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203 地球という名の異世界は



「――それからオレは、ずーっと長い夢を見てたんだ」


 目を閉じながらしんみりと語るカーバンクル。マキトも無言のまま、耳を傾け続けていた。


「見たこともない世界を走ってた。色んなヤツらに出会ったんだ。でも……リオとサリアはいなかった」


 ワクワクしたような笑顔が急に曇り出す。現実のような夢――それをカーバンクルはずっと体験してきたのだ。

 地に足がついてないかのように、軽やかな走り。それでいてしっかりと、地面を踏みしめる感覚もあった。

 見上げれば、青い空と白い雲もあった。風も吹いていた。

 太陽が昇っては沈み、月が現れたかと思いきや、再び太陽が昇ってくる。

 それは、今まで当たり前のように生きてきた現実の世界と、何ら変わりのない光景にしか見えなかった。

 しかしカーバンクルは、それが現実ではないとすぐに分かった。

 大切な人たちが傍にいなかったからだ。

 カーバンクルは探し続けた。決して疲れないその体で、ふんわりとしたその世界を走り続けた。きっとどこかにいると信じて、世界の果てまで探していった。

 自分以外の生き物もいた。ヒトもいた。

 けれど――リオとサリアは、どこを探してもいなかった。


「もうどこにもいねーんじゃねーかなって、オレは思いつつあった。夢だってこともなんとなく分かってたしな。でも、そうしたらよ――」


 ずっと俯いていたカーバンクルは顔を上げ、小さな笑みを浮かべる。


「スッゲー懐かしい何かが漂ってきた。オレはすぐに思ったぜ。サリアが迎えに来てくれたんだってな!」


 嬉しかった。やっと会えるのだと思っていた。

 必死に呼びかけた。もう二度と離れてやるものかと、飛び出そうとした。そしてその想いが届いたのだと思った。

 ずっと薄暗かった景色に光が宿り――辺り一面が真っ白と化した。


「そして目を開けてみたら……マキトたちがいたってワケだな」


 カーバンクルが再びマキトを見上げる。その笑みはとても明るく、決してガッカリしているとかではなかった。

 一方のマキトは、顎に手を当てながら考えていた。


「その長い夢を見てる間ってのが、ずっと封印されている状態だったってことか」

「あぁ。多分そうだぜ」


 カーバンクルが大きく頷いた。


「あんときゃオレも、本当に死んだと思ってたからな」

「普通のポーションじゃ治せないから、魔力スポットの魔力で、自然に回復されていくのに賭けるしかなかったのか」

「だろうな。オレを封印したのも、敵から守るためだったんだと思うぜ!」


 カーバンクルはどこか自信に満ち溢れた笑顔を浮かべていた。そこまでしてサリアが守ってくれたのだと、嬉しく思っていたからだ。


「……なるほどね、そーゆーことか」


 ここでマキトもようやく合点がいった。


「じいちゃんが言ってたんだ。サリアが特殊な力でお前を封印したってな」

「そうだったのか。じゃあオレの封印が解けたのも、やっぱりマキトがサリアの息子だからってことなのか?」

「あぁ。多分そんなところだと思うよ」


 正確には『同じような能力を持っているから』であるため、血を引いているからというのは少し違う気もしている。しかし些細な問題だろうと思い、そこは特に追及するつもりはなかった。


「改めて思ったよ。サリアはよっぽど、お前のことを助けたかったんだなって」

「おっ。マキトもようやく分かってきたじゃねーか♪」


 マキトの感想に、カーバンクルは嬉しそうに笑う。


「サリアはスッゲー優しいんだぜ。怒るとかなり怖いけどな。にーちゃんの魔物たちも皆が懐いてたんだ」

「へぇー……」


 マキト自身、サリアのことは全く知らないに等しい。あくまで知っている者たちから話に聞くだけだ。

 少なくともカーバンクルの話を聞く限り、サリアは悪い人ではない気がした。

 魔物たちを愛する人に悪者はいない――割と本気でそう思っており、この理論は間違ってないだろうと、マキトは妙な自信があった。

 根拠がないと言われればそれまでだが、彼の中の本心でもあった。


「マスター!」


 ラティの甲高い声が聞こえてきた。ハッと我に返りながら視線を向けると、たくさん遊んで満足した表情の魔物たちとノーラが、戻ってきていた。


「おう、楽しかったか?」

「はいなのです♪ いっぱい飛び回って疲れたのです」

「キュウッ」

『おなかすいたー』


 ロップルとフォレオがマキトに飛びついてきた。程よく疲れた様子で、まさにいい汗かいたと言ったところだろうか。

 マキトが水筒の水を小さなコップに出してやると、ロップルたちが勢いよくそれを手に取り飲んでいく。ラティも同じくであり、余程たくさん動いたのだろうと思わずほくそ笑む。

