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073 マキト、考えを巡らせる



「でも、言われてみれば……確かにそんな気もするな」


 改めて冷静に観察しながら、マキトは呟いた。

 確かに顔だけ見ればダリルの面影はある。背中に生えている羽は蝙蝠のそれによく似ているし、獣の腕の色もどことなく見覚えがある。ブラックバットとアロンモンキーがダリルに吸収合体された――そう言われれば理解できなくもない。

 しかし、それならそれで大きな疑問が浮かんでくる。


「どう見ても人間と魔物が合わさって、変身したような感じに見えるんだけど」

「うん、そうね。私もマキトに同意だわ」


 アリシアが頷いてくれたので、マキトは更に続けた。


「……あーゆーのって、フツーにあることなのか?」

「いや、フツーにないと思うけど」

「そっか……」


 引きつった表情でアリシアが即答する。妖精や霊獣が変身するくらいだから、もしかしたら人間も魔物に変身することがあるのかと思ったのだが、どうやらなさそうだとマキトは判断する。

 しかしアリシアは、その際に見せたマキトの表情を見逃していなかった。


「ねぇマキト? なんかちょっとガッカリしてない?」

「うん。変身して空とか飛べたら面白そうかなと」

「あのねぇ……」


 こんな時に何考えてるんだと言いたくなる一方、マキトも年相応の男の子なのだとアリシアは思えてしまった。

 まだ十二歳だと考えれば、むしろ大人しいほうかもしれないとも。


「そんなことより、今は目の前の問題をどうにかするべき」


 ノーラが無表情のまま、広場の様子に視線を向けながら指摘する。それは実にごもっともとしか言えなかったため、アリシアは少しだけ気まずくなってしまう。


「……ごめん」

「別にいい。ノーラも変身できたらいいなぁと、考えてはいた」

「あ、考えてたのね」


 アリシアは軽く脱力する。むしろノーラも人のこと言えないのではと思ったが、それを言い出すときりがなくなりそうだったため、置いておくことにした。


「しかし改めて見ると、やっぱり色々とおかしいわよねぇ」

「ん。アロンモンキーやブラックバットと融合していることは確か。でもなんでそうなったのかが、まるで理解できない」


 やはりどう考えても、そこに行きついてしまうようであった。ノーラもそれを思ったらしく、何かを決断したように頷く。


「とりあえずどうしてなのかは置いといて、あの魔物をどうにかしないと」

「そうね。それが一番の問題だわ」


 アリシアも納得して頷く。マキトや魔物たちも同意見であった。

 魔物をどうにかする――その言葉を脳内で再生しながら、マキトはラティたちのほうを見た。アリシアのポーションのおかげで少しは回復しているが、まだ全力で戦えるとは言い難い。

 他のメンバーで戦えそうなのはノーラだけ。やはりどう考えても心許ない。

 何か手はないのかと、マキトが思ったその瞬間であった。

 ――それを必ず次に活かすのが、キミたちのするべきことですよ。

 ジャクレンの言葉が脳内に蘇った。

 マキトは自然と、頭の中がスーッと冷めていく感じがした。今がまさにその時なのではないかと思いながら。


(ラティたちを上手く扱うこと……今の状況でそれをするには……)


 マキトはアリシアとノーラに視線を向ける。二人が持つ力も加えた上で、考えを巡らせていき――答えに辿り着いた。


「――皆、俺に考えがある。ちょっと聞いてくれ」


 アリシアやノーラ、そして魔物たちが注目してきたところで、マキトが自身の考えを明かしていくのだった。



 ◇ ◇ ◇



「グワアアアァァーーーッ!!」

「はあっ!」


 襲い掛かってきた怪物の攻撃を、ユグラシアが魔力による防御壁で耐えしのぐ。その凄まじい魔力は、流石は森の賢者と言えるだろう。しかし如何せん、決定打に欠けるのも確かであった。


(できれば、この魔力を浄化してあげたいところなのだけど……)


 それこそがユグラシアの真骨頂であり、森の賢者と呼ばれる所以でもあった。大森林に宿る綺麗な魔力が、魔導師たちの憧れにも繋がっており、それは彼女自身も胸を張って誇りにしているものであったのだが――今この状況に至っては、厳しいと言わざるを得ない。


(魔力があまりにも禍々し過ぎる。これではもう、浄化しきれない!)


