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076 三人の正体



 とある深き森の中――木漏れ日が輝く大きな切り株にて、ワインレッドのローブに身を包んだライザックが座っていた。


「あなたもマキト君に接触したんですね」


 大木の陰から、紺色のローブに身を包んだジャクレンが、スッと姿を見せる。


「黒幕だということも明かしてしまったようですが」

「そりゃあね。特にこれといって、隠しておく理由もなかったので」


 ライザックが飄々とした様子で肩をすくめる。そこにもう一人、緑のローブに身を包んだ女性が姿を現すのだった。


「私からしてみれば、あなたたちが出てきたことに驚きだわ」

「おや、森の賢者サマのご登場ですか」


 演技じみた口調のライザックに、ユグラシアが顔をしかめる。


「そのわざとらしい物言いは相変わらずね」

「お褒めにあずかり光栄です♪」

「時間が勿体ないから、今は追及しないでおくわ」


 ユグラシアはサラリと流す。それに対してライザックは、おやと言わんばかりに目を見開き、ジャクレンはクスクスと笑い出す。


「何年経っても、変わらないですねぇ」

「むしろ僕たちからすれば、何年というより『何十年』になるけれど」


 おどけた口調でライザックは言う。それに対するツッコミは、どちらからも出てくる様子はない。

 ライザックはそれに対し、少しだけ寂しそうに笑う。


「あのさぁ、キミたち……もうちっとぐらいノッてくれてもいいんでない?」


 それでも二人は反応を示さず、ライザックは注目を集めようと、大袈裟に肩をすくめてみせる。


「折角こうして『神族』である僕たちが集まったんだからさ♪」


 その瞬間、ジャクレンとユグラシアの表情がピタリと止まった――気がした。

 少なくとも発言した本人にはそう見えた。故に、かかったなと言わんばかりの意地悪そうな笑みが浮かべられる。


「心配しなくとも、神殿にいるあの子たちには、全く明かしてないよ」

「それが賢明と言えるでしょうね」


 ジャクレンが即座に頷く。


「何せ『神族』は、その名のとおり神の一族と呼ばれています。例え身内同然の関係にある相手といえど、極力正体を明かすのは控えるべき――ですよね?」

「えぇ」


 分かりやすい説明をありがとう――その意味を込めて、ユグラシアは頷いた。


「だからこそ、私はライザックに言いたいのよ。今回の件……いくらなんでもやり過ぎなんじゃないかしら、ってね」

「いやはや、これまた耳の痛い話ですねぇ」


 心からそう思っていないかのように、ライザックは苦笑する。


「僕は僕なりに、ちゃあんと人は選んだつもりですよ? 現にダリル君は、どうせ放っておいても自滅していたでしょうからね」


 サラッと語るライザックに、ユグラシアは眉をピクッと動かした。


「随分な物言いね」

「そーゆーあなたこそ、それなりに予感くらいはしてたんじゃありませんか?」


 ライザックはなんてことなさげに、ユグラシアに笑みを向ける。


「もう何を言ったところで、空回りするだけの人物。腹黒いギルドマスターの悪事に加担した結果、最重要人物と見なされて指名手配となり、逃亡生活を強いられて成り上がるどころじゃなくなってしまう。故に――」


 笑みを深めながら、ライザックは目を閉じた。


「あそこで人生に幕を閉じられて、むしろ幸運だったと思いますよ、僕は」


 しみじみと、どこまでも相手を思うかのように言い放つライザック。そんな彼の姿を見るユグラシアは、無言のまま厳しい表情を崩さなかった。

 何も言い返してこない彼女に、ライザックはニヤリと笑みを深める。

 あなたもそう思いますよね――と、問いかけるかのように。


「……まぁ、いいわ。過ぎた話をいちいち掘り返しても、仕方がないことだもの」


 ユグラシアは深いため息をつく。これ以上は何を言っても無意味――そう判断してのことであった。


「えぇ、僕も同感ですね」


 ずっと黙って聞いていたジャクレンも、ここでようやく口を開く。


「そんなことよりもずっと注目したい点が僕にはあります」

「何故、マキト君が触れた瞬間、ガーディアンフォレストの封印が解けたのか?」

「正解です♪」


 ライザックの棒読み気味な言葉に、ジャクレンは人差し指を立てながら笑う。


「もっともこれについては、ユグラシアさんが一番よく知ってそうですが」

「そうですよねぇ。キミともあろう者が、あの子たちの行動を全く知らないままでいたとは、到底思えませんし」


 ジャクレンとライザック――二人からのねちっこい笑みに、ユグラシアは思わず後ずさりしたくなる。

 しかしそれを、なんとか気力で持ちこたえ、ユグラシアは平然を保つ。


「……おっしゃるとおり、としか言えないわね」


 ユグラシアは軽くため息をつき、空を仰ぐ。


「ガーディアンフォレストは、元々リオという男がテイムしていた霊獣だった。そのリオが死亡したため、あの霊獣との契約も断ち切られた――」


 それからユグラシアの手によって、霊獣は封印される。それから十年後、リオの息子であるマキトが現れた。

 ユグラシアは運命を感じずにはいられなかった。

 これはきっと、偶然などではないと。


「あの時、私にできたのは封印することだけ。暴れるあの子を、無理やり抑えつけて眠らせることしかできなかった。でも、マキト君なら――そう思った」


 十年経過した封印は、元々弱まっていた。そこにリオの血を引くマキトが封印の地に足を踏み入れ、無意識に霊獣が反応したことで、封印が解かれた。

 しかし、霊獣はマキトに対し、なかなか心を開かなかった。

 恐らくリオの面影を無意識に感じ取ったのだ。


「マキト君を見る度に、嫌な光景を思い出していたのも、恐らくそのせいね」


 そしてユグラシアも思い出す。十年前の出来事を。

 ガーディアンフォレストを封印するに至った、あの悲しい事件を――



いつも読んでいただきありがとうございます。

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