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ペロとご主人と

作者: 円形リタ

ずっと考えてたんですけど、別れた彼女が心変わりする確率って何%でしょうね。

 「 きて  さい」

誰かの喋り声が聞こえる。どこか聞き覚えのある声。 でも誰かは思い出せない。


「もぉ  は  く  さい」


寝ぼけているからか全然頭の中に入ってこない。 一体この声はどこから聞こえてきてるんだ?


「お か   たよ  きて  さい」


...え? ちょっと待って。 もしかして、俺テレビつけたまま寝ちゃったの? 


マジかよ。 近所迷惑になっていないと良いけど。 ただでさえ犬の鳴き声がうるさいってことで文句言われるのに。


「8時ですよ!! 早く起きてください!」


あぁ、確実に消し忘れてるわ。 朝からテンション下がるなぁ、まだ起きてすら無いのに。 あーもうやる気無くした。


「ペロぉ、テレビの電源けしてぇ」


寝起きの成人男性特有の寝起きのガラガラとした声が飼っている犬ペロを呼ぶ。


「もぉ!! 私どうやれば良いかわかんないですよ!! ご主人がやって下さい!」


駄目みたいだ、あの駄犬め。 今度テレビの電源を消す訓練をさせてやる。


「仕方ない、そろそろ起きるか。」


いつもよりも重い身体を起こし、腕を上げ肩を伸ばす。


上手く開かない目をなんとか開き窓の方を見る。 カーテンの隙間から差し込む日の光が眩しいと同時に暖かさも感じる。


「さて、顔でも洗うか。」


「おはようございます! ご主人!!」


相変わらずテレビはついてるなぁ。 夢であって欲しかった。


動きが鈍い身体を時間をかけて動かして、リビングへのドアを開ける。


「えっ」



そこには液晶画面に何も映っていない、テレビの姿があった。 正確には反射したリビングと俺の姿が映っていた。


「おいっ。 冗談だろ?」


「あのー、お腹すいたんですけどぉ」


音は流れていると言うことは。


「壊れてんじゃん!!」


「わぁ!!」


最悪最悪最悪  頑張ってお金を貯めて買った12万もする液晶テレビだぞ!? 何で画面だけ壊れたんだよ!!


液晶テレビの液晶が壊れたら一番駄目だろ!!


体から力が抜けていくのを感じる。 膝から崩れ落ちているのにもかかわらず俺の体は一ミリも動かない。


「大丈夫ですか!? ご主人!!」


画面映んなかったらラジオじゃん。 伝わんないじゃん。 今どんなドラマが流れてんのかすらわかんないよ。


てかご主人って何? 普通さ、様をつけるんじゃ無いの? 最近の流行は様を付けないの?


「......もういいや、後で考えよ」


せっかくの土曜日なのにテレビもどきのラジオに構ってちゃ勿体無いからね。 しょうがないね。


「とりあえず、電源消すか」


テレビのリモコンの左上にある赤い電源ボタンを押す。



「おはようございます。午前8時、サッパリのお時間です。 今日の天気は......」


点いた。



......え? 何で点いたの? バグ? でもこんなバグ聞いたことないしなぁ。


じゃあさっきから喋っていたのは一体誰だ?


「あのぉ、何やってるんですか? ご主人。」


「私もうお腹ペコペコなんですけどぉ」


ほらっ、この声。 



......っえ? 怖くね? えっ何、朝から心霊現象に遭っちゃうの? 土曜日だよ? 休日だよ?


「もう!! さっきから何で無視するんですかぁー!!」


急に誰かに肩を掴まれる。 情けなく驚いて体が跳ねる。 本当に心の底から見たくないが体が反射的に振り返る。



そこには少女がいた。 少女と言っても小学生ほど幼いわけじゃない。 大学生くらいの体型なんだけど、顔が幼い、所謂童顔という奴か?


