177 とりあえずは一区切り
「……またこりゃあ、とんでもないことになってるな」
頂上の広場に戻ってきたマキトたちに対し、ディオンが放った一発目の感想がそれであった。
彼の視線の先には、ドラゴンと化したフォレオが君臨している。
その見た目だけで言えば、雄々しく勇ましい立派な姿ではあるのだが――
『えへへー♪ どうどう? すごいでしょー♪』
中身は無邪気なフォレオそのものでしかないため、どうにも大きなギャップを感じてならないのだった。
それでも現実は現実であるため、受け入れるしかないのだが。
「今回の件のお礼としてもらった特殊な木の実で、フォレオちゃんがドラゴンに変身できるようになった……ねぇ」
マキトたちから事情を聞いて、一応の理解はしているつもりだが、やはり衝撃が強かったらしく、リスティの表情は引きつっていた。
「パワーアップって、そんな簡単にできちゃっていいのかなぁ?」
「うむ……我も正直言って、こんなあっさり成功してしまうとは思わなんだ」
親ドラゴンも重々しい表情で頷く。純粋に戸惑っている様子からして、かなりの想定外であることがうかがえる。
「しかしまぁ、結果として表れてしまっているからな。霊獣がそれだけ凄い素質を持っているということだろう」
「そうなるよねぇ……」
「だな」
リスティもディオンも、親ドラゴンの意見には同意であった。その一言で済ませていいのだろうかという疑問もあるが、ここでそれを言ったところでどうにもならないことも、一応分かっているつもりではあった。
「なぁ、フォレオ。魔力のほうは大丈夫か?」
バッサバッサと楽しそうに飛んでいるフォレオに向かって、マキトが両手をメガホン代わりにして声を張り上げる。
「飛んでる途中で急に元に戻って、そのまま落っこちてくるとかはナシだぞー?」
『だいじょーぶだよー!』
フォレオがゆっくりと下りてくる。そして大きな体が光り出し、あっという間に元の小さな姿に戻るのだった。
『けものすがたのときみたいに、まりょくがなくなってきたらわかるから!』
「……今がまさにそれか?」
『うん!』
自信満々に頷くフォレオ。それに対してマキトたちは、どことなく不安そうな表情が拭えないでいた。
「急に元に戻って真っ逆さまってのは……大丈夫そうってことか」
「でも、色々と確かめたり練習したりしたほうがいい。知らないままでいるほうがよっぽど怖い」
「ノーラの言うとおりなのです。何かがあってからでは遅いと思うのです」
「キュウ!」
確かに凄い能力だということは、皆も認めてはいるのだ。しかしそれに伴うリスクを見過ごすことはできない。そう言いたいのである。
一方フォレオも、マキトたちの不安そうな表情や言葉は見過ごせず――
『……わかった。じゃあもっとれんしゅうするよ!』
素直に受け入れて頷くのだった。
『あんぜんにとべるようになって、ますたーたちをのせれるようになるからね!』
「ハハッ、頼もしいもんだ」
マキトは小さく笑う。ノーラやラティたちも、安心したような表情となった。
実際、是非とも使いこなして欲しいとも思ってはいた。空を飛べるようになれば行動範囲も広がる。単純に大空の散歩を自分たちでしてみたい気持ちも、彼らの中には大きく膨れ上がりつつあった。
「あ、そうだ。まだちゃんと礼を言ってなかったっけ」
はたと思い出したマキトは、親ドラゴンに視線を向ける。
「おかげでフォレオがパワーアップできた。本当にありがとう」
「気にすることはない。いつか一緒に空を飛べる日を、楽しみにしているぞ」
「くきゅーっ!」
ニッと笑いながら親ドラゴンが頷き、その隣から子ドラゴンが「ぼくもー!」と言わんばかりに飛びあがった。
そしてそのまま、マキトの頭にふさっと乗っかる。
「くきゅくきゅー♪」
「ハハッ、いつか皆で、一緒に旅でもしような」
