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敵わない後輩。そして、姉登場。

 

「そんなことが起きていたんですねー」

「ああ、意外だったよ」

 否定する可能性まではなんとなく把握していた。

 だが、あそこまでの完全否定は想定外すぎたのだ。

「意外、でしたか」

 話を聞いた恋美は顎に手をあて、存外楽しそうな笑みを浮かべている。

 しかし、どうして恋美はこんなにも楽しそうなのだろうか……。

 そういえば前、推理ものが好きって言ってた気がするな。見た目に反して全く読めない。

「で、その神坂先輩は今、誰にも話しかけられない【ぼっち】ってことですか?」

「いや。深沢が毎日、話しかけてるよ」

 あの後、徐々に人が寄らなくなっていき、ついには一人になった神坂だったが、一人だけその異色の人物に対して、積極的に交流しようと試みていたのが深沢愛梨だった。

「でも、それって愛梨先輩の一方的な会話ですよね?」

「まあ……そうなんだが」

 深沢が一方的に話しかけ、それを塩らしく返す神坂。

 それを会話と呼ぶにはあまりにも乖離していた。

「で、先輩はその様子をただ茫然と傍観していただけと」

「いや……うん、まあそうだな」

 実際その通りなのでぐうの音も出ない。

 僕自身、話しかけようとは思ったのだが、今の関係性って一体なんなのだろうと深く考えてしまうと、つい引き下がってしまうのだ。

「で、コンドームのことについても聞けてないと?」

「さすがに聞けないだろ……個人のことだし……」

「はあ……これだから童貞は」

「すまん。……あれ、童貞関係ある?」

 それは聞き捨てならないなおい。

「でも、なんか拍子抜けだなー。もっと面白い話かと思ってましたよ」

「勝手に期待したお前が悪い」

 腕を頭の上に組み、「けー」と愚痴を垂れながら、つまらなそうに3の唇を見せる。

「ちなみに聞くが、面白い話というとどんな感じのだ?」

「そりゃー……例えば、先輩が愛梨先輩をエロい目で身体の隅々まで舐め回すように観察していたら、その隣にいた神坂先輩に思いっきりジャーマン・スープレックスを決められるとか。ですよ」

「そ、そんなストーカーまがいのことするわけないだろ……ははは」

 あぶねえ……ニアピンじゃねえか……。そんでもって恋美の中では神坂はプロレスラーか何かか? まったく、勘のいいガキは嫌いだよ。いや、プロレスラーではないと思うけど。

「というか先輩、さっきから疑問だったんですけど、彼女に対しての態度がそもそも変わってません? 初めて会ったときは緊張も緊張で超ガクブルでしたよね?」

「はっ……確かにそうかも……」

 特に意識していなかったが、確かにその通りだった。

「……なんだろうな。僕もはっきりとまではわからないけど……たぶん、歌手と同級生の違い、じゃないかな」

「と、言うと?」

「歌手としての神坂水名子は好きだし、尊敬に値する存在だからこそ、緊張もした。けど、同じクラスの神坂美成子は歌手じゃない、ただの同級生だ」

「だから、その違いだと?」

「ああ、たぶん。恋美も同級生になら緊張もしないだろ?」

 それは、あの時の緊張が嘘だと錯覚してしまうほどに。

 まるで別人で。

「緊張するものはすると思いますけどね。たとえ、立場が同じになったとしても」

 僕も同様にそう思う。

 しかし、同級生としての神坂美成子が不思議と接しやすかったのもまた、事実なのだ。

「とりあえずよくわかんないですね」

「当の本人もわかってないから大丈夫」

 僕自身も違和感はあるにしろ、彼女との交流に居心地は悪くないと思っているのかもしれない。

 でも――。

「でも、そんな神坂先輩は転校そうそう、クラスメイトに嫌悪感を持たれてもおかしくないマイナスイメージなことを言った。と」

「まあ……そうなんだが。それは別にいいんだよ」

 実際、彼女の発言したことは間違いではない。

 クラスメイトである、あのグループからあまりいい噂を聞かないのも事実なのだから。

 だが、そんなことはどうでもいいことであって。

 本当に気になっていることはそこではなかった。


「でも、神坂のやつ――僕には普通に接してきたんだよ」

 まるで気があるように。

「ゴムのことをバラされたくなかったからの単なる口止めのため。ですよね」

「でも、わざわざ面と向かい合って話してきたんだよ」

 剣道をやるわけでもないのに。

「礼儀正しい人なんですね」

「でも、名前で呼ばれたんだよ」

 会って間もないのに。

「へー。名前呼びですか。フレンドリーな方なんですね」

「いやあの名前呼びだよ? ファーストネームだよ⁉ 小学生の頃、せっかく勇気出して女子にちゃん付けで名前呼んでみたら「それ私の名前じゃない」って蔑んだ眼をされながら言われたあの名前呼びだよ⁉」

