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043 ヴァルフェミオンからのスカウト



 家までの道のりを歩きながら、マキトはラティにも抱いていた違和感を明かす。それを聞いたラティは、ふよふよと飛びながら頷いた。


「なるほど。確かにわたしたちだけじゃ、何も分からないですけど……」


 ラティは理解を示しつつも、コテンと首を傾げる。


「そんなに気にするほどのことなのでしょうか?」

「キュウ?」


 ラティに続いて、ロップルもマキトの頭の上で同じ仕草を見せた。

 確かにそれはそれで、言い得て妙ではあるだろう。

 気にしなければどうということはない。魔物たちと楽しく過ごす分には、何ら問題はないと言えるのだから。

 しかしマキトは、気になってしまっていた。

 せめて少しだけでも答えのような何かが出てこないと気が済まない。何故かそう思えてならなかったのだ。


(まぁ、別に納得さえできれば、どんな答えでも――)


 ――グオオォォンッ!

 その時、重々しい鳴き声が聞こえてきた。同時に空を羽ばたく大きな音が、木々を揺らす音に混じって響き渡る。

 マキトたちが呆然としながら周囲を見渡すと、ある方向から空を飛ぶ大きなドラゴンの姿が見えた。


「……ディ、ディオンさん?」


 間違いなくそれは、ドラゴンライダーのディオンであった。その背中には誰かを乗せており、あっという間に遠ざかっていくために、確認はできない。

 確かなのは、アリシアの家がある方向から飛び去った、ということだけだった。


「マスター、急いで帰るのです!」

「あぁ!」


 ラティも同じことを考えて気になったのだろう。マキトは強く頷き、無意識に駆け出していた。

 家の周辺は特に変わりはない。マキトたちが家に駆けこむと、アリシアがリビングの椅子に座っていた。

 明らかに心ここにあらずという感じで。


「あ、おかえり。そんなに慌てて、どうしたの?」


 笑顔を向けてくるアリシアだったが、どこか声にも表情にも力はなかった。

 故にマキトたちも、ますます様子が気になってしまう。


「どうしたの、はこっちのセリフだよ」

「そうなのですっ! さっきディオンさんが飛んでいくのを見たのです。アリシアに何かあったんじゃないかと……」


 マキトとラティがアリシアに詰め寄る。マキトの頭の上にしがみついているロップルも、そうだよと言わんばかりに睨みつけていた。

 アリシアも最初は、なんとかこの場を誤魔化そうとするが――


「……うん、そうだね。やっぱりマキトたちに、隠し事はできないや」


 すぐに観念し、潔く先ほどもらった書類をマキトたちに見せる。その書類に書かれている一文をマキトは読み上げた。


「入学の案内――ヴァルフェミオン魔法学園?」

「うん。世界最大の魔法都市から、なんかスカウトされちゃったんだ、私」


 明るい声を出すアリシア。しかしどこかその声は震えており、大いに戸惑っているということは、感じるまでもなかった。



 ◇ ◇ ◇



 事の発端は、アリシアが錬金した魔力ポーションであった。

 以前、魔力枯渇から助けた冒険者のウィンストンが、相棒のエドワードとともに宣伝を重ねていった。それがたまたまヴァルフェミオンの研究者の耳に入り、実物を手に入れて試飲したところ、研究のし甲斐があると興味を示したらしい。

 アリシアには是非とも研究室に来てほしい――その名目で魔法学園から誘いが来たということであった。


「私たちのいる森がここ。そして、この遥か遠い北東にある小さな島――これが魔法都市ヴァルフェミオンと呼ばれている場所よ」


 アリシアが分かりやすく説明するために、地図を広げながら話していた。

 その魔法学園都市が一つの国のような存在で、どこの王国にも所属していない独立した島であることも説明する。


「島と言っても、周りはとても高い崖に覆われていて、船で上陸することはとてもできないわ」

「え、それじゃあどうやって……」

「転移魔法、もしくはドラゴンなどに乗って空から行くかになるわね」


 マキトの疑問にアリシアがサラリと答えつつ、小さな笑みを浮かべる。


「どちらも簡単な方法じゃないから、行くだけでも一苦労よ」


 腕利きの冒険者でさえ、ヴァルフェミオンに足を踏み入れるのは困難だと言われているほどだった。外からの侵入を事実上拒んでいるため、ヴァルフェミオンに奇襲をかけるなどの危機はそうそうあり得ない。

 逆に言えば、ヴァルフェミオンから外へ出るのも非常に困難ということだ。

 魔法学園は全寮制で、入学すれば卒業するか退学するまで、学園都市でずっと暮らすことを義務付けられている。

 魔力を扱うエリートを育成する学園だけあって、貴族や平民などの身分は関係なく入れるが、卒業は極めて困難である。その厳しさに耐え切れなくなり、脱走を企てる生徒も存在するが、島の特徴がそれを決して許さない。

