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三人での映画デート①

三章です

 第三章


 四月十八日 ()曜日 十二時五十分 駅前の銅像前。

 そう。ついに、デートの約束日が来たのだ。

「十分前か……もう少し早く来るべきだったな」

 十分前で十分じゃないかって?

 ノンノン。そんなうまいことを言っている場合じゃない。

 たとえプロのスポーツ選手だとしても、事前のトレーニングというものは必要不可欠なものだろう。

 それと同じで、この試合(デート)を勝ち取るにはイメージトレーニングが必要なのだ。

 そして、そのイメージの元となる秘策は既に我が手中に存在している。

 前日の放課後、待ち合わせた場所に本当に来るかどうか怪しかったが、恋美は僕の前に現れ、彼女なりではあるが、デートの秘策とやらを伝授してくれた。

 その内容は到底バカにできる代物ではなく、デート初心者の僕からしたら、ありがたいことにどれも参考になりそうなものばかりだった。

 まあ、恋美が真面目に手伝ってくれるのはありがたいが、僕からしたらいかんせんその言動は意外なわけで。

 なにか裏があるんじゃないのか……と思わず警戒してしまうのも事実だが。

「あ、瀬崎君」

 突然、後ろから声を掛けられる。

 もう来たのか。

 イメージトレーニングはできなかったが、まあ致し方ない。

 君付けするのは深沢だ。ここは爽やかに挨拶を……。

「お、おう、深沢。ごきげんよ……う?」

 とは言ったものの、振り返り様に発した自分の声は緊張で少し震えていた。

 自分の情けなさを自負すると同時に、右頬に一本の指らしきものが突き刺さっていることに気づく。

 おかしいと思い、その指を元に張本人の顔をたどると、そこには悪戯らしく眉をひそめ、口を小さくにやけさせている彼女、神坂美成子の姿があった。

「ご、ごきげんようだね……瀬崎君」

 そんな嘲笑女王、神坂美成子の服装は長袖で黒色のレーストップスに紺より青が強めな色のスキニーパンツ。

 前会ったときとはまた違う、シックな雰囲気を感じさせるファッション。

「なんだよ。僕のあいさつに笑う要素あったか?」

「だって「ごきげんよう」って……まるでどこかのお嬢様気取りじゃない?」

 ここに来てからずっと口を抑え、笑いをこらえているようだった。

「つい、反射的に出ちまったんだよ……」

 自分でもなぜ反射的な挨拶が『ごきげんよう』なのかは不明だが……。


「あ、二人とも早いね」

 前方から聞き覚えのある平和かつ安心なやさしい声が聴こえた。

「お、おう、深沢。えっと……こんにちは」

 よし。こんにちは成功。

「うん、こんにちは。美成子も」

「ん、ああ」

 照れ隠しか知らないが、神坂は相も変わらずしおらしい反応を見せている。

 そんな誰にでも天使女神(どっちかにしろ)、深沢愛梨の服装は袖が短めの花緑青色のニットにお腹のあたりから膝と脛の間あたりまでの長さがある、ゆったりとした紺色のロングスカート。

