表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/252

035 覚醒するラティ



 危機が訪れた隠れ里。暮らしている魔物たちも流石に気づいており、あちこちで隠れたり動き出したりする姿があった。

 赤いスライムが事前に通達してくれたのだろう。逃げるマキトたちに襲い掛かるようなことは、一切なかった。


「ところでラティ。俺たちはどこへ逃げればいいんだ?」


 走りながらマキトが問いかける。その腕の中には、フェアリーシップがしっかりと抱きかかえられていた。


「デタラメに逃げても、多分捕まるだけだぞ」

「うーん……一番いいのは、長老さまと合流することなのですけど」


 ラティは長老スライムがいるであろう場所を思い浮かべ、顔をしかめる。


「表の広場は、恐らく敵さんがいるでしょうし……」

「じゃあ奥のほうか?」

「それが最善だと思うのです。そっちなら森も広がってますし」

「分かった。とにかく今はヤツらから――」


 逃げるのが先決だ――そう思ったマキトが、里の奥を目指そうと方向を切り替えようとした、その時だった。


「――マキト!」

「おぉ、お主たち無事じゃったか!」


 なんとアリシアと長老スライムが、息を切らせながら駆け寄ってきた。


「アリシア!?」

「長老さまも……ビックリなのです」

「ポヨー」


 まさかの展開に、マキトたちも驚きを隠せない。唯一、フェアリーシップだけが意味を理解しきれていないのか、コテンと首をかしげるばかりだった。

 そんなフェアリーシップの存在に、アリシアたちも気づく。


「良かった、その子も無事だったのね……しかもなんか懐かれてるっぽいし」

「そーなのですっ!」


 苦笑するアリシアに、ラティがえっへんと胸を張る。


「この子が怯えずに済んだのも、マスターのおかげなのです。やっぱりマスターは凄いのですよ♪」

「あはは、ありがとさん」


 完全にはしゃいでいるラティに押され、マキトも思わず苦笑する。しかし今はそれどころではない――それを即座に思い出すのだった。


「向こうには敵がいるんだ。それで俺たちも逃げてきたんだけど……」

「ふむ。ワシらも逃げてきたところでな。表の広場へ向かうのは危険じゃ」

「やっぱりでしたか」


 長老スライムの言葉で、ラティは自分の推測が当たっていたことを知る。


「そうなってくると、やっぱり……」

「ひとまずは奥へ向かう他ないじゃろうな」

「よし、じゃあ急いで――」


 そこへ逃げようとしたその瞬間、アリシアの逃げてきた道から巨大な炎が、凄まじい速度で飛んできた。


「マスターッ!」


 ――どおおぉぉーーんっ!!

 ラティが気づくも、時すでに遅し。直撃する前に炎が地面に落ち、大爆発によってマキトたちが吹き飛ばされる。

 その衝撃で、アリシアのポーチの中身も、いくつか外に飛び出してしまった。

 しかし突然の出来事により、それを気にする余裕はない。


「ててっ、みんな無事か?」

「な、なんとか……」


 マキトの呼びかけにアリシアが答える。長老スライムやスライム、そしてラティも起き上がった。


「キュウッ!」


 マキトが庇ったおかげで無事だったフェアリーシップが、慌てた声とともに小さな手を伸ばす。

 その方向を見てみると――


「やっと追いついたわよ、アリシア!」


 ドナが息を切らせながら走ってきた。今の炎が誰の仕業だったのかは、もはや考えるまでもない。


「ったく、凄い爆発だったな、ドナ」


 そしてその後ろから、ブルースも走ってくる。


「ただの威嚇射撃にしては、ちょいとやり過ぎだったんじゃないか?」

「甘いわね。驚かせるにはこれくらいがちょうどいいのよ」

「そうですかい。まぁ、いいけどよ」

「そんなことよりも――」


 ドナが振り向き、ある一点を見つめながらニヤリと笑う。


「魔物使いのボウヤとフェアリーシップもいるわ。これは好都合じゃない?」

「あぁ。飛んで火にいる夏の虫とは、まさにこのことだろう」


 カツン、カツンと剣を分厚い肩当てに当てながら、ブルースも頷いた。

 マキトはただの【色無し】なんかじゃない――それは流石に認めざるを得ないとは思っている。しかしながら、現時点では自分たちよりも遥かに幼い子供で、しかも本人に戦う力はまるでないのも確かだ。

 ただ者ではないことと、脅威になるかどうかは、決してイコールではない。

 それを如実に表しているのが、マキトという子供なのだと、改めてブルースは思うのだった。


「ここまで散々俺たちをコケにしてくれたんだ。お前たちがどんな存在だろうが、もう容赦しないことに決めた。今更泣いて謝っても許すことはない。俺たちを怒らせたお前たちが悪いんだ」


 それを表すかのように、ブルースの顔や体には、里の魔物たちと戦った傷痕があちこちに見られる。木の上や茂みからの不意打ちなども多く受けたため、流石の彼でも無傷では済まなかったのだ。

