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 広場で立ち往生して、少し経つが、マサヨシはまだ生きていた。

 相変わらず、途絶えた足跡を見る形ではあるが、動くに動けない。しかし、少し時間が立って冷静になれば、自然と思考が落ち着き考えがまとまる。このまま、動かずにいても射かけられるだけであるし、動かなければ状況は変わらない。


「おい! 見ているのか!」


 選択したのは、声をかけることだった。

 何を馬鹿なことを、という考えもあったが、それよりも選んだのは対話だった。もちろん、考えなしという訳ではない。

 一つは、敵対していないことの表明だ。自らに敵意がないことを、マサヨシは相手に知ってもらおうと考えた。もう一つの理由は、確認である。これでもしも反応があれば、まだ、交渉の余地がある。会話の余地がある。逆に、ないようであれば、もう逃げるしかない。

 そうなった時、手段は選ばないつもりだ。


「何もしない! 話をしたいだけだ!」


 反応はない。

 もしや、もう居ないのではないか。

 あくまで、足跡を偽装しただけにすぎず、追跡者を返り討ちにするつもりなどはないのではないか。

 そんなことを考えたときだった。


「伏せろ」


 オーイシが囁いたのが聞こえ、咄嗟に屈んだ。

 風切音と共に、さくっと雪の上に何かが飛んできた。

 矢だ。

 間違いなく、居る。


「悪くないな。いい腕だ」


 オーイシが感心するような声を出した。

 雪の上に伏せたが、たいして変わらない。隠れるところはない。

 まさしく絶好の狩られる状態だ。


「俺は敵じゃない!」


 と、訴えかけるしかできない。

 が、それは効果があると思っていた。一つは、矢が飛んできた箇所だ。

 それは、別段、マサヨシを狙ったものではないのは明確であったからだ。別に直感という訳ではない。ただ、狙ったにしては場所が離れすぎていて、マサヨシの立っていた場所を狙ったとはとても思えないからだ。ならば、交渉の余地は十二分にあると思っていた。


「話がしたいだけだ! 俺はマサヨシ! 話がしたいだけだ!」


 その呼びかけの後、とくに返答も反応も、なかった。

 流石にもうどこかへ立ち去ったのだろうか。

 そう、思った時だった。

 サクリと、雪の上を歩く音が聞こえた。

 耳をすませば、間違いなく、二足歩行の足音である。


「動くな」


 くぐもった声が聞こえる。

 目線だけを向ければ、雪の上を確かに人影が進んでくる。間違いなく、村で見た人影だ。

 思っていたよりも、みすぼらしい服装のその人影は、ゆっくりと近づいてくる。

 手には弓を持ったままである。その弓に矢をつがえているので、いつでも射かけられるようだ。

 指示には従うしかない。


「話がしたいというのは、なんだ」

「興味だ」

「それだけならば、だいぶと勇敢だ。本当の目的は」


  くぐもった声が聞こえる。

 そして、弦が引き絞られた。

 顔を雪から上げて、人影を見た。何重にもマフラーを巻いて、首から上は何もうかがえない。

 ただ、緑色の、深い森のような緑色の目が見えた。



「そうだ。一つは興味、そして、もう一つの目的は、勧誘だ」

「勧誘?」

「そうだ。誘いだ。メリットもあるぞ」

「とても、今のお前が、何かを提案できるとは思えないがな」

「そうだろうか。狩人ならどうだ、この冬は厳しいか」


 弦がビリビリと鳴くのをやめた。

 しんしん、と雪が降る。


「悪くはないが、良くもない」

「だろうな。少し前に、狼を見た。彼らは皆、飢えていた」


 ふっと、人影が笑い、空気が緩む。


「狼をまるで人間みたいに呼ぶとは思わなかった。それで、どうした、その狼を狩ったか」

「いいや、逃げた。そんな勝てるような人間に見えるか。雪の上に這いつくばっているのに」

「それもそうだな。だが、見せかけかもしれない。話がそれたな、続けろ」


 いい兆候だ。狩人は、マサヨシの話に興味を持っている。

 ただし、気を抜くことはできない。


「この冬を終わらせられるとしたら、どうする」

「脳みその代わりに、雪が詰まったのか? それとも、私の耳に、氷が詰まったのか」

「どちらでもない。もう一度言うぞ。この忌々しい、雪がなくなったら楽だと思わないか」


 雪を一掴みして、開ける。

 ばらばらと固まった雪が、落ちた。

 迷っているのが沈黙から読み取れた。


「俺は今、旅の途中だ。雪の女王に会いに行く」

「雪の女王だと? そんなおとぎ話を信じているのか」

「おとぎ話かどうかは、確かめて決める」

「信じられない。そんな物に命を賭けているのか」

「だが、誰かがしなければならない。この冬を終わらせなければならない」


 狩人は迷っている。

 間違いなくだ。しかし、それは、あくまで、マサヨシが正気か狂気かの判断だ。


「もしも、冬が終われば狩りはしやすくなる」

「そうだな。なるほど、それで、勧誘というのは」

「腕のいい狩人がいれば、食料調達が楽になる」


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