26 名前の意味
「おやおや、どうしましたか。つらいことでも思い出しましたか?」
涙が止まらなかった。名前がなくなった気がしただけで、何かが変化したわけではないのに。
「そうだね…。私は美奈子だね。」
「…思い出せてよかったですね。名前の雰囲気からして…、どのような字を書くのですか?あっ、字は書けますか?」
羊皮紙?と筆を渡された。
「はい、こういう字を書きます。」
「なるほど、美奈子さんですね。字がきれいですね。やはりかなりの教養をお持ちのようだ。ゆうきさんとあいかさんは、どのように書きますか?」
私がそのまま、「ゆうき」と「あいか」と書く。
「ひらがなで書くんですね」
「はい、名前を書くのを煩わしく思うことがないように、ひらがなの名前を私がつけました」
「そうですか…。こちらの赤ちゃんは?」
「この子は、さくら。さくらにします。薄ピンクの髪の毛が、桜のようなので。でもひらがなでさくらです。」
「今名前を決められたんですね。よかったですね。…桜?」
「私の村で春になると木に咲く花なんです」
「はぁ。春?」
「あっ、私の村には毎年訪れる季節なんです」
「季節…」
いや自分の村にしか訪れない季節ってなんだ。設定が崩壊してきたよ。あれ?所々言葉が通じないよ。
………むしろ、なんで言葉が通じてたの?
ちょっと!今まで何で気がつかなかったかな。最初に言葉を聞いたのは、滅びた島から透聴で聞いた、漁師の雑談。そのあとも、透視で町を散策しながら、雑談を耳にしていたのに。
それら全部日本語だったよね。どういうこと?
神父さんはどんな字を書くのかと聞いてきたから、漢字を認識してる?あ、でもそれは、中国語とかなら、あり得る質問か。西洋っぽい人だからって、ラテン語系とは限らないしねえ。
「す、すみません、この国で使われている言葉の名前は何というのですか?」
「この国はインテラス王国といいます。使われているのは日の本語ですよ。中央のオプテイシア王国では、日本語と呼んでいるらしいですが、ほとんど同じです。今お聞きしたお話の中に、私の知らない言葉がありましたが、オプテイシア王国の日本語由来の言葉かもしれませんね」
「そ、そうなのかもしれません。た、確かに船で連れてこられたような記憶が……私たちはオプテイシア王国から来た…」
本当に日本語だったんだね!でもその国は魔王に滅ぼされてたよ。そんな情報は、一〇〇キロ海を隔てたこの島には、まだ届いてないか。




