062 ダリル、復讐心を燃やす!
「……ユグさんってそんなこともできるんだ」
流石に理屈はまるで分からないが、ユグラシアならばそういうのも普通にできるのだろうと、マキトはひとまず納得する。
「結界っていえば……」
ここでラティが、あることを思い出すのだった。
「森の隠れ里へ行く道への結界と、なんだか似ている感じなのです」
「似ていて当然。あれはユグラシアが仕掛けたモノだから」
「へぇ、そうだったのか」
マキトが素直に驚く中、ノーラは更に続ける。
「だから基本的に、ユグラシアが認めた人じゃないと通れない。ただしラティやロップルを連れているマキトは例外」
「えっ、俺?」
「ん。結界の原理は全く同じ。だから妖精か霊獣を連れていればフツーに通れる」
「あー、なるほど」
「ちなみにアリシアもフツーに通れる。許されている存在だから」
「そりゃ凄いな」
マキトは納得しつつも、少しだけ嬉しさを覚える。もしまた神殿に遊びに来たいと思った場合も、事実上自由に来れることが分かったからだ。
「――おしゃべりはここまで。今は神殿へ急ぐ」
「あぁ。そうだな」
ピシャリと言い切るノーラに、マキトもそのとおりだと思った。
すると――
「っ! 何か来るのです!」
ラティが突然、気配を察知して叫ぶ。次の瞬間、少し先の茂みから、二匹の魔物が飛び出してきたのだった。
「ウキキ、ウキキャッ!」
「キィーッ!」
マキトたちに視線を向けながら、鳴き声を上げる魔物たち。ニヤリと不敵な笑みを浮かべるその表情は、完全に友好的なそれではない。
ノーラがマキトの後ろに隠れつつ、マキトは目の前の魔物たちの様子を伺う。
「サルとコウモリ? しかもテイムの印があるってことは……」
間違いなく魔物使いが従えている魔物だと、マキトは思った。そしてそれが大正解であることを、すぐさま知ることとなる。
「ほぉ、まさかこんなところで、テメェなんかに会えるとはなぁ!」
茂みの奥から、一人の青年が姿を見せた。その青年の顔は、マキトやラティたちも非常に見覚えがあった。
「……あの時の魔物使いか」
「そうさ。テメェらにしてやられたダリル様よ」
ダリルはギラリと鋭い目を光らせ、マキトたちに対してニヤリと笑っていた。
「よくも俺たちのパーティを壊滅させてくれたもんだよなぁ」
「壊滅? 何の話だよ?」
「しらばっくれんじゃねぇぞ、ゴラァ!!」
首を傾げるマキトに、ダリルは凄まじい怒りをあらわにする。
「ドナとエルトンは行方不明になっちまうし、生き残ったブルースと俺も、ギルドでの評価は底辺まっしぐら。もう踏んだり蹴ったりもいいところだぜ。これも全てはテメェらのせいだ!」
悲劇のヒーローじみた演説を見せるダリル。しかしそれに対して、今度はラティが怒りをあらわにするのだった。
「何言ってるのですか! あなたたちが勝手なことをしたからなのですよ!」
「うるせぇ! ちっこい妖精如きが、この俺様に指図するんじゃねぇ!」
ダリルは聞く耳を持たず、どこまでもマキトたちのせいだと、心の底から思い込んでいた。
マキトもラティも、なんとなく感じた。もはや何を言っても無駄なのだと。
「おい、我が新たなしもべたちよ!」
ダリルが後ろに控えている二匹の魔物たち――アロンモンキーとブラックバットに声をかける。
「あのガキどもを少し可愛がってやれ」
「――ウキキィーッ!」
その瞬間、アロンモンキーが勢いよく前に飛び出した。
マキトを目掛けて拳を振りかざす。もしそのまま受ければ致命傷は避けられないほどの威力であったが――
「キュウッ!」
ロップルが一声鳴くと同時に、アロンモンキーの拳がマキトの顔に直撃。
しかしそれはまるで鋼鉄の壁のように固く、マキトには全くダメージはない。むしろ攻撃をしたアロンモンキーに、鋭い衝撃が走ることとなった。
「ギギャーッ!?」
予想外の硬さからくる衝撃と痛みに、アロンモンキーは涙目で叫ぶ。その場で勢いよくのたうち回る姿が、相当なダメージを連想させる。
ブラックバットが入れ替わる形で、マキトたち目掛けて飛び出した。
「これお願い」
ノーラがすかさず、抱きかかえていた霊獣をマキトに預け、前に躍り出る。それと同時に両手で魔法を解き放った。
殆ど詠唱時間がない、まさに瞬間的な発動であった。
故にブラックバットも避けることができず、その魔法を真正面から思いっきり直撃で受けてしまう。
「ギギィーッ!!」
ブラックバットも地面に落ちてしまい、痛さでのたうち回っている。襲ってきた二体の魔物は、完全に返り討ちにされた形となった。
「おい、テメェら何をしてやがる! さっさと立ち上がれってんだ!」
ダリルが苛立ちながら叫ぶと、二匹の魔物たちは起き上がろうとする。
そこに――
「させない」
ノーラが再び魔法を発動。連続で数発ほど放たれ、今度はダリルにもしっかりと命中させるのだった。
「ぐわあぁーっ!」
魔物たちと一緒にダリルも地面に倒れ、のたうち回る羽目となる。これが大きな隙であることは、もはや考えるまでもなかった。
「今のうち。早く逃げる」
「あぁ!」
ノーラに促され、マキトは霊獣を抱きかかえたまま逃げ出す。その姿を、ダリルも倒れながらしっかり把握していた。
「お、追えーっ! 逃がすなあぁーっ!!」
必死に絞り出した声に、アロンモンキーとブラックバットが立ち上がる。ダメージを負わされたことを怒っているのか、凄まじい形相を見せていた。
「キキキャーッ!」
「ギギッ!」
勢いよく飛び出していく二匹の魔物たち。それをマキトたちが、魔法や能力を駆使して応戦しつつ、必死で森の中を駆けまわって行った。
獣の叫び声や爆発音が響き渡り、やがてそれらが段々と聞こえなくなっていく。
気がついたら周囲から襲われるような気配が、すっかりなくなっていた。
「はぁ、はぁっ! な、なんとか……に、逃げ切れたかな?」
「お、恐らく……なのです」
「キュウ~」
マキトが激しく息を切らせながら、ひとまずの安全を確保できたと安堵する。ラティやロップルも無事であり、抱きかかえている霊獣も、意識こそずっと失ったままではあるが、ダメージを負うこともなかった。
「ノーラも大丈夫か? 凄い魔法を使って……」
そして一緒に逃げてきた少女にも声をかけた瞬間、マキトは気づいた。
「――ラティ」
「どうしましたか、マスター?」
ラティが振り向くと、マキトが呆然とした表情を浮かべていた。
「ノーラが……いない」
「へっ?」
「キュウ?」
ラティとロップルも、そこでようやく気づいた。
必死に逃げている途中で、ノーラと完全にはぐれてしまったことに。
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