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178 また会う日まで



「くきゅくきゅ~!」

「ちょ、いきなりなにすん、だっ!」


 くぐもった声とともにマキトはなんとか両手を使い、子ドラゴンを引き剥がす。ようやく拝めたその表情は、明らかに悲しそうであり不満そうでもあった。


「マスターと離れたくないって、そう言ってるのです」

「そう言われてもなぁ……」


 多分そうなんだろうなぁとは思っていたマキトだったが、流石にこればかりはすぐに頷くわけにはいかなかった。


「なんでかテイムできないってのもあるけど……お前がこれから成長していくことを考えると、やっぱりちょっとなぁ」

「森で暮らすよりも、このオランジェ王国のどこかのほうがいいのです」

「ん。そのほうがチビも、環境的に断然過ごしやすい」

「キュウキュウ」

『だよねー』


 示し合わせたかのように、ノーラや魔物たちも同意する。実際、旅の途中でマキトたちが、こっそりと話し合っていたのだった。

 子ドラゴンは、ここオランジェ王国で暮らしていくべきだろうと。

 ユグラシアの大森林の環境が、決して子ドラゴンと合っていないわけではない。しかしベストでもない。

 それはこの数日で、明らかに証明されているようなものであった。


(どれだけ俺たちと楽しそうにしていても、コイツの故郷に帰りたいって気持ちが薄れたことは、今まで一度もなかった)


 それだけ子ドラゴンにとっては、この国が紛れもない『帰る場所』なのだ。

 数日に及ぶ森の暮らしも、決して馴染んでいなかったわけじゃない。しかし、オランジェ王国に入国してからの子ドラゴンは、まるで不思議な力を取り戻したかの如く元気になった。

