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僕の大好きな修羅場展開()

 

 初っ端からここまで修羅場続きの物語は果たして他に存在するだろうか。

「…………」

「…………」

 横を向くと、満点な笑顔。

 前を向いても、満点な笑顔。

 しかし、その笑顔はどちらも誠のものではないだろう。

 やっぱりこいつら似た者同士だよな……。

 他の席に比べ、この一角だけ謎のオーラに包まれている気がした。

 額に滲む汗。

 零れ落ちる汗の雫。

 自分の体温が徐々に上昇していることを肌で感じる。

「ぼ、僕ちょっとトイレ……」

「「待って」」

「はい‼」

「トイレに行くより、この子との関係性を説明する方が先なんじゃないかな?」

「先輩、なんでこの人さっきから先輩に対して彼女っぽい振る舞いなんですか?」

「あら、奇遇ね。私も同じ疑問を思っていたの。君は誰なのかな?」

「私は先輩の唯一無二の後輩にして、気軽に会話ができて信頼できる可愛い女の子です」

「私は名前を聞いたつもりなんだけど……まあいいや。じゃあ私の紹介を……」

「私、あなたのこと知ってますよ。コンドームまで使って先輩を誘ったのに、あっけなく振られた負け犬女ですよね?」

「振られた? 大前提として私、こんな意気地なしでどうしようもない低俗人類に告白するくらいなら、頭からコンドーム被って窒息死で自決するよ」

「その意見には激しく同意します。私も先輩に現在進行形で狙われている身なので」

「お前ら本当は絶対仲がいいだろ⁉」

 修羅場展開かと思いきや、そこは結託するのかよ。


 ※ ※ ※


「ご注文をどうぞ」

 店員が気さくに話しかけると同時に、

「私は先輩と同じやつで」

 まだ注文を頼んでいないにもかかわらず、生意気な後輩はそんなことを口走る。

「お前、本当に僕におごってもらうつもりかよ」

 元々奢るつもりではあったが、こうも奢られる気満々だと少しは自重してほしくなるものだ。

「そりゃそうですよ。せっかくの休日なのにこんな修羅場に巻き込んでるんですから。責任取ってくださいね?」

 お前が修羅場にしてるんだろ……。大体お前があのとき、神坂に声を掛けなければこんなことには……。

 という不倫がバレて苦し紛れの夫の言い訳のようなことを口走っても、どうしようもないことは分かりきっているので不満は心のうちに留めておく。

 なによりこの状況を打破するためには恋美にしろ、神坂にしろ、機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。

「か、神坂は何にするんだ?」

「私は単品のドリンクバーで」

「じゃあ、僕は青豆のサラダで」

「ちょっと待って」

「え、はい。なんでしょう神坂さん」

 神坂までもが食いついてくる。

 何かまずいことを言っただろうか。

「なんで青豆のサラダなのかな?」

「え、青豆のサラダだめ? もしかして豆を目にするのも駄目な豆系拒否人間だった?」

「そういう話じゃない。それと私、豆系ならなんでも食べられるから」

 あ、そうなんですね。

「ならなんだ。もっと種類が豊富なミックス豆系にしろとでも?」

「君、それわざと言ってる? 鈍感にしても度を越して腹が立つね」

「は、はあ……」

 鈍感系主人公はいつもこんな理不尽な思いをしているのか……? 同情の念を激しく送りたい。

「私が言いたいのは何故それを頼むのかということ。前のファミレスのときみたいにハンバーグステーキを頼みなさいよ」

「異性と相席しているときは頼んじゃ駄目なんじゃなかったのか?」

「その異性が意中の相手だったらの話。この子が彼女でも好きな人でもセフレでもないならハンバーグステーキをむしゃくしゃと無我夢中に食べればいいじゃない」

 おい、なんかまずい言葉が入ってた気が……。

「あのゴム先輩、それは私に失礼なのでは?」

 また始まった……。

「ゴム先輩? その呼び名だと、私は〇ム〇ムの実でも食べてゴム人間にでもなったというかのな?」

「そうですよ。あなたは一日中麦わら帽子でも被って……」

「もういろいろとアウトだからやめて⁉」


「で、愛垣さん? と言ったかな。あなたはいつバイトを辞めるつもりなのかな?」

「私はいつまでもあの店にいますよ。なんならあそこに就職するつもりでいますよ、神坂さん」

「いや、それもそれでどうかと思うんだけど……」

 コンビニに就職って……。

「先輩は黙っていてください」

「うち、バイトしか募集してないよ? それとも店ちょ……」

「そういう問題じゃないので本当に黙っていてください」

「あ、はい」

 せっかく紗枝里の代わりの店長候補が見つかったと思ったのに……。

「ちなみに、あなたはいつからあの店で働いているのかな?」

「ちょうど一年くらい前ですよ。先輩がいきなり土下座してきて、パンツ見せるか、それともバイト入るかと脅迫されたので仕方なく後者の方を」

「事実無根なこと言わないでもらえます⁉」

「さすが、瀬崎君。もうそのときから脅迫癖はあったんだね」

「勝手に変な癖作らないでもらえます⁉」

「先輩、また脅迫したんですか? ポーク〇ッツのくせによくやりますね」

「脅迫については否定できないけど、お前、ポーク〇ッツ引きずりすぎだぞ」

 見たことないくせに。

「ポーク〇ッツ? 君、もしかしてこのチビちゃんともう、そういう関係まで……⁉」

「そんなことにはなってないし変な誤解を生む発言はもうやめろおおおおお」


 結局その後も謎の論争は続き、僕が帰る頃には二人とも喉がカラカラになっていた。



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