 しかし満身創痍とは言い難い。むしろ彼からすれば、程よく体が温まったといっても差し支えなかった。


「もうこれ以上、アンタたちを逃がすつもりなんてないわよ! 大人しく私の魔法で消し炭になりなさいっ!!」


 ドナも両手から炎を生み出しながら、マキトたちを――特にアリシアを、ギロリと細い目で睨みつける。

 確かにこれ以上逃げるのは、どう考えても難しいことは明らかだった。

 魔物たちによる奇襲も、彼らからすればウォーミングアップに過ぎないだろう。現に表の広場をこうして突破されているのだ。同じことをしても、魔物たちが傷付くだけに終わるのは、想像に難くない。

 もはや完全に追い詰められた――マキトたちは揃って顔をしかめていた。


(うぅ、何か手立ては……あっ!)


 ラティが周囲を軽く見渡した瞬間、それを見つけた。


「これ、もらうのですっ!!」


 ラティはアリシアが落とした魔力ポーションを拾う。彼女の家で見たのと色が同じだったので、間違いないと思ったのだ。

 魔力を補充すれば、より強い魔法を使うことができる。

 そうすれば自分の魔法で、少しは状況を打破できるかもしれない――わずかな可能性にラティは賭けることにした。

 しかし――


「ちょ、それはさっき錬金したばかりの――」


 アリシアが止める間もなく、ラティは瓶の栓を開けてポーションを飲み干す。

 それは魔力スポットの素材で錬金した魔力ポーションであった。

 効果が明らかになっていないから使う気はなかったのに、よりにもよってそれをピンポイントで見つけ、拾って飲んでしまうとは。

 色々な気持ちが渦巻くものの、既にラティは飲み干してしまった。


「けぷっ――さぁ、これでわたしの魔力、が……」


 意気揚々とブルースたちに立ち向かおうとしたその時、ラティは異変を感じた。


「あ、あれっ? なんか……カラダ、が……あつい……」


 熱いだけではない。ラティ自身が魔力のオーラに包まれ、眩く光り出していることに本人は気づいていなかった。


「ラティ!」

「な、なんじゃ、この光は!?」


 マキトと長老スライムが目を見開く。他の皆も――ブルースやドナも含めて、その光景に呆気に取られていた。

 光り出したラティの体が変化する。みるみる大きくなっていったのだ。

 やがて光が収まり、ラティの姿が晒された。


「ラ、ラティ……お前、それ……」


 震える声でマキトに呼びかけられ、ラティはゆっくりと目を開ける。

 自分でも何かがおかしいと即座に気づいた。正確に言えば、視線の高さや体の重さが明らかに違う気がする。

 ラティはおもむろに自分の姿を見下ろすと――


「なっ……」


 変化した自分の体に、ラティ自身ですら驚いてしまうのだった。


「なんですか、これはああぁぁーーっ!?」


 そう叫んでしまうのも無理はないと言えるだろう。妖精らしい小さな体が、スタイル抜群で色気たっぷりな大人の女性――しかも体のサイズが、ヒトと全くの同等と化していたのだから。

 ついでに言えば、声も完全に変わっている。

 幼少の子供のような甲高い声から、少し低めな大人の女性らしき声となり、もはや完全に別人――もとい、別魔物としか見えなかった。

 しかしそれは間違いなくラティである。

 実際に妖精の姿からヒトの姿に変わる瞬間を、その場で披露されたのだ。それだけは認めざるを得ない事実と言える。

 もっとも、納得できるかどうかが別であるのも確かではあった。


「し、信じられない……こんなことってあり得るの?」


 アリシアの呟かれた言葉は、その場にいるほぼ全員の気持ちでもあった。

 長老スライムですら、あまりの急展開についてこれてない。これをどう表現すればいいのか、まるで分からないでいた。

 するとここで――


「まぁ、とりあえず何事もなさそうですね。安心したですよ」


 ラティが開き直ったかのように落ち着きを取り戻す。それに対して、アリシアが即座に一歩前に出た。


「いやいや、何事もあるから! 思いっきり何か色々と変わっているから!」

「そんなのは些細な問題に過ぎないです。今は悪いヒトたちを成敗するですよ!」


 バッと手を伸ばし、威勢よくラティがポーズを決める。世の大人の女性顔負けに等しい凛々しい声や表情と相まって、その姿は非常に様になっていた。

 ついでに言うと、地味に口調も変わっている。しかし周りからすれば、それこそ些細な問題としか思えていなかった。


「さぁ――覚悟するです!!」


 ニヤリと笑うラティに対し、ブルースやドナは、未だ展開についてこれていないらしく、唖然とするばかりなのだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

誤字・脱字につきましては、ページ一番下にある『誤字報告』にお願いします。


すぐ下の【☆☆☆☆☆】評価による応援もしていただけると嬉しいです。

是非ともよろしくお願いします<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