 そこにノーラが、マキトの服の裾を軽く引っ張ってきた。


「マキト、そろそろお昼ごはんにしよ」

「そうだな……」


 軽く周囲を見渡してみる。景色はいいのだが、原っぱしかない。今しがた魔物たちが水をがぶ飲みしてしまったため、少し補給もしたいところであった。

 この近くで湧き水がたくさん出ている場所――それを考えた時、マキトの頭の中にある場所が思い浮かぶ。


「魔力スポットにでも行くか。そこなら水もあるし」

「ん。さんせー」

「行きたいのです♪ 綺麗な魔力をたっぷり楽しみたいのです」

「ハハッ、そうかそうか」


 マキトが軽く笑いながら視線を動かすと、ロップルやフォレオも期待を込めた目で見上げてきている。

 ぼくたちも是非とそこへも行きたい――そう言っているのだと分かった。

 これもいつものことだなと、マキトは優しく微笑む。


「よし、じゃあ行こうか」

「おうさっ!」


 マキトの掛け声に、カーバンクルがいち早く威勢のいい声を出す。そして彼らは魔力スポットを目指すべく、広場を後にするのだった。

 喉が潤って元気になったのか、フォレオも獣姿に変身し、背中にラティとロップルを乗せて期限良さそうに鼻歌交じりで歩いている。ノーラがその隣で、フォレオの背中をモフモフと撫でていた。


「――なんかよぉ、アイツらホント楽しそうだよな」


 後ろでマキトに抱きかかえられているカーバンクルが、前を歩くノーラたちを見ながら言った。


「アイツらを楽しそうにさせるマキトも、ホントにスゲーと思うぜ」

「そうか? 特に何かしてやってるワケでもないけど……」


 謙遜などではなく、本当にそう思っていることだった。マスターとして一緒にいる以外に、何かをしただろうか――改めて少しばかり考えてみたが、やはり何も浮かんでこなかった。

 するとカーバンクルが、ニッと笑みを深めながら見上げてくる。


「みんな言ってるぜ。マキトと一緒にいられるのが、サイコーに幸せだってよ」

「……そっか」


 マキトは思わず苦笑してしまう。直球な言葉に照れくさくなったのだ。

 するとここで、カーバンクルは思い出す。


「そういやマキトは、ずっと別の世界にいたんだよな?」

「あぁ。地球の日本ってところだ」

「どんな世界なんだ?」

「うーん、どんなって言われると、俺もあんまよく説明はできないんだけどな」


 ひとまず自分が知っている限りのことを、マキトは話した。

 魔法も魔物も存在せず、この世界には存在しない乗り物や道具もたくさん存在していることを。

 もっともマキト自身、本や図鑑などで見たものが殆どであり、実際にそれを見たことは全然ないということも付け加えていた。

 誤魔化しではなく、本当に知らない――カーバンクルもそう感じていた。

 マキトが嘘を付けるようなタイプに見えなかったからだ。


「なるほどなぁ……そっから突然、マキトはこっちの世界に来ちまったんだろ?」

「あぁ。まぁ、正確には『戻ってきた』っていうのが正しいみたいだけど」


 カーバンクルの問いかけに、マキトは苦笑しながら答える。

 マキトは元々、この世界で生まれた子なのだが、マキトは未だ自覚がない。無理もない話と言えばそれまでではあるが。


「なぁ……こんなこと聞いていいのかどうか分かんねーんだけどよ……」


 遠慮がちな口調で、カーバンクルが切り出してきた。


「マキトって、向こうの世界に家族とかはいなかったのか?」

「んー、特にいなかったなぁ」


 あっさりと答えたことに、カーバンクルは思わず目を見開いてしまう。しかしマキトは気にも留めず、そのまま何食わぬ顔で続ける。


「親も兄妹も……それこそじいちゃんって呼べる人とかは、一人もいなかったよ」

「ふーん。なんか寂しそうな感じがするな」

「……そうだな」


 少々の間を置いた上で、マキトは深々と頷いた。


「今と比べれば、本当に寂しかったと思うよ。もう前の生活なんて考えられない」

「こっちの世界に戻ってきて、大正解だったってところか?」

「あぁ。まさにそれだ」


 楽しそうに語るマキトとカーバンクル。

 そんな姿を、ノーラがフォレオのふさふさな背中を撫でながら、無表情で振り返りながら見つめていた。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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