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187 ジャクレン、再び



 翌朝、森から一体のドラゴンが飛び立った。

 マキトとノーラ、そしてラティとロップルを乗せたフォレオが、透き通るほどの青空を優雅に飛んでいる。

 ばっさばっさと羽ばたく音は、フォレオの気分を表しているようであった。


『うーん、おもいっきりとべるって、たーのしーい♪』

「フォレオってばご機嫌なのです」

「無理もないさ」


 またがっている大きな背中を撫でながら、マキトが笑う。


「いつもは森の上だけしか飛べていなかったからな。こんな広い平原のど真ん中を飛べるなんざ、フォレオにとっちゃ絶好のチャンスもいいところだろ」

「ん。やっぱり広々とした場所を飛ぶのは格別。フォレオの気持ちはよく分かる」

「だな」


 心地良さそうに深呼吸するノーラを見て、マキトも同じようにしてみる。やはりいつも味わっている森の空気とは、一味も二味も違う感じがした。

 数週間前にもたっぷりと堪能したはずなのに、何故か新鮮に思えてならない。


「――それにしてもさぁ」


 しかしその一方で、マキトは気になっていることもあった。


「なんでまたユグさんは、急にあんなことを言ってきたんだろうな?」


 山奥の魔力スポットにマキトたちだけで行く――それを他ならぬユグラシアが自ら提案してきたことが、どうにも腑に落ちないでいた。

 今朝も旅立つ際、神殿前の広場から笑顔で手を振って見送ってくれた。

 それ自体は嬉しいことだったが、やはり違和感は拭えなかった。


「ライザックが勧めてきた話ってだけで、最初は乗り気じゃなかったのにさ」

「ホントですよねぇ」


 ラティも同じ疑問を感じており、改めて首を傾げながら思い出す。


「なんだか魔力スポットの場所を見た時から、目の色が変わってたのです」

「うーん、やっぱり何かあるとしか思えないんだよなぁ……」


 マキトは少し考えてみるが、これといった答えが出てこない。するとノーラが、長い銀髪をなびかせながら振り向いてきた。


「行ってみれば分かる」

「え?」

「ここで悩んでても時間のムダ。そんなヒマがあるなら行ってみるべき」


 すました笑顔を向けてくるノーラに、マキトは呆気に取られる。これはこれで、いつものノーラとはどこか違うような気がした。

 しかし、言っていることはそのとおりだとも思えた。

 さっさと目的地に向かい、実際にその目で見てみる――それこそが、答えを得る最前の策であることは明らかだった。


「――そうだな。行ってみれば分かる話だよな」

「ん。だから余計なことを考えるのは、もうオシマイ」

「分かった。そうするよ」


 マキトは笑いかけながら、ノーラのサラサラな銀髪を撫でる。それがとても心地よいのか、ノーラは「んふー♪」と満足そうな笑みを浮かべるのだった。


『ねぇねぇ、ますたー! このさきにかわがみえるよー!』


 するとフォレオが、前方の少し遠くへ視線を向けながら声を上げる。


『おなかすいたし、ちょっとやすんでいこうよ』

「ん。確かにちょうどお昼どき」

「そういえばそうなのです」

「キュウッ」


 コクリと頷くノーラに、ラティとロップルも賛同する。かくいうマキトも、それに反対する理由は全くなかった。


「じゃあ、そこに下りて弁当でも食べようか」

『わーい♪』

「キュウキュウッ」


 ランチタイムが決まったことで、フォレオとロップルは大喜び。翼を大きく羽ばたかせ、休憩場所を一直線に目指すのだった。

 程なくして、マキトたちは川沿いに到着するのだが――


「おーい!」

「ワウッ、ワウッ!」


 とある人物が手を振ってきており、その隣では大きな狼の魔物が吠えている。どちらも敵対心は全くなく、ただ単に呼んでいるだけであった。

 自分たちもよく知っているその正体に、マキトたちは思わず顔をしかめる。


「……なんでジャクレンがあそこにいるんだろ?」

「まるで、わたしたちを待ち構えていたかのようなのです」

「ん。なんか怪しい」


 ノーラの言葉に、マキトたちは一斉に頷いた。昨日のライザックと、パターンが全く同じだからである。

 ジャクレンが悪い人物でないことは知っているのだが、それでも疑いの目を向けてしまうのは、致し方ないと言えるだろう。


『ねーねー、どうするのーますたー?』

「とりあえず下りてみよう。周りに変なモノとかもなさそうだし」

