表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/252

200 カーバンクルの思い出



 翌朝、マキトたちは山の散策へと飛び出した。

 弁当を手渡され、手を振りながら笑顔で見送ってくれるクラーレの姿に、どことなく新鮮な気分を感じる。自然とマキトも笑顔となり、思いっきり大きく手を振り返してしまった。

 クラーレは軽く驚きを示し、更に嬉しそうに笑みを深めていた。

 少なくともマキトにはそう見えていた。


「――へぇ、山の中なのに、こんな広場があるんだな」


 そこは平原ほどではないが、走り回るにはもってこいの場所であった。獣姿となっているフォレオもうずうずとしており、カーバンクルやロップルは今にも飛び出したそうにしていた。

 そしてラティも我慢できなくなったらしく、マキトに勢いよく提案する。


「マスターマスター、ちょっとここで遊んでいきたいのです」

「あぁ、いいぞ」

「わーい♪」


 マキトの返事と同時にラティが飛び出していった。


「いくぜーっ!」

『おー♪』

「キュウキュウーッ♪」


 カーバンクルとフォレオ、そしてロップルも続けて走り出していく。

 そして――


「ノーラもちょっと行ってくる」

「あぁ。俺は荷物を見てるよ」

「ん。よろしく」


 そんなやり取りを交わし、ノーラも歩き出していった。周辺には小さな花も咲き乱れており、森とはまた違った自然の豊かさが、そこには広がっていた。

 魔物たちの賑やかな声につられて、山の魔物たちも姿を見せる。

 しかし襲い掛かってくることは全くなかった。

 見知らぬヒトの姿に少しばかりの警戒は見せていたものの、マキトが持つ素質が大いに発揮されていく。マキトに危険がないと分かるなり飛びつき、その数分後には魔物に埋まって懐かれるという、いつもの光景が出来上がる。