 一見、単調に見えがちな服装ではあるが、手に持っている白色のウォレットバッグも含め、学校のときとは一味違う、大人な雰囲気を醸し出しているファッションだ。

 いままで服装にあまり意識がいかなかったが、こうしてしっかり分析してみると、また隠れた魅力を垣間見えることができるので実に利得だ。

 そう、これが恋美から熟知した一つの技『服装観察(ファッションチェック)』だ。

 しかし、安堵するにはまだ早い。

 本題はここからだ。


 カラスが一匹寂しく鳴く夕暮れ時。

 三階にある空き教室。

『いいですか。大切なことを三つ教えてあげます』

 まだ何も言っていないというのに既にどこか自慢げな顔でこちらを見つめてくる愛垣恋美は、机を一つ挟んだ正面に座っている。

『ああ。恋美パイセン頼む』

『その呼び方やめてください』

『じゃあ、恋美パセイン?』

『私はいつから違法ドラッグみたいな名前になったんですか?』

『じゃあ恋美パンパン?』

『こ〇すぞボケ』

『すみません……。あ、ちなみにパセインはエーヤワディ川のデルタ地帯にあるミャンマー第4の都市らしいです』

『変な豆知識いりませんから⁉ というか第4ってなんか微妙ですね。ちなみに第1はどこなんですか?』

『え? …………………………………………知らん』

『知らんのかい‼ はぁ……。じゃあ、そろそろ話しますよ』

『おう。どんとこい』

『……まず、最初にすべきことは――』


『相手を褒めることです』

『その心は?』

『大抵の女の子は基本的に褒められたらうれしがります。その基本を活かして初っ端から好印象を持たせるんです』

『そうすれば、その後の展開でも気軽にいい流れに持っていきやすくなります』

『なるほど……。確かに単調的なことかもしれないが、人は誰でも褒められるとうれしい。そして、そのうれしさが積み重なっていくうちに徐々に恋心に変化していくと……。つまり、それだけでもうすでに心わしづかみってわけか……。恋美、お前もしかして天才か⁉』

『妄想が飛躍しすぎてるし、考えが単純でお花畑すぎて草生えるけど、残念ながら心わしづかみとまではいかないです。けど――』

『デートのペースは先輩に流れると思いますよ』


 よし。

「深沢」

「ん? どうかした?」

「えっと、その服装……なんか大人っぽい感じで、その…………いいね」

 よし! 少し詰まりはしたが、ちゃんと言えたぞ、褒められたぞ⁉ 

 これはもう好印象間違いなし――。


「うん、ありがとう。じゃあ行こっか」


 …………あれ、それだけ?

  おかしいぞ。予定では今ので頬を赤らめて『べ、別にあんたのために着てきたわけじゃないんだからね、ふん!』くらい言われてもいいはずなのに……。

「ねえ」

 まあ、まだ序盤だ。この後もまだ策はある。気を落とすことではない。

「ねえ」

 あの、無意識で無頓着な深沢愛梨だ。冷静さを保ちつつ、慎重に行こう。

「ねえ、私は?」

「なんだよ、さっきから。私はってどういうことだよ」

 しつこく問いかけてきていた正体はどうにも神坂だった。

「私の服装は? どう?」

 会話文だけだと「こいつ俺のこと好きなんじゃね」と勘違いしがちBoyだがそれは大罠だ。

 なぜなら神坂は先ほどと似た表情、つまりただの好奇心で口元を少し微笑ませながら問いかけてきているのだ。

 今の自分の心情に対して、こういう態度は正直、うんざりな気分だった。


「服装? あー……。まあ、前会ったときとはまた違ったテイストでシックな雰囲気が微細に表現されてて普通にいいと思うぞ。はい、これで満足?」

 ……ってついさっき分析したまんまのことを言われるがままに言ってしまった。

 これは馬鹿にされるか……?


