55 危機 二
スローはイノシシに突き飛ばされて、腕が変な方向に曲がっている。早く治療しなきゃ!
その間にも、イノシシは方向を変えて、再び向かってくる。迷っている時間はない。私は意を決した。
イノシシの首から上を、少し上に瞬間移動。大量の血が噴き出して、私の身体にかかった。やっちゃった…。もっと他の方法があったのに。以前思いついて、やるまいと思った方法だったのに…。
それよりもスローは無事?意識はない。皮膚は軽い擦り傷ばかりだけど、腕の骨が折れてる。透視で体内を見てみる。肋骨が折れてる…。
「ヒール!」
擦り傷がみるみるうちに治っていく。でも透視で見る限り、骨折は治らない。神聖魔法の魔導書にも書いてあった。ひどい怪我は治らないと。それなら!
ヒールが表面の傷しか治せないのは、見えているところしか治るイメージをできないからだ。私は透視で骨と血管、神経やその他の細胞を見て、それらがくっついて修復されるのをイメージして、もう一度ヒールを唱えた。
精霊さんは、あ、ヒールは神聖魔法だから、神様はイメージした結果を実現するための過程を手伝ってくれるけど、結果がちゃんとイメージできなければ、余計なことをお節介でやってくれるわけではない。
もう大丈夫かな…。険しかった顔は落ち着きを取り戻している。
透視の第三者視点で見た自分の姿。これはスローに見せられない。皮膚や服についた、イノシシの血液を、瞬間移動で海底へ。
血を拭ったら、自分にも擦り傷があった。他にも打ち身やひねった筋やら。スローは手加減してくれただろうけど、この身体はひ弱ですぐ傷つく。自分の傷ついた部分を透視しながらヒールを使った。
イノシシは…。とっさにやったこととはいえ、トラウマになりそう…。ごめんね、海に帰ってね…。
スローを膝枕で寝かせて、しばらくぼーっとしていた。
すると、またイノシシが来た。透視の監視も、匂い流出防止も忘れてた。
しばらく血は見たくないな…。昨日開発したウォータービームも、今朝覚えたソイルアローも、使いたくない。
空気中に常に存在する毒ガス、二酸化炭素。濃度が高ければ、すぐ気絶してくれるはず。
念動で周辺の二酸化炭素を集めて、イノシシの肺の中の空気と二酸化炭素を瞬間移動で入れ替えて、気道を流れないように固定。イノシシは少しもがいたあと、すぐに倒れた。




