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058 ガーディアンフォレスト



「ノーラ、一体どこまで行くつもりなんだ?」


 薄暗い森の中を歩かされながら、マキトは疲れた表情を浮かべる。


「なんかすっごい奥のほうまで来てる感じだけど……」


 不安そうに周囲を伺い、自身の左手を見下ろす。それはしっかりと、ノーラの小さな右手によって掴まれており、決して離そうとしてくれない状態であった。

 神殿から出発した際には、マキトの服を掴んでいたノーラ。しかしあまりにもマキトが止めてくれと抗議をしたため、渋々と手を掴むほうに切り替えた。

 その際にノーラが、マキトに対して『わがまま』と呟いたのは記憶に新しい。

 正直、納得しがたいことではあったが、服が伸びるほど掴まれ続けるよりは幾分マシなのも確かであり、そのまま何も言わずにいる。

 ノーラには何を言っても無駄だというのは、ラティやロップルも悟っており、既に諦めの境地であった。


「それにしてもここらへんは、どことなく不思議な感じもするのです」


 ラティも飛びながら、森の周囲を伺う。ロップルもマキトの頭にしがみつき、どこか不安そうな表情を浮かべていた。

 しかし肝心のノーラは、無表情のまま前方を見据えている。

 その先にある『何か』以外には、完全に興味を示していない様子であった。


「――見えてきた」


 ノーラがそう呟いた。マキトたちもハッとした表情を浮かべ、前方を見据える。

 その先は明るくなっていた。森が開けており、日の光が差し込んでいるのであろうことは分かる。しかし明るすぎて、何があるのかまではまだ見えない。

 やがてマキトたちは、その明るい部分に足を踏み入れた。


「これは……」


 辿り着いたのは、小さな広場であった。中心部に小さな石像を祀る祠があり、それ以外は特に変わったものはない。

 ノーラがマキトの手を離し、そのままトコトコと祠のほうへ歩いていく。

 そして祀られている石像をジッと見つめ始めた。


「――ガーディアンフォレスト」

「その石像が?」

「ん」


 マキトが問いかけると、ノーラはコクリと頷く。


「ずっと前、どこかの王国で暴れた霊獣。それも伝説の。ユグラシアが特殊な魔法で封印。それ以来、ずっとここで眠り続けている」

「へぇー」


 ただの石像じゃなかったのかと、マキトは素直に驚いていた。ノーラの説明も分かりやすかったため、すぐさまなるほどと受け止められる。


「ノーラさんは、これをマスターに教えたかったのですか?」

「ん」


 マキトのときと同じように、ラティの問いかけに対してもコクリと頷くノーラ。しかしそれもどこか彼女らしいと思えており、もはや気にならなかった。


「霊獣は寝ているけど、たまに声を出してきている」

「声? どんな?」

「分からない。とにかく声。まるで誰かを呼んでいる感じ。しかも――」


 ノーラが振り返り、マキトをジッと見上げる。


「ここ数日で、その声が急に強くなった。マキトがこの世界に来たあたりから」

「――俺?」

「ん」


 自らを指さすマキトに、ノーラが神妙な表情で頷く。そこにラティが、驚きの表情を浮かべてきた。


「ノーラさんも、マスターの事情を知っていたのですか?」

「面白そうだったから聞いてた」

「……あぁ。盗み聞きしたということですね」

「こーきしんおうせいだから」


 ノーラはえっへんと胸を張る。威張ることではないが、妙に様になっており、追及する気力も失せる。

 それを感じ取ったノーラは、これ幸いと話を進めることに決めた。


「とにかく、マキトをここに連れてくれば、何かが起こるような気がした。それで引っ張って来てみた」

「そんなこと言われてもなぁ……俺に何をしろと?」


 後ろ頭を掻きながらマキトが尋ねると、ノーラは初めて気づいたかのほうにハッとした表情を浮かべる。


「……何をすればいいんだろう?」

『いやいやいや――』


 マキトとラティが珍しく口を揃えてしまった。ロップルもそりゃないよと呆れて脱力しており、そんな彼らの反応に、ノーラは初めて困った反応を見せた。


「連れてくることしか考えてなかったから、その後のことを考えてなかった。まさに不覚もいいところ。ノーラさん、ここでまさかの大失敗……」


 ノーラは頭を抱えてしゃがみ、唸り声を出す。これもまた、なんとも珍しい姿に他ならなかったが、マキトたちはそれを知る由もなく、ただ苦笑いを浮かべることしかできない。

 そしてマキトは、改めて祠に視線を戻す。


「にしても、ガーディアンフォレスト、ねぇ……」


 そこになんとなく近づき、前かがみになりながら、石像に視線を近づけてみた。


「どう見ても、ただの石像にしか見えな――」


 その時、石像が光り出した。青白い光が、まるでオーラの如く祠を包み込み、やがて徐々に眩しくなる。

 マキトたちは目を向けられなくなるほどの強い光と化していき――

 パリィンッ――と、何かが割れるような音がした。


「……ビックリしたのです」


 光が収まり、呟くラティに続いて、マキトたちもゆっくりと目を開ける。

 祠は無事であったが、石像はなくなっていた。代わりに――


「にゅぅ……」


 謎の生き物が、祠の中央にちょこんと座っていた。

 白くてロップルと同じくらいの大きさ。しかしその外見は、どの動物にも当てはまらない。それでいて、フェアリーシップと似ているようで明らかに違う。ただしその雰囲気はとてもよく似ている感じであった。