「えっ……いや、その、ありがと」


「っ……⁉ なんだよその反応、まるで乙女みたいな反応だな」

「わ、私はれっきとした現役乙女だよ、失礼な」

「現役乙女って。そんな単語初めて聞いたな……。ほら、さっさと行くぞ、深沢に置いてかれちまう」

「うん。そうだね、早く行こうか」

 小走りで深沢愛梨の背中を追った。


 まったく。

 なんでお前が頬を赤らめるんだか……。


 ※ ※ ※


「わー。広いねー」

「確かに。思ったより広いな」

 エスカレーターを利用して到着した四階にある目的地の映画館は、ロビーの面積だけでもイメージしていたより数倍広く、呆気にとられてしまうほどだった。

 吹き抜けになっている高い天井、まるで高級ホテルを思わせるラグジュアリー感。さすが、映画の宮殿をコンセプトとしている映画館だけある。

「これがビルの中の建物だなんて想像もつかないね」

 僕と深沢は驚いて当然かもしれないが、意外なことに神坂自身もそのスケールに驚いているようだった。

「よくこんな場所取れたな。余計に金取られないだろうな?」

「予約したシアターは一般料金だから安心してくれてかまわないよ」

「おお、そうか」

「上映時間そろそろだよね? あたしなにか買いに行こうかなー」

 深沢は先駆けるように先陣を切っていく。


 よし……。

「じゃあ、ポップコーンでも買いに行くか。ついでに深沢たちの分も買ってくるけど、何味がいい?」

「買ってきてくれるの? 紳士的だね、瀬崎君」

「え、君ってそんな積極的なタイプだったんだ。なんかひくね……」


 カチン。

 この対比である。

 どちらの台詞かなんて、読者諸君も一目瞭然で理解できるだろう。

 いわれのないことを言われたからといって、そう易々と顔を真っ赤にして怒る僕ではない。ただ、一マクロほど癇に障りそうになっただけだ、うん。

「…………じ、女性をエスコートするのは男性の役割だと思うのは当然じゃないかい?」

 なんとか愛想笑いを浮かべ、()()()()()を心掛ける。

「ふーん」

 神坂はどうにもつまらなそうな顔をしていた。 

 ともあれ、これが二つ目。


『二つ目は何事もエスコートを心掛けることです』

『と、いうと?』

『大抵、一般的な女性は守られたいと思っています』

『本当に?』

『本当です。わたし守られたいですもん‼』

 威風堂々とやや小さめな胸を張りながら豪語する。

『いやお前の場合、一般的というか野蛮的――』

 と、次の瞬間。目の前の視界から手が飛んでくる。

 しかし、状況の認識をしたときにはすでに僕の首を掴み、軽くつまむように触れていた。

『ひっ⁉』

『なにか言いました? 締め吊り刺し殺しますよ?』

『どんな殺し方だよ……』

 せめて一つにしてくれ。


『で、エスコートと言っても具体的には何をすればいいんだ?』

 エスコートという単語を発しても、Sサイズのコートしか思い浮かばないほど疎い僕だ。

 なにか助言をもらわなければ有効活用できる自信がない。

『そんなの自分で考えてください』

『自分で考えろって……あんな貧相な胸出しながら豪語したくせに?』

『先輩、セクハラもいい加減にしてくださいよ。それと貧相じゃなくて私のお胸は品質がいい系なんです』

『どっちだっていいわい。小さいのは事実だろ?』

『先輩、おっぱいというのはですね、大きさがすべてじゃないんですよ。その子に合った形、フォルム、大きさ全てが兼ね備えられて、初めておっぱいとして成立するのです』

『なんか論理的に話してるけど話してる内容おっぱいだからな?』

 というか形とフォルムは同じくくりでいいだろ。

『なんなら触って確認してみます? 私は完璧な美乳ですよ』

 恋美は席を立ち、前かがみになったと思ったらワイシャツのボタンを外し始める。

『お、おい』

 ていうか回想でこんなことやっていいんですか⁉

 恋美は両腕で胸を挟むと、前かがみの姿勢で机を挟んで最大限こちらに寄る。

 そして……。

 ワイシャツの第一、第二ボタンが外れている部分からチラリと艶やかな谷間が見えた。