 どう考えてもそう判断するしかなかった。とどのつまり、もう目の前の怪物を魔力ごと倒すしか道はないと。

 それについてはユグラシアも納得していたのだが、その手段がなかった。

 浄化に特化した彼女の力では、目の前の怪物を仕留めることは不可能なのだ。せめてもう一人、戦闘に特化した誰かがいない限り、この状況を打破することは極めて厳しいと言わざるを得ない。


(ディオンの救援も望み薄だし、どうしたら――)


 まだ魔力に余裕があるとはいえ、このままではいつか劣勢と化してしまう。そうなる前にどうにか手を――そう思っていた時であった。

 ――どぉんっ!

 どこからか魔力の塊が撃ち込まれ、怪物の顔にクリーンヒット。怪物の視線が飛んできた方向に向けられた。


「あなたの相手はこっち」


 飛び出してきたノーラがいつもの無表情でそう呟いた。まさかの登場にユグラシアは驚きを隠せない。

 ましてやノーラの隣に、マキトとロップルも一緒に居るのだから尚更だった。


「ミ、ミヅゲダ!」


 怪物がくぐもった声で喋った。


「キサマラ……キサマラダケハ、コノオレサマのテデエェーーーッ!」


 凄まじい雄たけびにより、怪物の体から禍々しいオーラが噴き出す。同時に怪物が勢いよく飛び出し、マキトたち目掛けて拳を振りかざした。

 しかしマキトたちは臆する様子を見せず、力強い目で相手を見据えている。


「キュウッ!」


 マキトの肩にへばりついているロップルが一鳴きすると、マキトの体を淡いオーラが取り囲む。

 ロップルの防御強化能力が、怪物の拳をあっさりとはじき返してしまった。

 怪物は飛び退き、驚きながらも振り下ろした拳をヒラヒラと振る。どうやらそれ相応の衝撃を与えたのだろうとマキトは思った。


「あのねちっこい感じ……やっぱりあの魔物使いの男っぽいな」

「ん。ノーラたちを仇のように見てる。多分間違いない」


 怒り心頭となりながら地団駄を踏む怪物の姿を、マキトもノーラも、不思議と冷静になっている感じがしていた。正体が分かって胸のつかえが取れたせいか、少しだけ恐怖が薄れたのである。

 そんな二人に、ユグラシアが戸惑いながら話しかけてきた。


「あなたたち……なんでここに……」

「説明は後。今は合わせて」


 怪物に視線を向けたまま、ノーラが淡々と言う。そして再度表情を引き締め直すマキトの姿も見て、ユグラシアはその言葉に従うことに決めた。


「分かったわ。何か考えがあるようね?」

「あぁ。ユグさんとノーラで、少しだけ時間稼ぎしてくれ。数秒でいい!」

「おーけー」

「了解!」


 マキトの言葉に頷き、ユグラシアも改めて怪物を見据える。怪物が怒りを燃やしながら飛びかかってくるのは、その直後のことであった。


「ウオオオオォォーーーッ!!」

「させない!」


 ノーラの魔力を手ではじき、邪魔だと言わんばかりにノーラに迫る拳を、ユグラシアが防御壁で防ぐ。その壁を踏み台代わりに、怪物はマキトに狙いをつけて勢いよく飛び出す。

 しかしマキトへの一撃は、ロップルの防御強化で防がれるのだった。

 立て続けに狙われないように、ユグラシアとノーラのサポートを得つつ、マキトは後ろの茂みに注意が行かないよう心掛ける。


(アリシア、ラティ……頼む!)


 そんな願いを寄せつつ、マキトはロップルの防御強化により、再び襲い掛かってきた化け物の拳をはじき返すのだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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