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189 山奥の魔力スポット



 ジャクレンと別れたマキトたちは、人里離れた山の中を突き進んでいた。

 山と山をすり抜けるように、フォレオは快調に飛んでいく。目論見どおり、野生の魔物に襲われる心配は殆どなかった。ついでに言えば、冒険者ですら滅多に立ち入るような場所でもないため、人目につくことも皆無に等しい。

 また、悪い天気に阻まれるようなこともなかった。

 むしろ、これ以上の晴れがあるのかと言わんばかりの青空が広がっており、それが余計にマキトたちの気分を良くさせる。


「あー、静かでいいよなぁ」


 冷たく心地よい風を浴びながら、マキトがしみじみと言った。


「やっぱ賑やかな街よりも、こーゆー静かで自然たっぷりなところがいいや」

「ですよねー。わたしも同感なのです♪」


 むしろそれ以外にない、と言わんばかりにラティも頷く。


「わたしの場合、ずっと森で暮らしてましたからね。自然の少ない町とかは、空気が合わない感じがするのです」

「キュウキュウッ!」

『ぼくもー』


 ロップルに続いてフォレオも同意する。そんな魔物たちの反応に、マキトは今更ながら気づいてことがあった。


「そういえば皆、ずっと森の中で暮らしてきたんだっけ。フォレオも?」

『むかしのことはぜんぜんおぼえてないけど、まちよりもりのほうがおちつくよ』

「そっか」

「ん。ちなみにノーラも、ずっと森で暮らしてた」

「へぇ、そうなんだ」


 何気に新しく知った事実に、マキトは素直に驚く。


「つまりノーラは、ユグさんの森で生まれたってこと?」

「ん……それは分からない。いつの間にかユグラシアと暮らしてた」

「なんだそりゃ?」


 思わずマキトがツッコミじみた質問をする。しかしノーラは答えられず、複雑そうな表情を浮かべるばかりだった。

 ここでラティの頭の中に、ある可能性が浮かび上がる。


「ノーラも記憶がないのですか?」

「あるといえばある。でも、ないといえばない」

「……もうすこし分かりやすく言ってほしいのです」

「無理」


 漢字二文字で断言するオーラ。それ以上に答えようがないという意思表示に、マキトは頭の中を回転させながら言葉を紡ぎ出す。


「要するにノーラ自身も、色々と分からないことだらけってことでいいのか?」

「ん。そゆこと」


 ノーラの声にわずかな感情が入った。マキトからは見えないが、恐らく小さな笑みを浮かべているのだろうと、なんとなく予測できる。

 するとノーラが、マキトのほうへクルッと振り向いてきた。


「ノーラのこと、気になる?」

「へっ?」

「今まで聞いてきたことなかった。もしかして気になった?」

「まぁ、なんつーか……」


 マキトは答えを詰まらせる。正直言って、かなり微妙なところではあった。


「全く気にならないと言えばウソにはなるけど、別にどうしても知りたいってワケでもないかなぁ。ちなみに聞くけど――」

「なに?」

「ノーラの過去を知らなかったら、何かヤバいことになるってことはあるのか?」


 マキトからそう尋ねられたノーラは、空を見上げながら少し考える。


「……ないと思う。でもなんでそれを聞く?」

「いや、面倒なことになるの嫌だなぁ、って思ったから」

「ん。まぁ、気持ちは分かる」


 これも本心ではあった。しかしその際に、ノーラの中で少しだけモヤッとした気持ちに駆られたが、その正体は本人も分かっていなかった。


「多分、知らなくてもどうということはない。実際ノーラも、今まで気にしたことなかったけど、これと言って何かが起こったようなことは一度もなかった」

「ユグさんがそれらしいこと言ったとかは?」

「全然。しいて言えば――」


 ノーラが重々しい表情でため息をつく。


「ユグラシアが最近、やたら母親ぶるようになってきたのがウザい」

「あぁ……まぁ、それはなぁ……」

「アリシアの一件以来、ユグさまのお母さんキャラが炸裂しまくりですからねぇ」


 マキトとノーラも思わず苦笑してしまう。特にアリシアの母親になった直後は、まさに暴走していたといっても過言ではなかっただろう。


「でも、最近は落ち着いてきてたじゃんか」

「むしろずっとかと思ってたから、少し驚いたくらいだったのです」

「キュウッ」

『ほんとだよねー』