 その上には健康的な肌色の程よく突出している鎖骨がより妖美……いやエロさを感じさせる。

 ゴクリ……。

 じゃないじゃない。

『触るかアホ。そんなことより早くおっぱ……じゃない、エスコートの実施内容について詳しく教えてくれよ』

『今、触りたいという本音が漏れましたね?』

『漏れてない。それよりも早く……』

『エスコートについてはもう話すことはありませんよ』

 急に声色を変え、冷淡な口調でワイシャツのボタンを付け直しながら言葉を続ける。

『なんでだよ』

『他人を頼りすぎるのはメッ!ですよ』

『…………‼』

 そんなたわいもない言葉で僕はおもむろに再自覚した。

 そうか。僕はまた……。

『……頼りすぎるのはよく、ないよな……』

『あれ、先輩? そんな深刻になるようなことでしたか?』

『……いや、もう大丈夫だ。そうだよな、自分で答えを見つけないと、自分が納得できないもんな……』


 だからこれでいいはず。


「じゃあ、そのエスコートに甘えて……キャラメルポップコーンを一つお願いしまーす」

 深沢は人差し指を縦に指し、一つという旨を微笑みながら伝えてくる。

「おっ、おう。深沢もキャラメル派か、僕もキャラメル派だぜ」

 つい、ちょっとした仕草にも見惚れてしまう。

「やっぱキャラメルだよねー。あのキャラメルがかかった部分を噛むときに鳴るカリッて音もまたいいよね」

「そうだよなー。 あの音もいいし、キャラメルの濃厚な甘さと香ばしい香り、もう全てがクセになるんだよな。わかりみが深すぎるぜ、深沢‼」

「う、うん。なんだか急に語りが熱いね、瀬崎君」

 やっぱりこれで合っていたんだ。

 エスコートという名目は迷走してきた気がするが、それでも確かなことがある。

 それはこうして深沢と楽しく話すことができているという事実。

 それこそが大きな進歩だ。

 恋美には感謝しないとだな。

「ちなみにサイズはどうする?」

「うーん。そうだね……」


「一人じゃ食べきれる気がしないから瀬崎君、一緒に食べない?」


「…………え?」

 ぬああああにいいいいいい⁉

 いいんですか⁉ 一緒に食べたりなんかして⁉ それで手が重なったりして『あ、ごめん』って二人で言い合っちゃうあのシチュエーションを、あの深沢と? いいんですか⁉

 そんなご気楽なことを考えていたら顔が緩むぞ。平常心平常心。

「お、おう。じゃあ、そう、する、か……」

 これで深沢との距離感を確実に縮めることができる……。

 だがその前に。

「で、さっきからなにが面白くて笑ってるのか知らないけど、なにか買ってきてほしいものあるか?」

 会話に参加してくる気配もなく、妙に静かだなと思ったら横でクスクスと神坂の笑い声が聞こえていた。

「ごめん。君の表情変化を見るのが面白くてつい……」

「僕を実験台のモルモット扱いするのはやめろ」

「うーん、モルモットではないね。強いて言うなら、表現豊かなオラウータン、とでも言っておこう」

「はいはい、戯言は終わりな。なんか買ってきてほしいものはあるか?」

「ふむ……。今の挑発に乗ってこないか。なかなか育てがいがありそうな猿だね」

「お前な……」

「美成子。いくらなんでも遊びすぎじゃ……」

「あれ深沢さん? 遊びすぎってどういうこと? もしかして僕、遊ばれているように見えてる?」

「いや違うよ、瀬崎君。いまのはその……言葉の綾でついポロっと本音が出ちゃったの」

「本音って言っちゃってるから⁉ それカバーになってないから⁉」

 だが、何度でも言おう。そういう正直な部分が深沢のいいところだ。


「で、神坂はいるのか? いらないのか?」

「そうだね、私は塩味のポップコーンを一つ頼めるかな」

「わかった、塩だな。サイズはどうすんだ?」

「うーん。そうだね……」


「一人じゃ食べきれる気がしないから瀬崎君、一緒に食べない?」

「食べないし、深沢の真似をするな」

「え~なんでなんで、わたしぃ一人じゃ食べきれない~‼」

「う・ざ・い。そういうのは自分に彼氏ができたらやってもらえよ」

 だいたい神坂は僕の恋路を手伝ってくれるんじゃなかったのか?

