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167 立ちはだかる盗賊たち



 それからマキトたちは、更に平原を進んでいく。獣姿のフォレオは、三人を乗せたままの移動も相変わらず軽やかであった。


「フォレオちゃん、随分と長く変身姿を保ってられるんだね」


 全然疲れる様子を見せないフォレオに、リスティが感心する。それに対してラティが誇らしげな笑みを浮かべる。


「当然なのです。わたしたちは魔力スポットでパワーアップしたのですから!」

「ん。それもあるけど、それだけじゃないと思う」


 ノーラが静かに指摘する。


「ここ何日かの旅で、フォレオの体力が大幅に上がった。つまり鍛えられた」

「あぁ、それは確かにありそうだな」

「なんやかんやでずっと走り続けてましたからねぇ。あり得るのです」

『えへへー♪ ぼく、すごい?』

「あぁ、すごいぞ。よく頑張ってるよな」

『えっへん!』


 ご機嫌そうなフォレオの声に、リスティは微笑ましくなる。フォレオの声が聞こえてくるというよりは、頭の中に直接響いてきているような感覚であることも、今となってはもう全く気になっていない。

 マキトが言っていたとおり、そういうものなのだと思うことにしたのだ。

 真実がどうであれ、フォレオとマキトたちは楽しくしている。それだけで十分なのだろうと、リスティは思っていた。


「おーい!」


 ドラゴンに乗ったディオンがゆっくりと下りてきた。それと同時に、フォレオの走るスピードも少しだけ緩くなる。


「もう気づいていると思うが、あそこに見えるのが、竜の山の入り口だ」


 ディオンが指をさしたその方向に、マキトが目を凝らしてみる。確かに頂上へ続いているであろう登山口が存在していた。


「……くきゅー」


 子ドラゴンが顔をしかめながら頂上を見上げる。遠くからでも薄々と感じてはいたことだが、やはり様子がおかしい。


「やっぱり頂上だけが、黒い雲みたいなのでスッポリ覆われてる感じだな」


 マキトも手のひらを目の上でかざしながら、顔をしかめる。


「あそこだけ雨、ってことはないよな?」

「普通にないと思う」

「だよな」


 ノーラの指摘にマキトは苦笑した。

 雷が鳴る音も全く聞こえず、その周りは見事な雲一つない快晴。頂上だけが大荒れな天気とは考えにくい。

 つまり、悪天候以外の『何か』が頂上で起きている。

 それがマキトたちの考えている予想であった。


「やっぱり、魔力スポットが悪さしてるってことなんかな?」

「その可能性は高いと思うのです。頂上からいやーな感じがするのです」

「キュウッ!」

『ちかづくたびにへんなのがつよくなってくるー』

「くきゅきゅー?」


 流石に魔力のない子ドラゴンには、そこまでは分からないのだろう。ラティたちの言葉に首を傾げていた。

 そして再び飛び上がりながら視線を前に戻したその時――


「……くきゅっ!」


 子ドラゴンは何故か驚きの反応を示し、慌ててマキトのほうへと飛んできた。そしてそのまま、マキトの服にガシッとしがみついてしまう。


「お、おい、一体どうしたんだよ?」

「くきゅー……」


 マキトが戸惑いながら問いかけるも、子ドラゴンは怯えて震えるばかり。どう見てもただごとではない様子だ。


『ますたー! このさきになにかがいるよー!』


 そしてフォレオもまた、慌てた様子でそう叫んでくる。マキトも前方に視線を凝らしてみると、確かにそれはいた。


「あれは……人の集団っぽいな」

「くきゅぅ」


 子ドラゴンの情けない声に、マキトが優しく背中を撫でる。すると子ドラゴンが鳴き声を発し、何かを告げようとしてきていた。

 ラティがふんふんと頷き、そしてクワっと目を見開く。


「ええっ! ドラゴンちゃんを捕らえていた人たちがいるのですか?」

「それは本当なのか?」


 マキトも驚きながら問いかけると、子ドラゴンがコクコクと無言で頷く。それを後ろから見ていたリスティは、険しい表情で前方を見据えた。


「なるほど……恐らく盗賊の集団だろうね。あそこで待ち伏せしてたんだ」

「狙いはチビスケか」

「多分ね」


 人間族の盗賊集団についての噂は、リスティも耳にしていた。


(わざわざオランジェ王国を抜け出してから、もう一度こっそり入国してきたと聞いたときは、流石に何かの間違いではないかと思っていた。しかしそれは間違いでもなんでもない真実だったってワケだね)


