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089 子供たちが動き出す



 白熱したディスカッションも終え、しばしの休憩時間が設けられる。

 改めて冒険者になるべく頑張ろうぜと、改めて決意する子供たちの声が、集会所のあちこちから聞こえてきていた。

 しかしそんな中――動き出している子供たちの姿もあった。


「……よし、今だ!」


 アレクの合図により、集会所の裏口から五人の子供たちが外に出てしまう。そして周囲に誰もいないことが分かるなり、アレクはニヤリと笑った。


「行くぞ。俺たちの力を見せる時がやってきた!」

「おう!」


 拳を軽く掲げながらジェイラスが威勢よく応える。メラニーとサミュエルも、それぞれ笑みを深めながら頷いた。

 しかし、もう一人のメンバーであるリリーは――


「ね、ねぇ……やっぱり止めようよぉ」


 ひたすら不安そうな表情を浮かべ、完全に腰が引けていた。


「こんなの絶対に怒られるよ。今なら間に合うから、皆のところに帰ろうよう」


 おどおどしながらも、必死に呼びかけるリリーの声に、他の四人が立ち止まる。そしてアレクが笑みを浮かべて振り向いた。

 自分の言葉が届いたのだと、リリーは嬉しそうな表情を浮かべるが――


「分かっているさ。僕たちは怒られることを承知で抜け出してきたんだ」


 その期待は、すぐさま打ち砕かれてしまうのだった。

 臆する様子など全く見せずに、どこまでも堂々としているアレクは、不安そうにしているリリーを励まそうと強気な笑顔を見せる。

 それがいかに的外れな気持ちなのかを、全く気づこうとせずに。


「この課外活動は、事実上の最終試験――ならば成果を出す必要がある。そうしなければ、目指している冒険者になることすらできないんだ!」

「それは……確かに分かるけど……」


 メラメラと燃えるかのように気合いを入れるアレクに、リリーは思わず後ずさりするほど怖気づいてしまう。

 思えばここで、少しでも強く言えれば、まだ良かったのかもしれない。

 しかしながら今のリリーでは、それをするのは到底無理であった。

 アレクはグッと拳を握り締めながら、わずかに震わせる。


「もうこれ以上、ジッとしてなんかいられないからな。僕たちの勇気と根性を、あの人たちに見せつけてやるのさ!」

「あぁ、俺もアレクの言うことには大賛成だぜ!」


 ジェイラスがニヤリと笑う。


「話を聞いたり喋ったりするだけなんざ、退屈過ぎて仕方なかった。ようやく面白くなってきたって感じで、ワクワクしてきちまうぜ。ハハッ♪」

「全く、どこまでもジェイラスらしいわね。かくいうあたしもだけどさ」


 メラニーも走りながら、にししっと楽しそうに笑い出す。そしてそれは、サミュエルも同じであった。


「ようやく僕の力が試される時ってもんだねぇ。大船に乗ったつもりでいなよ!」


 完全に調子に乗った口調でサミュエルが堂々と宣言した。

 その時――


「キュイッ♪」

「うわああぁーーっ!?」


 茂みの中から飛び出してきたスライムに、サミュエルは大声で驚く。そしてそのままメラニーに飛びつき、ブルブルと体を震わせるのだった。

 通りすがりのスライムはきょとんとした表情で、アレクたちを見上げる。そしてそのまま彼らを横切り、再び茂みの中へと姿を消した。


「……ホラ、もう行ったわよ?」

「相変わらずだな。全くだらしがねぇもんだぜ」


 呆れ果てるメラニーに続いて、ジェイラスがケラケラとからかいを込めて笑う。そこでようやくサミュエルが我に返り、ハッと気づいてメラニーから離れ、慌てて身振り手振りをし出した。


「こ、これは決して、驚いたとか怖かったとかじゃないよ? 声を出したのは単なる威嚇なんだ。あまりにも張り合いがなさそうだから、逆にこっちから驚かせてやろうと思ったまでの話なのさ。ハ、ハハハッ♪」


 早口でまくし立てるサミュエルは、視線をあちこち彷徨わせている。あからさまに驚いたことを隠そうとしていることはバレバレであるが、当の本人はこれで誤魔化せると心から思っていた。

 当然、そんな彼の考えも周りは頭に気づいている。

 メラニーも少しからかってやろうと、ニヤリと笑みを深めるのだった。


「ふぅん? つまりアンタは余裕だと?」

「き、決まっているじゃないか。僕はいつだって余裕中の余裕ってね!」

「その割には、膝が思いっきりガクガク震えてるみたいだけど?」

「えっ、こ、これはその……そう、武者震いさ! それ以外にないじゃないか」

「へぇー、そうなのねぇ」

「そうそう、そうなんだよー。参ったなぁ、もう♪」


 明るい声で笑うサミュエルの額から、冷や汗が流れる。なんとかこれで押し切れそうだと思った、その時――


「あっ、スライム!」

「ひいぃーっ! 命だけはお助けをおぉーっ!」


 再びメラニーの後ろに隠れ、ブルブルと体を震えさせるサミュエル。もはや言い逃れもままならないその情けない姿に、アレクたちはこぞってため息をついた。


「ったく、あのヘタレ野郎は……」

「まぁ、サミュエルらしいとは言えるかもしれんがな」


 もはやからかう気力すら出てこないジェイラスに、アレクも苦笑しながら宥めるように言う。

 そして改めて表情を引き締め、仲間たちに声をかけるのだった。


「さぁ、森の探索を続けよう。目指すは最終試験の突破だ!」

「「おぉっ!」」

「お、おーっ……」


 ジェイラスとメラニーが元気よく応え、腰が引けたままのサミュエルも、なんとか声だけは出せた。

 そんな中リリーだけは、ひっそりとため息をついていた。


(あぁ、もうダメだ。アレクたちは止まらないよ……)


 もっとも、それなりに予想していたことでもあった。

 この課外活動に参加している以上、冒険者を目指している子供たちの熱意が膨れ上がることは避けられない。

 特にアレクは、子供たちの中で誰よりも、この課外活動に熱意を燃やしていた。

 それだけ真剣に冒険者を目指しているということではあるのだが、如何せん気持ちが暴走している節も見られていた。

 リリーの不安は的中したといっても過言ではない。

 そして、そこまで考えておきながら行動一つ起こせない自分に対して、リリーは嫌な気持ちを味わっていた。

 ほんのちょっと、彼らに対して大きな声を出せていたら――

 もう少し、一歩前に出て堂々としていれば――

 そんな『たられば』が浮かんでは、自己嫌悪に陥る。リリーはそんな自分が情けなくて仕方がなかった。


「リリー、何してるのー? 行くよー!」


 するとそこに、メラニーが呼びかけてきた。顔を上げてみると、四人が振り返りながら笑みを浮かべてきている。


「心配はいらねぇぞ。俺たちは五人で一つのチームなんだからな!」

「そーそー! この僕に万事お任せあれってね♪」

「アンタはもう少し不安そうな顔していた方がいいわよ」

「な、なにおうっ!?」

「ははっ、お前たちは相変わらずだな。さぁ、冒険に行くぞ!」

「「「「おぉっ!」」」」


 アレクの掛け声に、リリーを除く四人は威勢のいい声で応える。当のリリーは、それを後ろで呆然としながら見ていた。


(ホントに大丈夫かなぁ? なんかすっごい嫌な予感がするんだけど……)


 リリーが不安そうな表情を浮かべ、意気揚々と歩き出すアレクたちを追いかけ、森の奥へと入って行くのだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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