 やがてラティたちも、山の魔物たちの存在に気づき、一緒に遊び始めた。

 いつの間にか山の広場は、すっかり賑やかな遊び場と化していた。

 普段から野生の魔物たちも遊びに来ているらしく、むしろ自分たちのほうが予期せぬお客さんだったのだろうと、マキトは思う。

 なんとなく悪いことをしたような気分に駆られつつも、皆が楽しそうで良かったと安堵していた。


「ピキキーッ♪」

「こっちなのですよーっ!」


 逃げ回るラティをスライムたちが倒しそうに追いかけ回している。鬼ごっこの類だろうかと、マキトはぼんやりと思った。


「ん。できた」

「キィッ♪」


 広場に自然と咲き乱れる花を使って、ノーラが器用に花冠を作り上げる。それを頭に乗せられたスライムは、とても嬉しそうにしていた。

 ノーラの足元では、ホーンラビットがスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。

 森の個体と比べると明らかに色が違っているが、マキトたちは特にそれに対して驚く様子は見せていなかった。

 たとえ同じ魔物でも、住んでいる場所によって体の色などが異なる。

 それは先日の旅で学んだことでもあった。

 ヒトも魔物も、違うようで同じところはたくさんある――そんな言葉とともに。


「楽しそうだなぁ、アイツら」

「ホントだぜ」

「だよなぁ――ん?」


 反射的に返事をしたところで、マキトは気づいた。足元を見ると、さっきまで走り回っていたはずのカーバンクルが、トコトコと歩いて戻ってきていたのだ。


「もういいのか?」

「ちょっと休憩するだけだぜ。それに――」


 カーバンクルがマキトの隣にちょこんと座り、彼の顔を見上げた。


「マキトとは一度、ゆっくり話したいと思ってたからよ」

「……そうか」


 思わずマキトは満面の笑みを浮かべる。魔物からそう言ってくれるのが、純粋に嬉しくて仕方がなかったのだ。

 ヒトから言われるよりも、魔物から言われることを喜んでしまう。

 彼もまた、生粋の魔物使いだということなのだろう。本人はそこまで自覚していないようではあるが。


「――なんつーか、アレだな」


 その言葉にマキトが視線を下ろすと、カーバンクルが遠い目で笑っていた。


「アイツら見てるとよ。サリアとリオのにーちゃんのことを思い出しちまうぜ」

「ふーん。懐かしいってことか?」

「そんな感じだな」


 カーバンクルがそう思うのも無理はない話である。何せ、両親の才能を綺麗に受け継いだマキトと一緒にいるのだ。


「山の魔物たちがマキトに懐いてただろ? やっぱりマキトはリオの息子なんだってことを、改めて思わされたぜ」

「へぇ。ってことは、俺の父親も?」

「おうよ! マキトみてーにバンバン野生の魔物を手懐けてたぜ」


 まるで自分のことのようにはしゃぎ出すカーバンクル。しかしすぐさま、明るい様子は鳴りを潜め、悲しみの表情に切り替わる。

 そして地面を見下ろしながら、カーバンクルは呟くように言う。


「実はオレ……最初はサリアたちのこと、思いっきり避けてたんだよな」


 その声にマキトが軽く目を見開いた振り向くと、カーバンクルが目の前の地面に視線を向けていた。

 どこか物悲しそうな表情を浮かべて。


「こことは違う、どこか凄く遠い別の場所で、オレとサリアは出会ったんだ。その時はリオのにーちゃんも一緒で、二人は旅をしてたんだ。今のマキトみてーに魔物をたくさん連れてよ」

「へぇー」


 改めて遊んでいるラティたちに視線を戻しながら、マキトが呟く。どこか他人事のような生返事であった。

 一応、無理もない話だと言えなくもない。

 彼からすればリオは、あくまで『聞かされた父親』でしかないのだから。

 カーバンクルも特に気にすることはなく、ニシシッと笑い出す。


「その時から賑やかだったぜ。にーちゃんの魔物たちも、オレと仲良くなろうとしてくれてさ」

「はは、そりゃまた随分と優しかったんだな」

「まぁな。でもそのときのオレは、すっげー意地っ張りでよ」

「素直に甘えることができなかったか」

「あぁ」


 少し恥ずかしそうな表情を浮かべるカーバンクル。しかしマキトは、それに対してからかうこともせず、優しげな笑みを見せた。


「まぁ、そーゆーこともあるだろ。魔物だろうと動物だろうと、なんでもかんでもいきなり懐くワケないし」

「……なんてゆーか、スゲーな」


 急にカーバンクルが物珍しそうな声を出してきた。視線を向けると、マキトを見上げながら呆然としている。

 何事かと思ったが、その答えはすぐさまカーバンクルの口から放たれた。


「にーちゃんと同じこと言ってたぜ? やっぱり息子ってだけのことはあるな」

「マジかよ……」


 マキトは思わず苦笑してしまう。当然ながら意図して言ったわけじゃないし、言いようもない。

 才能だけでなく、性格も似ているということだろうか――どことなく不思議な感情を抱かずにはいられなかった。


「まぁ、そんなことよりも――」


 気恥ずかしさを隠すように、マキトは話題を変える。


「お前は俺の母親に――サリアに懐くようにはなったんだろ?」

「あぁ。ちょっと時間はかかっちまったけどな」


 今度はカーバンクルが、少しだけ恥ずかしそうに笑う番であった。


「サリアはオレのことも、スッゲー可愛がってくれたんだ。このままずっとサリアと一緒にいたいって、オレは本気で思っていたんだ」


 でも――と、カーバンクルは言いながら、表情を歪めていく。


「オレたちの幸せはブチ壊されちまったんだ……『勇者』とかいうヤツに!」


 声を荒げるその様子は、心から憎んでいるようにしか見えず、マキトは思わず息を飲むのだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

誤字・脱字につきましては、ページ一番下にある『誤字報告』にお願いします。


すぐ下の【☆☆☆☆☆】評価による応援もしていただけると嬉しいです。

是非ともよろしくお願いします<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