 それも全ては、竜の子供一匹を捕まえるためだとしたら――その執念深さには、呆れを通り越して敬意を表したくすらなってくる。

 一方、盗賊たちもマキトたちと子ドラゴンの登場に、目を丸くしていた。


「本当にあのチビドラゴンがいるぞ!」

「報告を聞いたときは、まさかと思ったが……」

「すげぇ! 親分の言ったとおりになっちまいやがったぜ!」


 盗賊たちが次々と、驚きと喜びの入り混じった引きつった笑みを見せる。そんな彼らの中心では、大柄な荒くれ男がニヤリと笑っていた。


「見ろ。やっぱり俺様の読みは当たるってことだ……野郎ども、準備はいいか!」

「勿論ッスよ、親分っ!」

「今こそ俺たちの力を、盛大に見せつけてやるときってもんですよ!」


 荒くれ男こと親分の掛け声に、スキンヘッドの男とバンダナの男が答える。そして他の手下たちも次々と野太い声を上げていった。

 そしてその声は、マキトたちのほうにもしっかりと聞こえていた。


「マスター、あの人たち完全にわたしたちを狙おうとしている感じなのです」

「あぁ。考えるまでもないな。さて、どうしたもんか……」

「相手をするのは面倒。でも逃げたら逃げたで、もっと面倒になる」

「ノーラちゃんの言うとおりだろうね」


 リスティが前方を見つめながら、顔をしかめる。


「盗賊たちをばらけさせるのは得策じゃない。一ヶ所に固まっている今だからこそ相手にしやすいってもんだよ」

「つまり、ここで戦うしかないってこと?」

「そうなるかな」


 マキトの問いかけにリスティは頷きこそしたが、ここであまりそうしたくない気持ちもあった。

 本命は山の頂上なのだ。ここで全力を使い果たすような真似はしたくない。


「くそっ、何かいい手はないのか?」


 舌打ちをしながら、マキトは盗賊たちを睨みつける。

 このまま強引に正面突破できれば一番手っ取り早いのだが、ラティやフォレオの力だけでは流石に無理なことぐらい、マキトも分かっているつもりだった。


『しょうめんとっぱしたいけど……むりだよね』

「フォレオ……」


 まさか自分と同じことを考えていたとは――ペットは飼い主に似るという言葉を聞いたことはあったが、まさかこのタイミングで思い出すとは思わなかった。

 マキトは改めて表情を引き締める。

 とにかくもう、盗賊との戦いは避けられないと、そう思った時だった。


「ここは俺たちに任せろ!」


 ディオンを乗せたドラゴンが、盗賊たちに向かって滑空していく。


「キミたちは先に行け! コイツらは俺たちが引き受ける!」


 その叫びと同時に、凄まじい咆哮をドラゴンが放つ。盗賊たちの多くが驚いて戸惑いを見せ、バタバタと何人かが、恐怖で腰を抜かしてしまう。

 しかし親分を含む数人は、ドラゴンに向けて好戦的な笑みを浮かべていた。

 ディオンもそれにしっかりと気づいており、相手にとって不足なしという言葉を胸に抱きつつ、腰に携えていた剣をスッと静かに抜いた。

 再び、ドラゴンが咆哮を解き放つ。

 腰を抜かしていた盗賊たちが次々と動き出し、集団の塊が崩れ出した。

 彼らの奥に存在する山の入り口の姿が、少しだけ見えてきた。


「フォレオちゃん、今のうちに正面突破を!」

『えっ?』

「ディオンたちの行動をムダにしない!」


 リスティが険しい声で叫ぶ。確かにそのとおりであることはマキトも分かる。もはや驚いている暇も、そして考えている暇すらないことも。


「フォレオ、思いっきり行け!」

『……わかったっ!』


 気合いを込めた咆哮が、フォレオの口からも放たれる。それに驚いた盗賊たちが更に混乱を重ね、集団の塊を崩していく。

 フォレオが力強く走り出しながら、魔力のブレスを解き放つ。

 遠くからの攻撃は、盗賊たちに命中させることなど期待していない。道を開けさせるために放たれたものであった。

 まさかそんな攻撃が来るとは思わなかったらしく、親分も驚きを隠せない。それがマキトたちにとって、大きな隙となった。


「そこだーっ!」


 マキトの掛け声とともに、フォレオはわずかに空いた道を突き進む。見事なくらい綺麗に、盗賊たちをかいくぐることに成功した。

 そのままフォレオは、マキトたちを乗せて山を勢いよく駆け上がっていく。

 盗賊たちがそれに気づいて追いかけようとしたところに、ディオンを乗せたドラゴンが道を塞ぐように降り立つのだった。

 颯爽と飛び降り、剣を突きつけながらディオンが言う。


「お前たちを通すワケにはいかない。ここで俺たちの相手をしてもらおう」

「テメェ……舐めたことしてくれんじゃねぇかよ」


 親分が大きな斧を掲げ、こめかみをぴくつかせる。スキンヘッドやバンダナも、してやられた怒りをぶつけたくて仕方がなく、他の盗賊たちとともに剣や斧などの武器を手にしていた。


「やっちまええええぇぇぇーーーーっ!」


 野太い親分の叫びが、盗賊たちを勢いよく突き動かす。対するディオンは、冷静な表情でドラゴンとともに迎え撃つのだった。


(皆……山の異変を頼む!)


 マキトたちに全てを賭けつつ、ディオンは盗賊たちに向かって駆け出した。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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