娘から脱出してきたばかりだってのに、今度はスローにがっしり捕まってしまった。今日は捕まってばっかだなぁ。あれ、日付またいだかな。
「す、スロー、詩人だね…。だけど、スロー、ちょっと痛いよ」
「ご、ごめん…。あれ、おまえ、寝間着で連れてかれたのか…」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど…」
「何かおかしなことされなかったか」
「大丈夫。おかしなことは…」
最後はすごくおかしかった…。
「……もう少しこうしてて良いかな」
「スローは甘えんぼさんだね」
「おまえがもう、どっかに行ってしまわないように、ずっと離さない」
「大げさだなあ。私そんなに危ないことしてないよ」
「どこで何やってたんだよ…」
「そりゃぁ、………奴隷商人にさらわれて、一緒に捕まってた女の子二人を逃がしてあげて、奴隷商人をギルドに突き出したら、逃がした女の子に、遅いから泊まっていけって言われて、ついて行ったら、今度はその女の子に捕まって……ああ、思い出したくない」
「それは危ないことじゃないのか……」
「えっと…、危ないときも…あったかな…」
たしかに、気を失ってる間に何かされる可能性はあったんだ…。
「……ほんと、いつも危ないことばかりしやがって」
「ええっ?それじゃ私がいつも自分から危ないことに首突っ込みに行ってるみたいじゃん」
「その通りだって言ってるんだよ」
「…だって、さらわれたのは不可抗力…。ってか全部不可抗力だよ。」
「珍しいこともあるんだな」
「えー?私、この世界に来てから、災難に見舞われてばっかだよ」
「世界?」
「あー…、この国ってこと。」
「この国に来る前は、もっと安全に暮らしてたのか?」
「あ…、んー…、この国に来る前のことは、よく覚えてないや」
「そろそろ…」
「待って…ずっとこのまま…」
「ダメだよ。神父さんに帰ったこと伝えなきゃ」
「そうだった…」
「ホント、甘えん坊だなぁ。分かったよ。こうしてほしいときは、いつでもしてあげるよ」
「ええぇえっ?そ、そそそ、そんな」
「甘えん坊の子供をぎゅっとしてやるのは、ママの勤めだよ」
「ママって…。ゆうきとあいかが、勝手に呼んでるだけだろう」
「私、ゆうきとあいかのママだよ。あとさくらの」
「育ての親ってことか?」
「ああ…、うん、そんな感じ。あああ、さくら、おなかすかせてるー」
「そうか…その年で子供を育ててきたなんて、大変だったんだな…」
「ん、そうなのかな…」
スローがいると授乳できないじゃん…。
「ねえ、もう神父さんとこ行くよ」
「うん、ごめん」
「じゃあ、ぎゅってしてほしくなったら、言ってね」
「えっ、あ、うん…」




