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165 リスティとの旅路



「えっ、竜の山へ一緒に?」

「リスティが?」

「そ。あなたたちに同行させてほしいの♪」


 目を丸くするマキトとノーラに、リスティが笑顔で頷く。町の食事処に、他の客がいなかったのは幸いだったかもしれない。もしいたらとんでもない注目を集めていたことだろう。

 それくらいリスティは、大っぴらに申し出てきたのだった。

 ディオンも冷静を装ってはいるが、微かに口元が引きつっている。急に何を言い出すんだと、もしかしたらそう言いたいのかもしれない。


「全くもって気は進まんが……まぁ、いいだろう」

「やった♪」


 ディオンの返事に、リスティは笑顔で両手の拳を握り締める。そのやり取りにマキトたちは再び揃って目を見開いていた。

 主に、同行の許可を出したディオンに対して。


「……何であっさり許可?」

「普通ならダメだって言いそうなもんだけど」


 ノーラに続き、マキトも率直な感想を述べる。


「ディオンさんらしくないのです」

「キュウキュウ」

『なにかあるのかなー?』

「くきゅ?」


 魔物たちもこぞって首を傾げている。その目はどこまでも純粋であり、素直な疑問として向けられていた。

 それが分かるだけに、尚更ディオンも居心地が悪くなる。

 だからと言って、ここで無視することもできない。自分は引率者として子供たちをここまで連れてきたという強い自負がある。ちゃんと答えなければならない。

 なによりも――


「「「「「「…………」」」」」」


 その純粋な視線がまっすぐ射貫いてきているような気がして、答えないという選択肢はディオンの中からいち早く削除されたのだった。

 そして軽くため息をつき、ディオンは言う。


「彼女はオランジェ王国の出身であり、この国のことをよく知っている。当然、竜の山のことも例外じゃない。むしろ赴いた回数だけならば、俺よりも多いとすら言えるくらいだろう」


 ディオンはどこまでも淡々と話す。さっきまでの居心地の悪そうな表情は、一体どこへ行ったんだと問いかけたくなるくらいに。

 少なくともリスティはそう思っていたが、マキトたちは何の疑問も感じることなく聞いていた。


「多少お調子者の面が目立つのは否めないが、同行者としては申し分ない。いざとなれば冷静かつ適切な判断ができる――俺はそれを知ってるから、リスティの同行を許可したってワケだ」

「へぇ、そういうことだったんだ」


 マキトが頬杖をつきながら納得する。


「確かによく知ってる人なら、いてくれると助かるもんな」

「ん。竜の山が危険な場所になってるなら、返事を渋るのも無理はない」

「納得なのです」

「キュウッ」

『なっとくなっとくー♪』

「くきゅくきゅっ」


 ノーラや魔物たちもまた、揃って笑顔で頷いていた。

 実のところ、リスティの同行自体は、最初から反対する気など全くなかった。謎の少女でありながらも、とりあえず危ない雰囲気は感じなかったのだ。

 気になったのは、あくまでディオンが『らしく』なかっただけ。それが解消されたことにより、もうマキトたちの中で興味はなくなっていた。

 そんなマキトたちの様子を察したディオンは、心の中で安堵する。

 確かに今の話に嘘はない。しかしながら、リスティに対する全ての情報を明かしたわけでもないのだ。

 明かさないのではなく、気軽に『明かせない』という意味で。


「流石は腕利きドラゴンライダーさん。はぐらかしも上手でございますね♪」

「はぁ……」


 ニンマリとした笑みを浮かべるリスティに対し、ディオンは疲れましたと言わんばかりの大きなため息をつく。


「勘弁してくださいよ――あなたって人は」


 その小さな呟く声は、マキトたちの喧騒によってかき消されたのだった。



 ◇ ◇ ◇



「うわぁ、すごいすごーい♪」


 フォレオの背に乗って疾走するその体感に、リスティは大興奮していた。獣姿に変身するだけでも驚いていたが、今はもうそれを軽く超えている。細かいことを気にしたほうが負け――リスティは割と本気でそう思っていた。


「……リスティ、うるさい」


 ノーラが不機嫌そうに顔をしかめていた。


「はしゃぐなら黙ってはしゃいで。爽快な気分がだいなし」

「何よー! 別にいーじゃないのよー!」

「うるさい黙れ」

「ぶー!」


 リスティとノーラが言い合っている。そんな二人に挟まれる形で、マキトは気まずそうな表情を浮かべていた。

 フォレオに三人が乗ること自体は大丈夫だったが、問題はその順番だった。

 体が一番小さいノーラが先頭になることは決定であり、その後ろはマキトとリスティのどちらが二番手でもいい感じであった。しかしノーラが、リスティが二番手だけは止めてと、いつにも増して強い圧をかけてきたのだった。