 その瞬間、マキトたちは悟ったのだ。やはり『森ではない』のだと。

 来るべき時は必ず来るのだと。

 マキトは胸が締め付けられるような思いに駆られていた。それでも今は、心を鬼にしてしっかりとしなければならない。

 そんな決意とともに、マキトは表情を引き締め、子ドラゴンと視線を合わせる。


「俺たちは、お前に強くなってほしい。だからお前とはここでお別れするんだ」

「わたしたちも寂しいのです。でもこれっきりじゃないのですよ」

「ん。必ずまた会える。そう信じることが大切」

「キュウッ!」

『ぼくたちはずっとともだちだもんね!』

「あぁ、フォレオの言うとおりだ」


 マキトたちからの強い視線は、子ドラゴンも感じ取っていた。そこには確かな意志が込められている。

 別れたくない。でもマキトたちの気持ちにも、しっかりと応えたい。

 子ドラゴンは体を震わせながら、小さくコクリと頷いた。


「……ありがとう」


 マキトは子ドラゴンの背中を優しく撫でる。ラティたちはもう、何も言葉をかけようとはしなかった。

 子ドラゴンも俯くだけで、涙を流すようなことはなかった。


「ねぇねぇ、そのことなんだけどさ――」


 するとそこに、リスティがてくてくと歩いてきた。


「良かったらおチビちゃん、私が引き取って育ててもいいかなぁ?」


 そしていきなり、笑顔でそんなことを言ってきたのだった。

 マキトたちはこぞって目を丸くする。このお姉さんは、いきなり何を言い出してくるんだろうかと言わんばかりに。


「一応言っておくけど、別に私がマキト君たちの代わりになるとは思ってないよ」


 そんな彼らの表情をそれとなく察したのか、リスティは苦笑する。


「この子は、マキト君たちとこれっきりになりたくないってことでしょ? 私も全く同じ気持ちなんだ。絶対にまた会いたいし、サヨナラなんか言いたくもない」

「……そりゃ、俺たちもなぁ?」


 マキトがノーラたちに視線を向けると――


「ん。同感」

「ですよねぇ」


 ノーラとラティも同意し、ロップルとフォレオも無言でコクコクと頷いた。なんだかんだで皆、リスティともそれなりに打ち解けていたのだ。

 正体が王女だと分かった今でも、マキトたちは接し方を変えるつもりはない。

 本人がそうしなくていいと言っているのだから、尚更であった。

 また会いたい――そうリスティが言ってくれたことも、嬉しく思っていた。むしろそう言ってくれるとは思わなかったほどであり、少し驚いてもいたが。


「このおチビちゃんが、私たちの絆の証になってくれる――ううん、むしろ私がそうしたいから、この子を引き取りたいって思ったの」


 リスティが子ドラゴンを抱きかかえる。子ドラゴンも驚きはしていたが、拒否することもなく大人しい様子であった。


「いつか、私が育てたこの子に乗って、もっと成長したフォレオちゃんに乗ったマキト君たちと再会する――それができたとしたら、面白いと思わない?」


 ニカッと笑うリスティは、心から楽しそうであった。マキトは試しにその光景を思い浮かべてみる。


「……確かにいいな、それ」

「でしょー♪」


 無意識に呟いたマキトの言葉に、リスティが嬉しそうに笑う。そして子ドラゴンを両手で抱え上げ、互いの視線を重ね合った。


「ね、どうかな? 私と一緒に来ない?」


 澄んだ瞳に爽やかな笑み。抱える手は柔らかく、どこまでも優しい感じ。

 何一つ嫌な要素が見つからない――それが子ドラゴンにとっての、リスティに対する感想であった。

 マキトたちと一緒にいられないのは残念だ。しかし――


「私は絶対に、あなたを立派に成長させてあげる。マキト君たちとまた会って、一緒に冒険するためにね」

「くきゅ……」


 リスティの優しい言葉が、子ドラゴンの心を少しずつ動かしていく。しかしまだ迷いがあり、決断しきれないでいた。

 子ドラゴン自身、決して優柔不断というわけではない。しかし大きな決断に対していきなり決めることは、まだできないのだ。

 無理もないと言えば無理もない話だが。


「――行け!」


 その時、重々しくも力強い声が聞こえてきた。

 マキトたちが振り向くと、親ドラゴンがジッと子ドラゴンを見つめていた。


「お前はここから旅立つ時が来たのだ。生まれたての雛ではないのだから、何の問題もないだろう」

「く、くきゅっ?」


 突然の言葉に子ドラゴンは驚きを隠せない。そんな子ドラゴンに構いもせず、親ドラゴンはリスティに視線を向けた。


「我が子をそなたに託す。どうか強くなれるよう、厳しくしてやってほしい」


 そして深々と頭を下げてきた。リスティは呆気に取られていたが、すぐさま気を持ち直し、笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。必ず私が、この子を立派に育ててみせますわ!」


 そう力強く決意表明する姿は、リスティに加えて、王女クリスティーンとしての気持ちも含まれていた。

 リスティは改めて子ドラゴンに視線を向け、ニッコリと笑いかける。


「――私と一緒に来てくれるかな?」


 その申し出に対し、ジッと視線を合わせる子ドラゴン。そして――


「くきゅっ!」


 笑顔で力強く頷いたのだった。そして子ドラゴンは飛び上がり、親ドラゴンへと向かって行く。


「くきゅくきゅ、くきゅきゅーっ!」

「うむ」


 話しかけている子ドラゴンに対し、親ドラゴンは一言頷くだけだった。しかしそれでも会話が成立しており、親子そろって満足そうであった。


「なんか、決まったみたいだな」

「ん。本当に良かった」


 マキトとノーラがそれぞれ笑い合う中、リスティが彼らの元へやってくる。


「皆、この度は本当にありがとう」


 そしてリスティは、元気よく深々と頭を下げた。


「マキト君たちと出会えて本当に良かった。絶対にまた会おうね!」

「――もちろん!」


 差し出してきた右手をガシッと掴む。固い握手を交わしつつ、マキトも力強い笑みを浮かべるのだった。


「いつかまた、絶対に」

「ん。絶対に」

「また会える日が楽しみなのです」

「キュウッ」

『たのしみたのしみ♪』


 ノーラと魔物たちも笑顔を見せる。彼らの別れの挨拶は、実に明るく楽しそうな雰囲気を出していたのだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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