「あ、でもあたし塩味もちょっと食べたいかも」

 え……。

 そう口を漏らしたのは深沢。

「そうだよねー。偶然、私もキャラメルも食べたいと思ってたんだ」

「そうだったんだ! じゃあ、瀬崎君には悪いけど――」


「一緒に食べよっか」


 こいつ……。

 神坂は半ば呆れ混じりの感慨を示しながらも仕方ないなと言わんばかりの顔でこちらを見てくる。

「じゃあ買ってくるけど、荷物多くなるから神坂も連れてくな」

「えっ、ちょ――」

 腕を強引に掴み、神坂を連れて歩みを進める。

「はーい。行ってらっしゃーい!」


「ちょっと。レディを強引に引っ張るとは一体どういうつもりかな?」

 足を止め、後ろを振り向き、距離が離れたことを確認する。

「どういうつもりなのはこっちのセリフだ。なんで邪魔するんだ?」

「邪魔はしてないよ。ちゃんと手伝ってるじゃないか」

「邪魔してるつもりがないっていうなら、なんで深沢を僕から遠ざけたんだ?」

「ちゃんと理由は話すから。とりあえず手を離してくれるかな」

 行動原理の理由を一心に聞こうとしていたからか、神坂の細い腕をずっと握ってしまっていた。

「……ああ、すまん」

「君はすぐに冷静さを欠くね」

 はぁ……とため息をついた後、神坂は改まった顔でこちらを見てくる。

「君は今回のデートでなにを得たいと思っているのかな?」

「なにってそりゃ、深沢と恋人関係になることだろ」

「はぁ……。やっぱりか……」

 硬直したと思ったら、また、ため息をつく。

「なんだよ、なにか間違ったこと言ったか?」

「いーや、間違ってはいない。それが、目標だよね」

「あーそうだ。だから僕は……」

 と、反論の言葉を口にしようとしたとき、ある一つの疑惑の念が生まれる。

 本当にこれで合っているのか。

 この道で間違っていないだろうか。と。

 すると、彼女は静かに語り始める。


「私はあの舞台に上り詰めるまで数えきれないほどの努力を積み重ねてきた」

「いきなり何の話を……」

 と、切り出そうとした刹那、それが歌手の神坂水名子の話であると瞬時に理解した。

「プライドを踏みにじられたり、ありとあらゆる様々な問題に憂鬱を感じたりとあの頃は困難が山積みだった」

 なぜそんな話をし出したのかは分からない。

 だが、少なくとも一つ言えることとしては――。

 そんな過去を振り返りながら語る彼女の目は、虚ろだった。

「でも、私はそれらに打ち勝った」

 それはまるで最果ての海や無限の砂漠を傍観しているようで。

「そして同時に、それらを乗り越える過程があった」

 どこでもない遠くを見ながら、

「だから、私は夢を叶えることができたんだ」

 澄んだ声で静かに囁くように吐露した。


「だ・か・ら、何事にも物事を成し遂げるためには過程というものが必要なわけ」

 そして突然、いつもの調子を取り戻したかのように話を進め始めた。

「君、最近は全くと言っていいほど愛梨とかかわりがなかったんだよね?」

 確かに一年は経たないまでもそのくらい、交流はなかった。

「だから、最初に話の場を設けろと言ったとき、私は理解していると思っていたんだ。でも、あれは気のせいだったのかな?」

 彼女は()()()()()()残念そうにつぶやく。


 でも、そのわざとらしさが僕には刺さったりして。

「そうだな、わかった。いきなりじゃなく、少しずつやってみるよ」

 そうだ。僕が言ったことじゃないか。なにを焦っているんだ。

「わかればいいんだ。それでこそ、サポートしがいがあるってもんだからね」

 自信ありげに右手からグッドサインを繰り出す。

「ああ、頼むぜ。サポーター」

 そして、それに答えるかのように自分も同じサインを送る。

 それを見ると、彼女は微かに微笑んだ。

「あ、それと……」


「誰に助言をもらったのかは知らないけどあまり鵜呑みにしない方がいい」

 瞬間、彼女の声色は暗くなり、空気がズシリと重くなる。

「その言葉は君を――」


 それは、まるで――。


「駄目にする」




 人が変わる音がした。



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