 マキトからすればどちらでも良かったので、ノーラの意見に従おうとあっさり従うことに。その際にリスティが、好かれてるねぇとからかいを込めた笑みを浮かべてきたのだが、マキトはきょとんとするばかりであった。

 そしていざ町を出て、竜の山を目指して出発してからは、ずっとこんな調子が続いているのだった。

 一番気分が台無しになってるのは俺じゃないのか――マキトはそう言いたくて仕方がなかったが、なんとなく言えないまま今に至る。

 しかし何も言わないというのも耐えられず、とりあえずフォレオに話しかける。


「フォレオ。重くないか?」

『だいじょーぶ! ひとりくらいふえても、どうってことないよー!』


 むしろ望むところだ、と言わんばかりにフォレオは気合いが入っている。こりゃ確かに大丈夫そうだとマキトは思い、それ以上は聞かなかった。


「うーん、それにしてもホント最高だなぁ♪」


 リスティが深呼吸し、少しひんやりとする空気をふんだんに味わう。


「今までに乗ったどんな馬よりも、圧倒的に乗り心地いいし」

「……馬?」


 訳の分からないマキトは、思わず声を上げてしまう。それに続いてラティが、マキトの服の中から首だけを後ろに振り向く。


「リスティは、普段お馬さんに乗ってるのですか?」

「えっ――あぁいや、その……」


 急に言葉を詰まらせるリスティに、マキトとラティは揃って首を傾げる。

 何か変なことでも聞いたのだろうかと疑問に思っていたその時――


「そもそも普通の人は、普段の生活で馬になんか乗らない」


 ノーラが前方を向いたまま、しれっと言い放った。


「乗るとしたら、馬を飼える貴族や王族ぐらい」

「へぇー、そーゆーもんか……ってことはリスティも?」

「知らない。そもそもノーラは興味ない」


 どこまでも淡々と言うその口調は、どこか鋭い冷たさも感じられた。そんなノーラの妙な感じに、マキトは少しだけ戸惑いを覚える。

 その一方でリスティは、気まずそうに視線を右往左往させていた。

 口をまごまごと動かしているそれは、まるでなんとか誤魔化す言葉はないものかと言わんばかりであった。

 マキトもノーラも、特にそれ以上何も聞いてこない。ただ単に二人とも興味がないだけなのだが、リスティからしてみれば、敢えて聞かないことで自分を追い詰めようとしてきているのではと、そんなふうに考えていたのだった。

 この状況をどう打開するべきか――リスティが思考を巡らせていた時だった。


「――マキト、あれ!」


 ノーラが前方を指さした。マキトが視線を凝らしてみると、そこには一匹の魔物がフラフラと近づいてきていた。


「あれは……ストロングパンサーよ」


 我に返りながらリスティが言う。完全にフォレオの進行方向に存在し、このままでは対峙してしまうことは避けられない。


「下手に避けようとすれば、狙われる可能性もある……そうなるくらいなら、まっすぐ立ち向かったほうがいいかも」

「分かった」


 リスティの進言にマキトは頷いた。そしてフォレオを励まそうとしたその瞬間、マキトはあることに気づく。


「……ちょっと待った。なんか様子おかしくない?」

『えっ? そう?』


 フォレオも少しスピードを緩めながら、ストロングパンサーを凝視する。相手もマキトたちに気づいており、鋭い目で睨みつけてきていた。

 しかしその体は、フラフラと不安定であった。

 よく見ると歩くのも辛そうであり、もはや立っているのがやっとなほどだ。

 そして――


「あっ、倒れちゃったのです!」


 ゆっくりと草むらにひれ伏すように身を沈めるストロングパンサーの姿に、ラティが思わず声を上げる。マキトたちも驚きを隠せなかった。


(元々ボロボロの状態だったってこと? まぁ、これなら襲われる心配は……)


 リスティが心の中で安堵する。勝手に倒れてくれたのなら、このまま素通りして先へ進むだけだと。

 それが彼女にとっての『基本』であった。

 しかしあくまでそれは、リスティの中だけのことでしかなかった。


「フォレオ、急いでアイツの元へ!」

『りょーかいっ!』


 即座にマキトが表情を引き締め、フォレオも迷いなくその指示に従う。


「ちょ、ちょっと! もしかして助けるつもり?」

「当たり前だ!」


 慌てて問いかけるリスティに対し、マキトは即答する。

 そして――


「ん。他に選択肢はない!」

「それでこそ、わたしたちのマスターなのです!」

「キュウッ!」

「くきゅくきゅーっ!」


 ノーラや魔物たちも威勢よく頷いていた。本当にこれこそが当たり前の行動だと言わんばかりに。

 一方、リスティは戸惑いに満ちていた。


(な、なんで? なんでこんなことになっちゃうの?)


 自分にとっての当たり前が、他の者たちの当たり前と同じとは限らない――それをリスティは、思わぬ形で思い知る羽目になるのだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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