「くきゅっ!」
マキトに首の後ろを優しく撫でられ、子ドラゴンは嬉しそうにする。それを見たラティたちが、ずるいと言いながらマキトに群がるという、彼らにとってはいつもの光景が繰り広げられるのだった。
そして、そんな楽しそうにしている姿を見守りながら、リスティは苦笑する。
「私から言わせれば、変身できるようになって、すぐにあれだけ飛べるほうが凄いような気がするんだけどねぇ」
「全くだ」
ディオンも笑みを零す。ドラゴンライダーとして、これまでにもたくさんのドラゴンが空を飛ぶ訓練をしているのを見たことがあるのだが、フォレオの飛行技術は明らかにいいほうだと言えていた。
まだ不安定さはかなり目立ってもいたが、むしろそれが当然だと思い、少しだけ安心したほどである。
「確かに訓練は必要だろうが、フォレオならすぐに順応するだろう。あの子たちが大空の旅を自由にできるようになるのも、時間の問題だな」
世間的には【色無し】と見なされている少年が、少女や魔物たちとともに、どこまでも広がる未来へと飛び出していく。
そんな姿を見てみたいと、ディオンは心から期待していたのだった。
「うん――そうだね」
そしてリスティもまた、同じようなことを考えつつ、笑みを浮かべるのだった。
◇ ◇ ◇
「竜の山の一件も、とりあえずは一区切りってところだね」
リスティが辺りを見渡しながら、生き生きとした表情を見せる。
「大事な魔力スポットが一つ失われてしまったけど、ドラゴンたちの命に代えられないということならば、きっとお父様やお兄様も納得してくれると思うよ」
その言葉を聞いたマキトは、目をパチクリとさせた。
「リスティのお父さんとお兄さんってことは……」
「うん。この国の王様と王子様だね。そう遠くないうちに、お兄様はお父様の跡を継ぐと思うよ」
「……お兄さんがいるんだ?」
「まぁ、ね」
兄のことを尋ねた瞬間、リスティは顔をしかめる。その突然の変化に、マキトは首を傾げた。
「どうかしたの?」
「えっ? あぁ……いやまぁ、ちょっとね」
リスティは我に返った反応を見せ、明るい声ではぐらかす。正直、何の答えにもなっていないが、何かと面倒な兄なのだろうと、とりあえずマキトは納得しておくことにした。
「娘よ。我の背中に乗れ」
そこに黙って聞いていた親ドラゴンが動き出す。
「我が娘の城まで送り届けてやろう。ついでに我も、近くの山へ行って他のヤツらの顔を見に行きたいと思っていたところだ」
「あぁ、うん。そうしてもらえるとすっごい助かるよ。お願いするわ」
「リスティ。お父上によろしく伝えておいてくれ」
「分かったよディオン。今度お城に寄ってよ。お父様も会いたがってるから」
「りょーかいだ」
覗き込むようにしてニコッと笑いかけるリスティに、ディオンもニカッと笑みを返すのだった。
そんな会話を黙って聞いていたマキトは、思いっきり両腕を上に伸ばす。
「……俺たちも森へ帰ろうか。目的は果たしたし、もうここに用はないだろ」
「ん。ない」
フォレオとじゃれ合っていたロップルを抱きかかえながら、ノーラが頷いた。いつものモフモフを堪能しながら、ノーラはフォレオに視線を向ける。
「帰り道は、空を飛ぶいい練習になる」
『うん。ぼくがんばるよ!』
胸を張ってやる気を見せるフォレオの頭を、ノーラは笑顔で優しく撫でる。これで全ての方向性が決まったと、そう思われた時だった。
「くきゅ……くきゅうぅ~っ!」
子ドラゴンが突然鳴き声を上げ、バサバサッと音を立てた羽ばたかせる。
そして――
「わぷっ!?」
マキトの顔にベッタリと張り付くようにして、子ドラゴンが思いっきり飛びついてきたのだった。
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