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ゲンの姿が女であったのを認めても、驚きの声をマサヨシもオーイシもあげなかった。
パチパチと、暖炉の中で薪が音を出し、響く。暖炉の中の火が怪しく、素顔のゲンを照らす。
浅黒い肌に、切れ長の目を持ったその女オークは、間違いなく、ゲンであった。
いくら顔を布で覆っても、目は変わらない。
マサヨシはある程度の驚きが心の中にあったのである。今の今まで共に行動していたゲンが、女であるというのはなかなかに衝撃ではあった。が、まだ、知り合って間もないというのもあって、それほど大きい衝撃ではなかった。そして、もう一つ、別段、ゲンが女であっても問題ないということである。
マサヨシがゲンを旅の仲間として連れているのは、あくまで、狩人としての腕をかっているからだ。
だから、別にゲンが、女であっても問題はないのである。
「その、騙すようで悪かった」
「別に騙されてもないから、いいよ」
マサヨシはゲンが顔を隠していた理由について聞きたくなった。
が、その顔を見たままに、聞くのは憚れ、暖炉の中へと目線を移した。
あまり、マサヨシが女に慣れていないというのもある。
「オン案のオークは初めて見た」
「あまり、見たことないだろう。オークは男のほうが多いイメージだからな」
「あぁ、まぁ、そうだね」
「あと、この細腕だ」
ゲンは己の腕を曲げ、力こぶを作って見せた。
男のマサヨシからしてみても、かなり太いが、ゲンは細腕と呼んで笑う。
「女のオークで、この腕では戦いに参加できない」
「そうか? 十分に太いと思うが」
「大斧を震えるほどの腕じゃない」
だから、と、言葉をつなげながらゲンは傍らの弓を手に取る。
「これしか使えない。だから、部族から追い出された。オークらしくないという訳だ」
「事情が色々あるんだな」
「ヒトと一緒だ。お前も酔狂な事だからな。色々と事情があるだろう」
「まぁ、そうだなぁ」
暖炉の火を見たままに、マサヨシは同意した。
そうして、暖炉の火を見つめているうちに、いつしか、マサヨシは眠ってしまっていたらしい。
気が付くと、外は明るく泣てきており、暖炉の火も消えてしまっていた。
簡単な食事を済ませ、山小屋を出立する手はずを始めた。
ゲンはその長い髪をひとまとめにし、布で栗んで、顔を隠したりと手間取っていた。
これから、とくに理由がなければ布をとったりすることを頼む必要はないな、とマサヨシは思った。
小屋を出たとき、布で顔をすっかりと隠したゲンを先頭に雪の降る山道をゆっくりと登っていく。彼女が歩いた跡だけは、しっかりと雪が踏み固められているので、マサヨシは歩きやすくて助かった。が、それは油断である。
どさっと枝に積もっていた雪が落ちて音を立てて落ちてきた。
雪の塊は、マサヨシの近くに落ち、あやうく、頭に落ちてきたらと考えると、ぞっと、背筋が冷たくなる。
「あとどれくらいで楽になると思う」
「さぁな。そう遠くないだろう」
ゲンはそっけなく、くぐもった声で言った。
やはり、女には見えない。が、それこそが失礼に当たる気がする。
ゲンはゲンでしかない。狩人のゲンであるだけだ。
そこに他の属性は不要であるからこそ、ゲンは顔を隠すことにしたのだ。
「おい。見ろ」
ゲンがいきなり、声をかけてきた。
下に向けていた目線をぐいとあげると、ちょうど、道の先をゲンが指差している。
指差す先には、一つの石像がある。その石像の頭には雪がしっかりと積もっている。
「道標だ。あれを超えれば、あとは下りだ」
その言葉をマサヨシは信じるしかない。が、ゲンを信じるという前提がマサヨシにはすでにあった。
しっかりと一歩、ゲンの歩いた跡に、足を進めた。
そして、二人して、その道しるべの前に、峠のてっぺんに立つのだった。
振り返り、歩いてきた足跡へと目をやる。
しみじみと、足跡を見ていたマサヨシの胸を、どんと、ゲンは拳で叩いた。。
「あとは下りだ。下りこそ、気をつけろよ」
「任せてくれ」
どん、とゲンの肩を叩き返し、にやりとマサヨシは笑みを見せた。
体調を崩したので、少し遅れました
書き溜めもなくなった