2 転生?憑依?
私が動いても、鏡の中の私は目をつぶったまま動かない。私が自分の顔を指で触ると、鏡の中の女神が私のマネをして、顔を指で触る。私は自分の手指を見る。ほっそりしていて綺麗な指。シルクのような肌の手。
車の外に出て、サイドミラーで自分の姿を見てみる。映るのは女神のような美女。身長が一七五センチくらいありそうな大人。股下は一二〇センチ、十頭身のスーパーモデル体型。そして、肩幅よりも大きな胸。
ややウェーブがかった、光沢のある明るいパステルカラーのピンク髪は膝ほどまである。引っ張ると痛いので、ウィッグじゃない。そう、さっきから転びそうになって前屈みになるたびに、何か視界の端でピンク色のものがちらちらしていた。それは髪の毛だった。
大きくてぱっちりとした目に覗く瞳の色はほんのりピンク。
女神というよりは、キューピッドとか天使が着てそうな衣装。ボトムスはミニスカート。大人の顔つきや体型に反して、ちょっと子供っぽい服装。それにサイズも合ってなくて少しパツパツ。
「これが私なの?こんな美しい人間、見たことない…」
声に出してみると、少し高めで透き通るような甘い声。外見に反して少し子供っぽい声。
頬はつねらない。さっき髪の毛を引っ張って痛かったし、だからといって夢でないとも限らない。
じゃあ運転席で寝ているのは誰?恐る恐る運転席のドアを開けると、座っているのはやっぱり私だ。運転席の私は息をしていないし、脈もない。うわぁ私、なんで死んじゃったかな。死んで召されて女神になったの?
車を運転してるとき十九時を回ったのは覚えてる。そして今、車の時計は十九時半だ。まだ三十分しかたってない。でもこのままだと死後硬直とかして、やがて腐敗してしまう。嫌だよ、自分の死体が腐敗するのを見るなんて。だからといって自分で自分を埋葬するのも無理。どうしたらいいの?
タイムリミットは迫っている。早くなんとかしないといけない。でもとりあえずここは高速道路の真ん中だ。せめて路側帯に移動したい。
そのためには美奈子の身体を運転席からどけて、女神になった私が座らなければならない。シートベルトを外して、助手席に押しやってみる。びくともしない。重いよ美奈子!…うるさいよ、余計なお世話だよ。女神の身体全体で美奈子の身体を押しながら、そっちに行ってよと考えていたら、美奈子の身体が突然消えて、私はバランスを崩してこけた。見上げると、美奈子は助手席にいた。