174 異変の原因
「さて、ここらへんで少し、今回の原因について考えてみましょうか」
気を取り直しつつ、リスティがパンパンと手を叩く。
「原因そのものは魔力スポットの暴走。これはもう明らかになっているけど、問題はどうしてそうなってしまったか?」
「確かにそこが問題だな」
ディオンも腕を組みながら頷く。
ちなみにリスティの正体は明らかになったが、ここは王都や王宮じゃないからという理由で、王女ではなく普通に冒険者の後輩扱いにするよう言われた。ディオンが敬語を使っていないのはそのためである。
彼も予感はしていたのか、言われた際には苦笑してすぐに受け入れていた。
むしろそんな反応をされたことで、リスティがつまらなさそうに頬を膨らませていたのはここだけの話だ。
「誰かが、魔力スポットにイタズラでもしたのかなぁ?」
そう呟きながら、マキトが魔力スポットのあった場所を見つめる。それが聞こえたリスティは、軽く目を見開いて反応した。
「マキト君、どうしてそう思ったの?」
「え? あぁ、いや……前にチラッと聞いたことがあったんだ。魔力スポットの暴走はあり得るけど、自然に起こることはそうそうないって」
「ん。ノーラもマキトに同感」
キュッと彼のシャツを掴みながら、ノーラが小さく笑う。
「あの魔力スポット、どう見ても普通じゃなかった。自然な暴走で、あそこまでおかしくなるとは思えないほど」
「つまり、人災の可能性が高いということね?」
「ん」
リスティの問いかけに、ノーラは真剣な表情でしっかりと頷いた。そこに、親ドラゴンがゆっくりと動き出して、顔をマキトたちに近づける。
「それなら、我に少し心当たりがある」
「えっ、そうなの?」
マキトたちが目を氷見楽と、親ドラゴンは頷いた。
「うむ。あれは数日前の、真夜中のことだ――」
ドラゴンたちが寝静まる中、この頂上の魔力スポットへ続く道に、何者かが突然パッと姿を現した。
偶然それに気づいた親ドラゴンは、何事かと様子を伺っていた。
夜で辺りはとても暗く、あくまでそれは『黒い影』にしか見えなかった。その影は魔力スポットのほうに向かっていったという。
影が戻って来ることはなく、忽然と気配が消えてしまった。
親ドラゴンは眠らずにずっと見張っていたが、朝になってもそれは全く変わらなかったとのことだった。
「――ヤツがそこで何をしていたかまでは、我にもよく見えなかったがな」
「いや、それだけ分かれば十分だよ。ありがとう」
面目ないと言わんばかりに頭を下げる親ドラゴンに、リスティが優しく笑いかけながら礼を言う。
そして、表情を引き締めつつ、聞いた話から可能性を割り出していく。
「恐らくその影が、魔力スポットに何かを仕掛けたんだろうね。そして転移魔法か何かでこの山から去った、ってところかな」
「転移魔法が使える魔導師となれば……もうヴァルフェミオンぐらいしか、可能性が思い浮かばんな」
ディオンも腕を組みながら重々しい口調で言った。するとラティが、きょとんとした表情で尋ねる。
「何でそう言い切れるのですか?」
「世界広しと言えど、転移魔法を簡単に使える魔導師は限られる。とにかく複雑で難しいと言われているからな。魔法が専門外の俺でさえ知っているくらいに、有名な話でもあるんだ」
「ごく一部の魔力に恵まれた名家でもなければ、当たり前のようには使えないよ」
「ほぇー、そうだったのですね」
ディオンとリスティの説明に、ラティがぽけーと呆ける。そこでマキトは一つ、思い出したことがあった。
「そういえばこないだ、メイベルも普通に転移魔法を使ってたような……」
「ん。使ってた」
ノーラも思い出して頷く。
「当たり前のように使ってたから、ノーラも使ってみたかった。でもノーラじゃ無理だって、メイベルから言われてショックだった」
「そんなこと言われてたのか?」
「ん。実はこっそりと、メイベルに聞いてた」
「いつの間に……」
マキトは少しだけ当時の出来事を思い返してみるが、ノーラがメイベルに何かを尋ねているシーンは、全く浮かんでこなかった。
当の本人が言っているとおり、本当にこっそりと聞いていたのだろう。
何気に行動力があるノーラであれば、あり得ない話ではない――マキトはそう納得していた。
「メイベルさんも、かなり凄い魔導師さんだったのですね」
ラティが顎に手を当て、ふむふむと頷いている。
「思えば、あの戦いのときも凄かったのです」
『うん。かっこよかったよねー』
「キュウッ♪」
その時のことを思い出し、フォレオとロップルも笑顔を浮かべ合う。そんな魔物たちの姿に微笑ましさを感じつつ、マキトはリスティに尋ねる。
「リスティも、なんか凄い魔法とか使えたりしないの?」
「ん。今更だけど、ノーラも少し気になる。実は転移魔法が使えるとか……」
ノーラも期待を込めた表情で、リスティを見上げる。オランジェ王家に生まれた彼女ならば、もしかしらだと思ったのだ。
しかし――
「いやいや、転移魔法は流石に無理だよ」
リスティは苦笑しながら、手を左右に振るのだった。
「私ができるのは、せいぜい魔力で剣を生み出して武器にするぐらいだよ。後は殆ど基礎を網羅している程度かな。そのメイベルって子みたいに、転移魔法のような難しい魔法は、残念ながら使うことはできないね」
「……そうなんだ」
「残念」
マキトとノーラが、あからさまにガッカリしたような声を出す。それに対して少しばかり申し訳なさを覚えつつ、リスティは肩をすくめる。
「やっぱり特殊な魔法に精通している名家には、いくら王家でも勝てないよ。もしくはヴァルフェミオン――やっぱりこれに尽きるかな」
それは、もはや常識の一つであった。
魔法と言えばヴァルフェミオン――今までもそうであり、これからもそれが覆ることはあり得ないと、誰もがそう認識しているほどだ。
ディオンも無言のまま頷いており、納得を示していることが分かる。
誰も否定しないその状態に、マキトたちは改めて呆けてしまうのだった。
「そうだ。黒い霧も晴れたし、多分もう『見える』かもね」
リスティがそう言いながら歩き出す。そんな彼女の突然の行動に、マキトたちはきょとんとしたまま視線だけで彼女の姿を追う。
「リスティ?」
「ちょっとついてきてー!」
歩きながらそう叫ぶリスティに、マキトたちは首を傾げつつ、とりあえず従うことに決めた。
その先は魔力スポットのあった場所であった。
今はもう影も形もなくなり、本当に何もない場所と化しているはずだった。
黒い霧が晴れた今も、その光景は変わらず、代わりに広々とした景色が一望できる場所となっている。
「ほら、見て」
そこから確認できる景色の一部を、リスティが指差した。
大陸と海の間に、小さな島が存在していた。
その島は普通の島ではない。まるで塔のような断崖絶壁となっており、そのてっぺんには建物が密集している町のような形となっている。
マキトたちはすぐに、その正体を察した。
差していた指を下げながらリスティは神妙な表情とともに言う。
「あれが、世界で一つだけしかない魔法学園都市――ヴァルフェミオンだよ」
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