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シスコンの苦悩

不毛な時間ではなくなりました。

中陳と妹との関係性について少し加えました。

 

 翌日の昼休憩

「神坂さん、お昼食べない?」

「ごめん、深沢さん。私、今日も屋上で食べる」

「今日もかぁ……。じゃあさ、一緒に食べない? 二人で食べたほうがご飯も美味しいよ!」

「悪いけど昼は一人で食べる派なんだ。ごめんね」

「そっかー。残念。また一緒にご飯食べようね!」

「うん、ありがとう。それじゃあ」

 相変わらずの冷たい返答をし、教室を後にする神坂。

 深沢もよく毎日、めげずに誘い続けるものだ。

 そこがまたいい部分なんだが。

 さて――。


「今日も屋上か」

 神坂が屋上に向かったのを確認すると、後を追いかけるように屋上への階段を上がる。

 ストーカー混じりのことをしている自覚はあるが、それほどの大切な用があるのだ。

「おい」

 すると、背後から突然声を掛けられる。

 ……バレたか⁉


「翔、飯も食わずにどこ行くんだよ?」

「……なんだち〇こか」

 いきなり話しかけられたからバレたかと思ったぞ、偽善の心友よ。

「なんだとは失礼だな! まさか反抗期ってやつか⁉ お母さん悲しいわっ!」

「悲しむところそこ? 自分で言っといてなんだが、あだ名は気にしないのか?」

 ていうか、なんで僕の身の回りのやつらは母親を名乗るんだ?

 と、いま話している厄介で煩わしくて面倒くさくてはた迷惑なやつは中陳智樹。

 中学からの腐れ縁でなにかと僕のことをかまってくるやつだ……。え、説明それだけだって? いやもうこれくらいしか説明ないだろ。あ、それと重度のシスコン。

「そういえばお前、僕にまたデマ流しただろ。おかげで後輩に吐き気がするとまで言われたんだからな」

 あれは僕のちゃん付けが主な原因ではあったが。

「どのデマかは分からんが、それは災難だったな!」

「どのデマか分からない。だ、と……?」

 他にもデマがあるということは、日頃、中陳から様々なデマかもわからない情報を吹き込まれている僕の頭の中は侵食状態にあるということになる。

 しばらくは意図的に異性を褒めることが迂闊にできないじゃないか……。

「それはそうと一緒に飯食おうぜ! なんせ今日の弁当は愛妹特性のウィンナーが入っていてだな……」

「悪いが今日は無理だ。妹さん自慢のウィンナーだけいただきたいところだが生憎、その時間すら惜しいと感じるほどに今日は忙しいんだよ」

「おいおい嘘だろ? 俺意外に友達なんて居ないはずだ。まさか……彼女か?」

「もうそれでいいわ。そんじゃな」

 こんなやつに付き合っている暇はない。

 さっさと階段を駆け上がり始める。

「ちょっと待て」

 すると、中陳に半ば強引に腕を掴まれる。

「なんだよ。僕、急いでるんだけど……」

「俺にも彼女、紹介してくれ」

「は?」

 彼女でもない神坂を紹介しろと?

「誰でもいいから、俺に彼女を作ってくれ」

 なんだ、そっちか。

「そんなこと言われてもな」

「頼むよ~! 俺だって彼女欲しいんだよぉ~! 誰かフリーの人いない? 彼氏募集中みたいな欲求高めな人!」

 急に態度を変え、欲を欲するままに縋りついてくる。

 欲求高めな人って趣旨が変わっている気がするんだが……。

 だが――。

「彼氏募集中……ね」

「心当たりの人がいるのか⁉」

 いることにはいるが……。

「欲求高め、というか欲求しかない人ならいるぞ」

 すまん紗枝ねえ。今度コンドーム奢ってやるから許してくれ。

「おおおお‼ ぜひ紹介してくれ‼」

「必死だなお前……」

 舞い上がってはいるが、こいつはそれ以前に――。


「紹介するのはいいけど、妹さんはこのことを知ったらどう思うかな?」

 重度のシスコンなのだ。

「妹、ねえ……」

 中陳は目に見えて怪訝な顔をする。

「なにかあったのか?」

「いや最近妹が俺に隠し事してるみたいでさ」

「隠し事の一つや二つ普通あるもんじゃないのか? 家族だとしても。気に病むことじゃないだろ」

「そうかもしれない……けど最近の妹の態度を見ていると、どうしても昔と比べちまうんだよ」

「昔も塩対応されていたんじゃなかったのか?」

「信じられないかもしれないけど、昔は妹とめっっっさ仲が良かったんだ。お兄たそって呼ばれるくらいに」

 お兄たそは盛ってない?

「でも時が経つにつれて妹は俺の元から離れていくんだ。巣立っていくんだよ。まるで(にわとり)のように……」

 それを言うならツバメな。鶏は飛びません。

「仕方のないことだと自分でも理解している。けど、どうしても感じちまう」


「変化を自覚してしまうと、寂しく感じちまうんだよ……」

 いつものバカ面からはかけ離れた表情で、物淋しく窓の外を見つめていた。

「なに似合わないこと言ってんだか……」

 なんでも窓の外見ればいいってもんじゃないぞ。ヒロインでもないくせに。

「なあ、翔はどう思う?」

 そんなの僕にだって……。

「……ってやべ、こんなこと話してる場合じゃねえ。僕はもう行くからな!」

 廊下の時計を目にし、本来の目的をすっかり忘れていたことに気づく。

 今日中に言っとかないとせっかく決心した決意が鈍っちまう。

 中陳を振り払うように階段を二段飛ばしで駆け抜けてゆく。

「おい待てよ! まだ話は終わってないぞ⁉ 俺を一人にしないでくれええええええ!」

 後ろから断末魔が聞こえてくる。

 彼女が作りたいのか、妹と仲良くしたいのか、僕を引き留めたいのか、一体どれなんだか。

 しかし家族、か……。


 耳が痛い話だ。


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