7 キックスターター
「ママぁ、ばぁばんち、いつ行くの?」
「ばぁばんち、はやくぅはやくぅ」
…どうしよう。この格好で親には会えないよ。
「これ食べて、ちょっと待っててね」
アイテムボックスからお菓子を出してごまかそう。
皆で車の席に着いて、しばらくぼけーっと考えていると、ゴゴゴゴゴと地鳴りが。ルームミラーをのぞくと、馬だ。馬に乗って鎧をまとった騎士だ。
女神様の能力開発と美奈子の遺体処理が優先だったから、他のことはあんま考えないようにしてたんだよ。
この道は間違いなく高速道路なんだけど、一時間以上、車が通ってないんだ。だからこそ、路側帯に移動しようとか言ったのに、いつまでも追い越し車線にいるし、道路の真ん中で魔法のパフォーマンスはするし…。
それに東北道のこの辺は森か田んぼだったはず。それが見渡す限り荒野なんだ。
さらに、車の時計は二十一時なのに明るいし。冬休みなのにミニスカートでも寒くないし。ラジオはざーざー言っているし。スマホもGPSもつながらないし。それだけなら地球の反対側とも考えられるけど。
あと、髪の毛の色ね。いや、最初からそれが決定打だった。こんな髪色の人間は地球にはいないし。ここは地球じゃないと、うすうす感じてたよ。
どうやら騎兵隊はSTIの姿に気がついているみたいで、こちらへ向かってくる。逃げなきゃ。
車のエンジンをかけよう。クラッチを踏んで…あれ?堅くて動かない。壊れた?いや、女神様が非力なだけか…。であれば、念動だ。よし、押せた。そして、イグニッション・スタート!ぽちっとな。
うぉんっ……。それはエンジンが一回転だけ回った音。
「ぎゃあああああ、バッテリー上がってるよ!」
気がつかなかったけど、エンストしたまま二時間ナビがついたままだった。室内灯だけなら一日くらい保つのは知ってる。子供が何度もいたずらして、やらかしてるから。でもナビは何倍も電力食うから、あっという間にバッテリーが空っぽに。
こんなことをしてる間にも、騎兵は迫る。なんとかしなきゃ。バッテリーなしでエンジンをかける方法。キックスターター!エンジンを人力で回す!そして女神様の力仕事と言えば念動。
どこに力を加えれば良い?外から見ても判らない。中から透視で見ればいい。
エンジンのピストンを見つけた。水平対向エンジンは、どちらの回転方向が前進か判りにくかったけど、つながっているギアやクラッチ、シャフトをタイヤまでたどって、回転方向を断定。
よしっ、気を取り直して、クラッチを念動で押しながら、イグニッションボタンを指で押しつつ、エンジンピストンの一つを両サイドから交互に押して、往復させる。
うぉんうぉんうぉん。もっと速くピストンを往復させる。
ぶぉおおおーん。よし!水平対向エンジンの念動キックスターティング、成功!