 マキトに続いて魔物たちも同意する。その声を聞いて、ノーラは少しだけ嬉しさがこみ上げてくるが、笑顔は浮かんでこなかった。


「……ノーラには分からない。母親がどーのこーのなんて」

「いや、それは俺も同じだから」


 ため息交じりに言ってのけるノーラに、マキトも苦笑しながら言った。


「母親なんて、今までいたこともなかったからな。今更言われても分かんないや」


 遠くの山の景色を見ながら、マキトは呟くように言った。それに対して、ノーラや魔物たちは、何も言葉を返すことはなかった。



 ◇ ◇ ◇



 それから順調に山と山をすり抜けていき、マキトたちは目的地に到着する。

 ラティたちが魔力スポットの魔力を感じ取ったことで、見逃さずにピンポイントで辿り着くことができたのだった。


「ここかぁ。確かにそれっぽい感じするな」


 フォレオの背から地面に飛び降り、改めてその様子を確認する。

 大森林の魔力スポットは青白い光だったが、ここにあるのは薄い緑色の光が解き放たれている。しかしそれ以外は、他の魔力スポットと同じ雰囲気であった。


「うーん、このみなぎる感じ。なんだか体に馴染むのです♪」

『まわりのしずかなかんじもすごくいいよねー』

「キュウッ!」


 魔物たちも居心地が良さそうにしている。フォレオも小さな霊獣の姿に戻り、ロップルとともに周囲を見て回るべく走り出していた。

 そしてマキトも、改めて周囲の環境を軽く見渡してみる。


「まさに手付かずの大自然ってところか」

「ん。魔物たちにとって、ここは凄く楽しめる場所」

「だな――ん?」


 ノーラの言葉に笑顔で頷いたその瞬間、マキトは『ある物』に気づく。


「あれは……」


 魔力スポットの傍にある小さな祠――それがどうにも気になり、マキトは無意識のうちに近づいていく。

 やがて祠の前に立ったところで、ノーラも後ろから追いかけてきた。


「マキト、どうしたの?」

「いや、これ……」

「ん?」


 マキトに促される形で、ノーラも祠を見つめる。初めて見るはずなのに、どことなく見覚えがあるような気がした。

 そして数秒後、ノーラはあることに気づいた。


「……フォレオが封印されていた祠と、よく似ている感じ」

「やっぱそう思うよな?」

「ん」


 マキトとノーラが祠に顔を近づけながらまじまじと見つめる。

 そこに――


「マスター、どうかしたのですかー?」


 マキトたちの様子にラティたちも気づき、駆け寄ってきた。そして祠の存在に気づいて目を見開く。


「ふや? 祠があるのです」

「あぁ。フォレオが封印されていたのと、なんか似てると思わないか?」

「言われてみれば……そんな気がしなくもないのです」


 ラティやロップルも、興味深そうに祠を凝視する。するとフォレオが、コテンと首を傾げながらマキトを見上げた。


『ねぇねぇますたー、ぼくってこんなかんじのにふういんされてたの?』

「あぁ。俺が祠に触った瞬間、封印が解けたんだよ」

『どんなふうに?』

「え? そりゃあ、勿論こうやって――」


 フォレオの質問に答えるべく、マキトは無意識に祠に近づき、触れてしまう。

 すると――


「……あれ?」


 祠が突然光り出した。フォレオと同じような反応に、ノーラやラティたちも驚きを隠せない。

 やがて祠全体が光と化し、消滅する。

 光が収まったそこには――見慣れない小さな生き物がちょこんと座っていた。


「……うぅ、なんだなんだぁ?」


 首を左右に振りながら、生き物が喋った。まさかいきなりそうくるとは思わず、マキトたちは驚き戸惑ってしまう。

 大きな耳と尻尾の付いた四足歩行の獣に見えるが、少なくとも普通の動物や魔物ではなさそうだと、マキトは思っていた。

 やがて生き物が目を開き、嬉しそうな表情で見上げてくる。


「サリア、やっとオレを迎えに来て――ありゃ?」


 しかしすぐに、目を丸くしてしまった。そしてマキトの顔を見つめ、生き物は首を傾げる。

 そして期待が外れたと言わんばかりに肩を落とした。


「なんだよ、サリアじゃねーのか。でも……なんか似てるよなぁ」


 改めて生き物は、マキトをまじまじと見上げる。対するマキトは、どう反応すればいいか分からず戸惑うばかりであった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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