 一度足を踏み入れたら死ぬまで出られない――そんな噂が流れるほどなのだ。


「……そんなふうに聞くと、なんか凄く怖い場所に思えてくるな」


 アリシアからの説明を聞いたマキトが、表情を引きつらせる。


「実は危険な場所だったりするんじゃないのか?」

「まぁ、場合によってはそう言えなくもないでしょうけど、世界的に認められているちゃんとした学校であることは確かよ」


 少し言い方が良くなかったかなと思いながら、アリシアは弁解した。


「こうしてスカウトが来ること自体、どんなに凄い貴族や王族でも滅多にないことだと言われているわ。それぐらい特別な枠なんだって、さっきも言われたの」


 特にアリシアの場合は、魔力こそあれど魔法が使えないため、普通ならば魔法学園に入学することは不可能なのだ。

 そこにわざわざ、例外という名の特別枠を使って誘ってくれている。これがどれだけ名誉なことなのか、流石のアリシアも理解しているつもりではあった。


「学費も全部、学園側が負担してくれるらしいからね。実質、タダで通わせてもらえるようなモノなのよ」


 苦笑しながらもサラリと答えるアリシア。しかしその表情を曇らせる。


「でも、正直どうしようかなって思っててさ……」

「何でだよ? 興味ないのか?」


 マキトが尋ねると、アリシアは小さく首を左右に振る。


「興味はあるわよ。ちゃんとした設備で魔力ポーションの研究ができるなんて、またとないチャンスだとも思ってるし」


 無論、それ相応の成果を出すという条件は、ほぼ絶対条件である。アリシアの場合で言えば、魔力ポーションの進化と実用化への発展、といったところか。そこで何も結果が出せなければ、学園を追放される上に、それまでの学費負担を強いられる可能性も普通にあり得るとのことだった。

 その点においては、アリシアも十分に承知していることであった。


「こうしてスカウトされたことも、凄く誇らしいと思っているわ」


 故に笑顔で断言もできる。だからこそマキトたちは、余計に分からなくなってしまうのだった。


「それなら別に迷うことなんてないんじゃ……」

「そうですよ。アリシアならきっと、素晴らしい研究ができるのです!」

「キュウッ!」


 マキトに続いて、ラティとロップルも疑問を浮かべる。どうしてそこまで返事を渋っているんだろうかと。

 しかしアリシアは、悩ましそうな笑みを浮かべるばかりであった。


「流石に話が大きいからね。少し考えてみたいのよ。私の将来に繋がる、大事な問題でもあるし」

「お相手さんへの返事はどうしたのですか?」

「待ってもらっているわ。そう長くは保留にできないって言われたけど」


 ラティの問いかけに答えるアリシアは、苦笑しつつ考える。

 確かにまたとないチャンスだ。迷うことなんてないというマキトの意見は、実にもっともだと言えるだろう。

 しかしその一方で、疑念もあった。

 本当に自分が、魔法のエリート学校なんかへ行ってもいいのか。魔法が使えないくせに足を踏み入れるなど、おこがましいにも程があるんじゃないかと、そんなことばかり考えてしまう。


(そもそも誘ってきたのは向こうのほうだから、気にする必要もないのよね)


 しかしどうしても迷いが生じてしまう。魔法が使えないという劣等感が、ここまで根強く纏わりついていたのかと、改めて思い知らされる。


(わざわざ遠くから来てもらって保留にしちゃったし、早く決めないとなぁ。一緒に来てくれたディオンさんにも申し訳……あっ!)


 ディオンという言葉に、アリシアはあることを思い出す。


「そうそう、ディオンさんからマキト宛に、手紙を預かってたんだわ」

「へ? 俺に?」


 マキトは素っ頓狂な声を上げながら、差し出された封筒を受け取った。裏を見てみると、蝋で押された紋章のような形で封がされていた。

 とりあえずそれをペリッと剥がして開き、中の手紙を読んでみる。


「えーと、なになに――?」


 ――森の賢者ユグラシアに会ってみろ。そこでエルフ族の血が流れているキミの秘密を教えてもらえるだろう。

 挨拶文もなく、書かれていたのはそんな一文のみであった。

 手紙と呼ぶにはシンプルにも程があるそれだったが、分かりやすさで言えばこれ以上ないとも言える。おかげでマキトも即座に内容が伝わっていた。

 故に――マキトは意味が分からず、硬直していた。


(俺がエルフ族の血を? でも俺は地球から……一体どういうことなんだ?)


 たった一文しか書かれてない手紙を、マキトは呆然と見続けていた。



いつも読んでいただきありがとうございます。

誤字・脱字につきましては、ページ一番下にある『誤字報告』にお願いします。


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