「ん。でも一応、警戒はしておく」

「ですねっ!」


 自然と気を引き締めながら、未だにこやかに手を振り続けるジャクレンの元へ、マキトたちはゆっくりと下りていくのだった。



 ◇ ◇ ◇



「――なるほど、そういうことだったんですね」


 出迎えたジャクレンは、マキトたちが妙に警戒していることが気になった。しかしマキトから、昨日の出来事について説明を受け、全面的に納得する。


「まさかあの男も、全く同じことをしていたとは……なんとも趣味が悪いですね」

「ん。ジャクレンも人のこと言えない」

「おっと、これは手厳しいですね。ははっ」


 演技じみた驚きと笑い声を披露するジャクレン。やはりその姿は、昨日のライザックを思い出してしまう。

 怪しいという訴えを表情のみでぶつけるマキトたち。

 どうせ軽くはぐらかされて終わりだろう、という諦めも多分にあったが、やらずにはいられなかった。

 すると――


「ウォフッウォフッ! グルルルル――」


 キングウルフが吠えだした。それもジャクレンに向かって。

 その表情はあからさまに怒っていた。マキトたちをおちょくるな――まるでそう言っているかのように。


「……そうですね。余計なことをしてしまいました」


 ジャクレンは演技じみた態度を消し、真剣な表情をマキトたちに向ける。そして姿勢を正しつつ、頭を下げた。


「不快な気分にさせてしまい、申し訳ございませんでした」

「あ、いや、別に……」


 急に態度を直してきたことに対し、マキトたちは戸惑ってしまう。それに対して苦笑を浮かべつつ、ジャクレンはキングウルフの頭を撫でた。


「今しがた、ちょっと叱られてしまったんですよ。マキト君たちを無暗にからかうんじゃないとね」

「そ、そうなんだ」

「えぇ。どうやら僕の相棒は、キミたちのことをいたく気に入っているようです」

「ウォフッ」


 キングウルフはそのとおりと言わんばかりに鳴き声を放つ。そしてのそりと動き出してマキトの元へ来た。


「ブルル――」


 鼻息を鳴らしながら、キングウルフが頭を近づける。マキトはとりあえず、そのふさふさな頭を撫でてみることにした。


「わふっ」


 キングウルフは気持ち良さそうに撫でられる。そんな相棒の姿に、ジャクレンは大きく目を見開いていた。


「驚きましたね……相棒がこんな行動を取るのは初めてですよ」

「そうなの?」

「えぇ」


 きょとんとした表情を浮かべるマキトに、ジャクレンは頷く。


(いくら気に入ったとはいえ、これは予想外の展開です。やはりマキト君、キミはただ者ではありませんね)


 ジャクレンは実に興味深そうな笑みを浮かべる。キングウルフを撫でるのに夢中となっていたおかげで、マキトはそれに気づくことはなかった。

 そこにノーラが、スッと顔を近づけてくる。


「ノーラも撫でていい?」


 一言そう尋ねた。キングウルフはジッとノーラと見つめ合い、やがて小さく鼻息を鳴らす。


「構わん、と言っているのです」

「ん。良かった」


 ラティの通訳を聞いたノーラは、即座にキングウルフの体に飛びつく。そしてその毛並みを、全身全霊を込めて堪能するのだった。


「んー、もふもふ。これはまことに至福なり」


 すりすりと頬を動かし続けるノーラは、まさに幸せそうであった。

 キングウルフも大人しく撫でられ続けている。受け入れているというよりは、気のすむまで触らせてやろう、という言葉のほうが正しいだろう。下手に拒むほうが余計に面倒となることが分かっているからだ。

 その時――どこからか間抜けな音が「ぐうぅ~」と鳴り響く。


『おなかすいたー』

「キュウッ」


 フォレオとロップルが項垂れている。その姿にマキトは苦笑を浮かべた。


「そういえば俺たち、弁当食べようとしてたんだっけ」

「あぁ、そうだったんですか。それは悪いことをしてしまいましたね」


 ジャクレンは軽く驚き、そして何かを思いついたように、フッと小さく笑う。


「折角ですし、ここは一つ豪勢なランチタイムといきましょうか」


 提案すると同時に、ジャクレンは動き出す。一体何をするつもりなのかと、マキトたちは再び呆然とするのだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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