「おー」


 ぱちぱちぱちぱち――ノーラが驚きの表情とともに拍手を送る。


「やっぱりマキトは凄い。ガーディアンフォレストの封印が解かれた!」

「……マジで?」


 マキトは突然過ぎる展開に付いていけないまま、不思議そうな表情で周囲を見渡している霊獣を見つめるのだった。



 ◇ ◇ ◇



「あら、アリシア。メイベルさんたちと一緒だったのね」


 森の神殿の廊下にて、ユグラシアが女子四人で楽しそうに談笑しながら歩いてくる姿を発見する。


「すっかり仲良くなったみたいで良かったわ♪」


 実のところ意外ではあった。娘同然のアリシアに同年代の友達ができてほしいと願ったことはあるが、その機会に恵まれることはなかった。なにより、アリシア自身がそれをあまり望んでいない節も見られ、焦って関係性を作らせてもいけないかと自重していたくらいである。

 そんなアリシアが同い年の女の子と楽しそうに話している――理屈抜きに嬉しく思えてならなかった。

 一方、見つかってしまったと言わんばかりに、アリシアも照れ笑いをしながら、軽く視線を逸らす。


「まぁ、私も正直意外だったといいますか……」

「キッカケは、ブリジットがしでかした事故だったもんねぇ」

「その原因を作ったメイベルだけは、言われたくないよ」


 メイベルとブリジットが、割って入るようにいつものやり取りを見せる。それが果たしてアリシアに対する助け舟だったのかは、当の本人たちにしか分からないことであった。


「――アリシアさん」


 ユグラシアの視線がメイベルたちに向けられた隙を突いて、ノーマークとなっているセシィーが小声で話しかける。


「例の件、ユグラシア様にお話されたほうが……」

「分かっているわ。でも――」


 アリシアは申し訳なさそうに苦笑を浮かべる。


「今ここで話すのはちょっと……他にも打ち明けたい子がいるから、後で自分の口から言おうと思ってるの」

「そうですか。わたくしたちも微力ながら、手助けできると思います。いつでも相談にきてください」

「えぇ。ありがとう」


 アリシアとセシィーはニッコリと笑みを浮かべ合う。その姿はユグラシアからも見えてはいたが、話の内容は小声だったために聞こえてはいなかった。

 友達同士の他愛ないやり取りなのだろうと、ユグラシアは思うことにした。

 まさかアリシアの将来に関わる大事な一件であることは――残念ながらユグラシアは知る由もなかった。


「もうすぐ夕方になるわ。メイベルさんたちも、そろそろ戻らないとね」


 メイベルたち女子学生三人を、所定の宿屋へ送り届けなければならない。彼女たちはあくまで修学旅行――それも正規ルートを外れて来ているのだ。

 宿は森から遠く離れた町と決まっており、夜までにそこへ向かう必要がある。


「森の入り口に馬車を一台手配しておいたわ。ディオンが護衛として付き添ってくれるから、安全に町まで戻れるでしょう」

「あ、ありがとうございます!」


 メイベルは慌てて頭を下げる。


「何から何までお世話になってしまって……ホント恐縮ですっ!」

「気にしないで。こちらこそアリシアがお世話になって、感謝の言葉もないわ。ほんのささやかなお礼になればと思ったのだけど」

「はいっ、もう十分過ぎます!」


 深々と頭を下げながら、ハキハキと大きな声で答えるメイベル。後ろに控えるブリジットやセシィーも同じ気持ちらしく、直立不動で緊張を走らせていた。

 そんな彼女たちを、アリシアは不思議そうな目で見ていた。

 やはりユグラシアはそれだけの存在なのだと、改めて知ったような気がした。それでもピンとこない点は変わらなかったが。


「それじゃあ、行きましょうか。私も外まで見送りを――」


 ――ビーッ、ビーッ、ビーッ!!

 ユグラシアがメイベルたちに笑いかけたその時、けたたましい音が鳴り響く。明らかに嫌な何かを連想させるそれは、アリシアも初めて聞く音であった。


「どうやら不審な誰かさんが、この森に入ってきたみたいね」


 ユグラシアが険しい表情でそう呟く。いつもの穏やかな笑みは、完全に消え失せてしまっていた。

 この音が警報だと分かり、アリシアたちは揃ってゴクリと息を飲み込んだ。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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