「先輩、それ普通のことですよ……ていうか、それは先輩がただ単に名前を間違えただけでしょ」

「とにかく! 普通のことだとしても年頃の男の子は意識しちゃうんだよ!」

 純粋無垢な男子高校生限定でアンケートを取れば9割の支持を得られる自信すらある。※童貞、リア充以外に限る

「じゃあ先輩、私には意識しなかったってことですか?」

「そりゃあ、恋美だからな。意識するわk……いや、それだけフレンドリーってことだよ」

「なんかさっきの話とちがーう! しかも先輩、今言い直しましたよね⁉ 別に先輩なんてどうでもいいけど男子友達と同認識って事がなんか悔しいです‼」

 頬を膨らませながら両腕を振り、プンプンしている。

「気軽に話せる仲ってことだよ。これからもよろしくな!」

「今すぐその目障りなグッドサイン辞めないと、先輩が本棚整理してるふりして少年誌のグラビア写真に頬緩みまくりで見とれてたこと愛梨先輩に言いふらしますよ?」

「すみませんごめんなさいそれだけは勘弁してくださいよろしくお願いいたします」

「後輩に向かって全力で土下座しないでくださいよ、先輩……」


「でも、大体の流れは把握しました。が、一つ疑問があります」

「なんでしょう?」

「なんで先輩は、私にこの話をするのを避けていたんですか?」

「避けてはなかったと思うけど……」

「いーや、確実に避けてました。あんなくっさいお世辞言うほど避けていたのがなんでか、その理由だけ知りたいんです」

 くっさいお世辞だったのか。うっまいお世辞だと思っていたのに……。

 だがここは正直に言うしかあるまい。

 なんせ相手はあの愛垣恋美。嘘をついたとしてもすぐバレて、事実を吐かせるまで退くことを辞めず粘着してくるのがオチだろう。

「僕はただ、神坂がコンドームを購入したことを恋美が知ったら、公に言いふらしたりして、学校で問題になるんじゃないかと思って心配でだな……」

 正直、日頃の行動を観察しても、恋美は口が重いのか、軽いのか分からないので僕の中で信頼性に関してはまだ不確定な部分があった。

「……先輩は心配性ですねー。言いませんよ、そんなこと」

「ま、言わないならいいんだが」

「先輩のエロ本冊数は言うかもですけど」

「どうかご慈悲を……!」


「で、先輩はどうするんですか?」

「どうするってなにを?」

「しらばっくれないでください。神坂先輩のことについてですよ。このまま放っておくんですか?」

 放っておく……か。

「なぁ……どうすればいいと思う?」

「私に聞かないでください。そのくらい自分で決めてください」

「そんなぁ……」

 現役女子高生の頼みの綱が……。


「あなた達、さっきからなにを話しているの?」

「げ。紗枝ねえ……」

「げ。とは失礼ね。息子の恋路を聞いちゃダメなのかしら?」

 この妙に上から目線な態度の彼女は九条紗枝里、このコンビニの店長だ。

 父が店を営んでいる時からこの店で働いているため、コンビニ歴は長い。

 両親は小さい頃に事故で亡くなってしまったが、紗枝里が保護者として僕を引き取ってくれ、今でも紗枝里と二人でアパートに同居している。

 そのため血は繋がっていなくても、紗枝里は家族のような間柄だ。

 まあ保護者と言っても、母というより姉のような存在だが。 

「恋路って……内容聞いてたのかよ」

「ええ、多少はね……恋美ちゃん詳しく教えてもらえるかしら」

「あ、そうですね。店長に解決してもらえばいいんじゃないっすか」

「いや、お前それはちょっと……」

 というか、なんだよ「っすか」って。恋美のやつ完全にめんどくさくなってきやがったな……?

「なに恥ずかしがってるんですか。恥ずかしがるようなことじゃないですよ。どうせこの人には隠し切れないだろうし……」

「まあ、それもそうか」

 加えて小声でなにか聞こえた気もするが、きっと気のせいだろう。

「それじゃあ、かけ君の【ドキドキ⁉ハーレムパラダイス! 俺が世界のありとあらゆるラブリーを制覇する!】話を聞こうじゃないの」

「勝手に話を膨らませないで⁉」


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