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047 憧れのドラゴンライダー



 それは、間違いなくディオンの声だった。

 まさか向こうから来るとは思わず、三人揃ってピシッと硬直してしまう。無事を確認するという意味では、むしろ当たり前の行動なのだが、三人は全くもって気づいていなかった。


「……しょうがない。こっちから開けさせてもらう!」


 返事を待つこともなく、ディオンは勢いよくドアを開ける。すると中にいる三人の女子たちを見て、胸を撫で下ろした。


「なんだ、みんな無事じゃないか。まぁ、なによりなことだ」


 そしてディオンは、扉を開けたまま話しかける。


「ひとまず、降りてきてくれないか。キミたちの状態を確認したい」

「は、はいっ!」


 完全に裏返った声で、メイベルが返事をする。そして緊張を隠そうともせずに、ゆっくりと馬車から降りた。


「メイベル、アンタそこまでガチガチにならなくても……」


 そう言いながら移動するブリジットも、完全にぎこちないそれであった。


「もう、ブリジットってば……あなたも人のこと言えませんよ?」

「腰を抜かしているアンタにだけは言われたくない」


 ペタリと座り込んでいるセシィーに、ブリジットがしれっとツッコミを入れる。それを見ていたディオンは、しょうがないなぁと言わんばかりに苦笑し、馬車の中へ上がり込んだ。

 そしてセシィーの前まで歩いていき、スッと手を差し出す。


「さぁ、お手をどうぞ――お嬢さん」


 その瞬間、セシィーの目には、ディオンの姿がキラキラと輝き、絵に描いたような数割増しのイケメン青年と化して見えた。

 セシィーは思わず呆けてしまい、ぽやーっと頬を赤く染めている。


「ん? どうかしたのかい?」

「はわわっ! きょ、きょきょ恐縮でございますうぅ~!」


 ディオンの声に、セシィーは我に返る。同時にボンッ、と爆発させるかのように顔を真っ赤にして慌て出してしまう。

 セシィーはなんとかディオンの手を取り、ゆっくりと立ち上がる。そのまま手を引かれる形で、一緒に馬車から降りるのだった。

 すると――


「……アンタって子は、相変わらず抜け抜けとしでかしてくれるわよね」

「こーゆーのを『あざとい』とか言うんだっけ?」


 ブリジットとメイベルの、それはもう冷たい視線が襲い掛かり、夢心地を味わっていたセシィーは、一瞬にして我に返る。

 数秒ほど呆けたかと思いきや、仮面の如く完璧な笑顔を見せてきた。


「――まさかこんなところで有名なドラゴンライダーさんと出会えるだなんて、わたくしたちって本当にラッキーですね♪」

「それは確かに言えてるから、あたしも反応にすっごい困るよ」

「右に同じ」


 ブリジットとメイベルが揃ってため息をつく。そんな三人の女子たちの姿に、ディオンは苦笑していた。


「元気なことだな。まぁ、若い証拠か」


 その呟きが聞こえたのだろう。三人の女子たちは即座に反応し、真っ先にメイベルがディオンの前に出た。

 そしてピシッと『気をつけ』の姿勢を取る。


「あ、あのっ! 本当にありがとうございましたっ!」

「おう。何事もなくて良かったな」


 下げ過ぎではないかと言いたくなるほどのお辞儀であったが、ディオンはとりあえずスルーした。

 すると今度はセシィーが、すすっと前に出てくる。


「その……ドラゴンライダーのディオンさんですよね?」

「あぁ。俺のことを知っているのか?」

「勿論ですよ!」


 今度はブリジットが強く答える。


「私たちヴァルフェミオンの学生の間でも、ディオンさんのことを知らない人はいないくらいなんですから!」

「そ、そうか……」


 ディオンは勢いに押され、少しだけ引きつった表情と化す。しかしすぐに持ち直しながら、彼女たちの服装に注目する。


「やっぱりその服は、ヴァルフェミオンの魔法学生だったんだな」

「はい。修学旅行なんです」

「……その割には、このへんで他の生徒たちを全く見かけなかったが?」

「えっと、それはその、あの……」


 ディオンの率直な問いかけに、メイベルはしどろもどろになる。あからさまに何かあると言いたげであり、もはや墓穴を掘っているも同然の態度であった。

 ここでブリジットが深いため息をつきながら、助け舟を出す。


「どうしても森の賢者様にお会いしたくて、自由行動の時間を利用して、大森林に向かっていたんです」

「ちなみにメイベルが先生を言いくるめたんですよ♪」

「ちょ、セ、セシィーっ!」


 メイベルが慌ててセシィーの言葉を制しようとするが、時すでに遅しである。最初から当の本人がちゃんと説明していれば、こんなことにはならなかった。故にこれぐらいは許容範囲だろうと、セシィーもブリジットも思っていた。


「ハハッ、まぁ行動的なヤツってのは、クラスに一人はいるもんだよな」


 ディオンがケタケタと笑い、そして一つの提案を持ち掛ける。


「ユグラシアの大森林に行くんだったな? 良かったら俺が連れてってやるよ」


 突然の提案に、三人の女子たちの動きがピタッと止まる。やがて呆然とした表情を向けつつ、代表する形でメイベルが口を動かした。


「い、いいんですか?」

「あぁ。これも何かの縁だ。ドラゴンとの移動も、いい経験になるだろう」


 グルッ、と一鳴きしながら見下ろしてくるドラゴンに、メイベルたち三人は改めて緊張を走らせる。

 とんでもない人と知り合ってしまったと、改めて自覚したのだった。

 一方、ディオンは改めてメイベルという少女を見つめる。

 人間族よりは長いが、エルフ族よりは短い――いわゆるハーフエルフの証とも言える長めの耳。エメラルドグリーンのポニーテールは腰まで伸びており、風に揺られてサラサラであることがよく分かる。

 そんな彼女に対し、妙な感じがしてならなかった。


(メイベルとか言ったな。なんとなく誰かに似てるような……いや、気のせいか)


 しかし即座にそう結論付け、ディオンは考えを無理やり停止させる。

 そして、馬車を引いていた御者の男に話をつけ、ディオンが臨時で護衛につく形で一行は進み出す。

 運命的な出会いが待ち構えていることを、メイベルはまだ、知る由もなかった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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