ペロと似た銀色にも似た白髪のポニーテールの少女がいた。 目の色はこれまたペロと似ている薄いブルーだ。


「って、そうじゃなぁーい! え!? 誰!? 何でいんの? どうやって入った!! 何が目的だ!!」


朝起きたら目の前に少女が居たらどうするだろう? 俺は多分夢だと思って一緒に添寝をお願いしていただろう。


童貞だから。 いや、彼女はいたよ? いやでも、ほら、俺紳士だから。 ......まぁ結局、レスが原因で、別れちゃったんですけどね(笑)


って違う違う。 あまりの衝撃的展開に脳がパニックを起こしている。 寝ぼけているならともかく意識がはっきりしている時に知らない人が家にいたら誰でもこうなると思う。


「なんか今日はいつにも増して、元気ですねー」


こいつは俺の何を知っているんだ? 確かに朝起きたらまず一曲アカペラで歌ってるけど。 ....もしかして、聞こえてたの?


「だって、いえのなかにしらないひとがいるんだもん!」


焦って呂律がうまく回らない。


「え!? 何処にいるんですか!? その侵入者は!!」


「お前だよ!!」


思わずツッコミを入れてしまった。 てか今のツッコミ、結構レベル高いんじゃない? “大島だよ!!”のギャグにも匹敵すると思う。


「え? お前って私のことですか?」


「そうだよ」


「え? ご主人、もしかして私の喋っていること理解できるんですか?」


「え、何? 馬鹿にしてんの? できるよ。」


「......うれしい!! ご主人ーー」


謎の女はこちらに向かって飛び付いてくる。 俺は咄嗟のことに対応できず、なす術なく抱きつかれてしまった。


てか、柔らかいし、暖かいし、なんか良い匂いもする。 こんな事されてるんだから誘ってるんだよね? そうだよね?


「ご主人ーー......」


抱きついたまま女は、俺のことなのかご主人と連呼している。 ...てか、ウチのペロは何処行った。 あのヤロォ、侵入者に気付かずに寝てやがるな。


「あの、そろそろ離れてくれない? そろそろ限界なんだよね。 色々と。」


「あっ、すいません!! つい嬉しさで...。」


話は通じるみたいでよかった。 このまま今晩のご飯がお赤飯になることを避けれたぜ。


「で。 君は誰なの? 俺のことご主人とか呼んでるけど」


「え? 分かんないんですか? ペロですよぉ、ペロ。 ほら、貴方がくれた首輪もちゃんと付けてるでしょ?」


「いや、それは流石に無理があるって...。 ペロは犬だし。 ペロにあげた首輪も白い首輪だし、それ赤い首輪じゃん。」


「え? 私どう見ても犬でしょう? 深夜に見てるビデオのせいで目玉が腐っちゃったんじゃないですか?」


「いや、どう見ても人間だし。 あと君は僕の何を知ってるんだい? 僕は深夜にはイマジネェーションを育む為にNHCの”英語で喋るnight”を視聴してるんだ。 」


急になんだよ。 びっくりして口調も変わっちゃったよ。 あと口悪りぃな、親の顔が見てみたいわ。


「ほらっ、みてみてよ人間でしょ? はいっ、分かったらお家に帰ってねぇ。」


スマホの自撮り機能を使って彼女自身の姿を見せる。 百聞は一見にしかずだ。 使い方あってるよね?


「......人だ。 人になれた。 私! 人になれました!!」


「やったぁーー! これって私がご主人を想う気持ちが神様に通じたんですかね!?」


彼女は泣きながら喜んでいる、どうやらただ事ではないみたいだ。 仕方ない詳しく話を聞いてみるか。


.

.

.


 「って事は、君は犬のペロだったけど寝ている間に人の姿になっちゃったって事?」


頭のおかしいことを言っている。 でも俺とペロしか知らないようなことも知っているという事は本当なのかもしれない。


しかし、なんで人間になっちゃったんだろう? 昨日何かあったのか? それとも神様の奇跡的な何かなのか。 


そういえば昨日は何してたっけ? どのお気に入りを鑑賞しようか考えていて......何を選んだっけ? 確か、OLさんがイチャイチャしてた奴だったか。


あれ結構お気に入りなんだよね、パンストの魅力が引き出される美人っていいよね。 


って、そうじゃない。 その後は確か......寝たな。 ぐっすり寝てた。


それ以外に思い出せない。 ていうか何もしていない。 って事は原因は不明か。


「らしいですね! でも私、この姿がとても気に入っています!! だってご主人に私の思いが伝わったんですから!!」


「まぁ、気に入ってるなら良いんだけど。」


「もちろんですよ!! こんな贈り物をもらって喜ばない犬っころはいませんよ!!」


所々口悪りぃな、本当にペロかぁ? 


 「そんな事より、お腹すいたんでご飯食べません?」


「良いけど、お前人間の身体だからドッグフードじゃ駄目だよな?」


「はいっ、あんなのは要らないです。 あれ何なんですか? 食感は一辺倒だし、クセェし。 何であんなクセェ奴しか出さないの? 嫌がらせじゃんって思ってました。」


「凄いね、お前。 よく今まで人間に大人しく従ってたよ。 俺はこんな狂犬を飼っていたのか、怖くなってきたわ。」


「おまけにご主人は良い匂いのする、色んな食感のご飯を食べてましたよね?  あれ、何で虐待にならないんですか?  家族を自称するんだったら、同じものを食べるべきですよねぇ。」 


「怖いよ。 分かったよ、これからいっぱい美味いもん食わせてやるから。 それでチャラにしてくんね?」


「それで良いんです。 ご主人は口悪りぃけど、ちゃんと優しく接してくれるから好きです。」


あれ、どっちが飼い主だっけ? 何かコイツ、やると言ったらやる凄みがあるな。 


 

 「何これめっちゃ美味い。 ご主人、普段からこんな物を食べてたんですねぇ。」


何か紫色の視線を感じるけど無視してよう。


「まだ食べ足りないなら言ってな、まだ沢山あるから。」


「このかれー?って料理めちゃ美味いですね!」


「昨日作ったからな、コクが出てさらにうまくなってると思う。」


「おかわりいいですか!! ご主人!」


「はいはい」


意外と戸惑わずに接せてるな。 もしこのままペロが人間だったら、どっかの男と付き合ったりすんのかな? 何か、親父の気持ちが少しわかるな。



 「ふぅ、なんかやっと落ち着いたな。」


「大丈夫ですか、ご主人? 健康には気をつけてくださいよ?」


「まぁほとんどお前のせいなんだけどね。」


「ねぇねぇ、ご主人。 お出掛けしたいです! 買い物!! ウィンドウショッピング!!!」


「えーやだよ。 こういう晴れの日は、日の光はあったかいけど、風が冷たいんだよ。 これじゃあウィンドショッピングだな!! ガッハッハ」


「クソつまんねぇギャグを聞かされて気分が害されたのでお詫びとして買い物に連れてってください。」


「......はい、分かりました。」


こいつっ。 いつか主従関係をはっきりさせてやるわ。


.

.

.

 

 という訳で一番近いショッピングモールへやって来た。 ペロの服は本人の熱い要望に応えて俺のTシャツとジーンズを着せた。


「ねぇねぇ、ご主人!! あっちのお店見てみましょ!!」


元気すぎる。 犬の時はあんなに元気だったか?


そっか...犬の時はちっちゃい身体で激しく動くから早く疲れるんだな。 それに気付ける俺って賢くね?


「ねぇご主人はやく。」


「分かったよ。 今行くから、何処の店が見たいんだよ?」


「これ良くないですか? 個人的に一番気に入ってるんですけど。」


「首輪じゃん。 もしお前が付けるならやだよ。 変態みたいじゃん。」


「えーでも、もうすでに付けてますよ?」


やめろ。 急にポニーテールを上げてわざわざうなじを見せるな、ドキッとするだろ。 


「てかお前本当に首輪無くしてないだろうなぁ? 俺お前に白い首輪しかあげた事ねぇぞ。 その赤い首輪どうしたんだよ?」


「実は、知らない女の人からもらったんですよ。」


「知らない女ぁ?」


「本当ですよ!! てかその時ご主人も居ましたよ!」


「は? あぁ、多分それ彼女だわ」


「彼女?」


「そうそう、今は別れて連絡も取れてないんだけどな。 多分首輪くれたのそいつだな。」


「そうですか...」


「嫉妬すんなよ。 お前家に女を呼ぶ度に噛み付いてたから困ってたんだよ。」


「そりゃあしますよ!! 自分はいくらご主人に話しかけても伝わんないのに、連れてくる女狐共には楽しそうに喋ってたんですから」


「分かったよ、なんか美味いもん食わしてやるから許してくれよ。な?」


「それで良いんです。 後ついでにこの首輪も追加で。」


「...分かったよ。」


.

.

.

 「ふぅぅ。 楽しかったですねぇ!!」


「久しぶりに休日らしい過ごし方したな、結構楽しめたわ」


「ご主人、仕事以外はずっと家にいるんですもん。 たまには外で遊ばないと。」


「散歩行ってたろ。」


「それは...ありがとうございました。 あとご主人が外で遊ばないのは友達がいないんじゃなくて私が心配だったからっていうの分かってますから!!」


「やめて、恥ずかしいから。 その言い方だと犬しか友達がいないみたいじゃん。」


「あっ!! そうだ、ご主人! 今晩のご飯は私に任せてくれませんか?」


「あ? 良いけど作れんのか?」


「さっき本屋に寄った時に勉強したんです! だから大丈夫ですよ!」


心配だけど...失敗も成功の母か。 


「分かったよ、ほら金。 これやるから食材とか買ってこい。」


「はいっ!行ってきます!!」


.


.


.

 

 日も暮れ空は真っ暗だ。 大丈夫か、あいつ?


「ただいま帰りましたー!」


噂をすればなんとやらか.... なんとやらの部分って何だっけ?


「おう、おかえり。 遅かったな」


「いやー、お肉屋さんが肉の処理にてこずってて...」


「何の肉を買ってきたんだ?」


「ふふんっ、食べるまで秘密です!」


「分かったよ、じゃあ時間もちょうど良いし早速作るか?」


「そうですね! 肉の鮮度が落ちる前に作っちゃいましょう!」



 「で、何を作るんだ?」


「はいっ! ビーフシチューを作ってみようかと。」


初めて料理する奴が作る料理じゃないな。


「ビーフシチューか、良いんじゃね? 手間もかかるだろうし手伝ってやるよ」


「あぁ... いえ、結構です。 隠し味も買ってあるので手伝っていただく事はできません!」


「そうか、何かあったら呼べよ」


「はい、ありがとうございます。」


.

.

.


「でっきましたー!! ペロちゃん特製ペロペロビーフシチュー ~ペロっと平らげちゃえ~ です」

 

「何で料理名にサブタイトルが付くんだよ。」


「ほら、~イタリアンパセリ~ を添えて的な奴ですよ」


「ちょっと違う気がする。」


「まぁ、そんな事はさておき。 早速食べちゃいましょう。」


「あいよ」


「いっただっきまーす」


「いただきます」


「どうですか? 美味しいですか?」


「ん? あぁ味は美味いよ。」


でもこれ何の肉なんだ? すっげぇ獣臭さが残ってんな。きっと熊肉とかそういう奴を隠し味として入れようとして処理をちゃんとしなかったんだろうな。


まぁ、でもシチューの部分は美味い。 身体の芯からあったまるような、何だか身体が火照ってるようだ。


シチューの暖かさで温まったのだろう。何だか下半身に溜まるものがある。


「それは良かったです。 結構お肉屋さんも処理が難しいって言ってて不安だったんですよ」


「まぁ、初めて料理作った人の料理にしてはめちゃくちゃ良く出来てるよ」


「本当ですか!? うれしいーー!」


今までの食事で一番楽しいかもしれない。 ペロがもし犬に戻らなくても俺はずっと面倒見てやろう。


....何だろうこの違和感は? ペロの首輪が赤い首輪からさっき買った青い首輪に変わっている。


元は白かった赤い首輪...。今は何処に行ったのだろうか?


そういえばこの肉は結局何の肉なんだったんだろうか?















ほのぼのしてた雰囲気なのに違和感を感じてしまいましたね......そういえばペロって女の子だったんですなぁ

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