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158 魔物たちとの交流



「いっただっきまーす♪」


 マキトに続いて、ノーラや魔物たちもそれぞれが言葉や鳴き声でいただきますの挨拶をする。川沿いでのランチタイムは、実に賑やかなものとなった。


(全く……本来は水を補給するついでの食事だったのだがな)


 瑞々しく甘酸っぱい果物を齧りながら、ディオンは苦笑する。


(気が付いたら、メインとついでが逆になってしまった……まぁ別に構わんが)


 マキトたちが連れてきた野生の魔物たちは、手ぶらではなかった。手土産にと、近くにある小さな森で、木の実をたくさん採取してきたのだ。

 そして狂暴に部類される猿の魔物――アロンモンキーの姿もあったが、狂暴どころか礼儀正しい態度を見せた。

 途中で仕留めてきたという猪の魔物を提供したのだ。

 良ければ皆さんの食事の足しにしてほしいと。

 ラティの通訳でそう聞いたときは、思わず目を丸くした。しかし願ってもないことであるため、ありがたく獲物をいただくことに決めたのであった。

 ディオンの指導の元、マキトとノーラが猪を捌く。

 流石に体の大きさは小動物の倍以上。解体時のグロテスクさも並ではない。

 マキトは顔をしかめていたが、意外にもノーラはへっちゃらな様子で、黙々とナイフを動かしては、内臓を丁寧に取り出していく。

 それを見たマキトも意を決した表情を浮かべ、猪の解体に挑む。

 ノーラへの対抗心か、それとも情けない姿を晒したくないという気持ちからか。いずれにせよ、自らの意志を見せるのはいいことだと、ディオンは思った。

 無事に解体を済ませたマキトたちは、使えない内臓部分を土に埋めようとした。そうしないと匂いを嗅ぎつけた野生の魔物たちが、襲い掛かってきてしまう危険性があるのだ。

 ところがその心配は皆無だった。

 何故なら既に、野生の魔物たちがこぞって傍にいる。

 内臓部分をどうにかしてくれないかというマキトの頼みに、アロンモンキー率いる魔物たちが快く引き受けた。

 野生の魔物たちと交流するとこんな利点もあるのかと、ディオンは思わぬ勉強をしたのであった。


「猪、うんまぁい♪」

『いくらでもたべれそうだねー♪』


 マキトとフォレオが幸せそうな笑顔で声を上げる。ラティとロップルは、夢中になってはぐはぐと口を動かしまくっていた。

 一口大に切り分けて串に刺し、塩を振って焚き火で焙った猪肉。野生の魔物たちも大喜びで食べていた。

 ノーラは目を輝かせて果物に挑んでいる。彼女の場合、食べ物の好みは肉よりも果物や野菜のほうが上なのだ。しかし体力をつけるという意味で、猪も串一本分は平らげていたが。


「きゅいきゅい♪」

「ギャウ、ギャウギャウギャウ!」

「キキ、キキキキィッ」


 野生の魔物たちも楽しそうにはしゃいでいる。ヒトが傍にいることなど、まるでお構いなしだ。ディオンのドラゴンにも話しかける魔物もおり、ドラゴンも寝そべりながら受け答えをしていた。


(相棒も結構楽しんでいるみたいだな)


 表情の変化こそ乏しいが、リラックスしている様子はよく分かる。大きなドラゴンを相手に話しかけるとはと思ったが、そこは相手が魔物――色々と事情が違うのだろうと、ひとまずディオンはそう思うことにした。


(まぁ、なんにせよだ。敵意は全くないようだし、下手なことさえしなければ、こちらに危険が及ぶこともないだろう)


 そんな感じで安心しつつあった、その時であった。


「――えっ、そうなのですか?」


 ラティの驚く声に、ディオンは思わず顔を上げて振り向く。アロンモンキーやスライムたちが話しているのを、マキトとラティが聞いている姿がそこにあった。


「どうかしたのか?」

「あ、いえ……魔物さんたちから、このあたりの情報を聞いてたのですが……」

「なんかこの近くにヒトの集団がよく出没するみたいで……」


 ラティに続いてマキトがかいつまんだ説明をする。


「でも何故か最近、パタッと姿を見かけなくなったらしいんだ」

「何だと?」


 ディオンが目を見開き、そして口元を手で覆うような仕草を取る。


「こんなところにヒトの集団……もしや盗賊か?」

「え、盗賊?」

「仮に冒険者だとしても、滅多なことじゃ集団で動いたりはしないからな。せいぜい数人のパーティくらいが関の山さ」

「なるほど……」

「それよりもその話、もう少し魔物たちから詳しく聞き出してくれ。今後を左右する重要な情報となるかもしれない」

「う、うん。分かった……」


 ディオンの真剣な表情に押されつつも、マキトはラティを通して、再度魔物たちから話を聞く。

 皆で集まってこの近辺の情報を、改めて教えてもらうことになった。

 魔物たちの言葉を、ラティとフォレオで通訳し、それを頭の中でまとめる。そして粗方聞き終えたところで――


「そうか……おかげで大体の想像は付いたよ」


 ディオンは重々しい表情でため息をつく。


「前々からこの付近をうろついていた集団というのは……恐らく盗賊だろう。きっと近くを拠点としていたんだろうな。たまに遠くへ行ってしまい、長いこと姿を見かけない日々が続いたのは、オランジェ王国を出て別の国に移動したからだ。そしてそのタイミングは、おチビ君が森に来たタイミングと被っている」

「じゃあやっぱり、その東独とやらが、チビ助を捕まえていた連中ってこと?」

「恐らくな」


 マキトの問いかけにディオンは頷く。

 あくまで断定はできないが、偶然にしては少しばかり出来過ぎている。もう殆ど正解と見なしてもいいだろうと思えてならなかった。


「しかもその集団とやらは最近戻ってきて、とある方角へと進んでいった……俺たちが目指している方角と、見事に一致してるんだよなぁ」

「……このまま行ったら、バッタリ出会っちゃうかもなのです」

「それは覚悟しておいたほうがいいだろう」

「覚悟って言われても……」


 ディオンの言葉に対し、マキトが悩ましげに後ろ頭を掻く。


「一体、何をどうすればいいのか……ん?」


 するとその時、服の裾が軽く引っ張られた。振り向いてみると、ノーラが小さな笑みを浮かべながら見上げてきている。


「ここで考えても仕方がない。今はとにかく用心しておくことしかできない」

「そうだな。ノーラの言うとおりだろう。無論、俺も引率者として、キミたちを無暗に危険な目に晒すつもりはないよ」


 まぁ、要するに――と、ディオンは続ける。


「心構えをキチンとしておけってことだ。いつ何か不足な事態が起こったときに、素早く正しい行動がとれるようにな」

「それって、普段からも言われてることのような……」

「あぁ、そのとおりだ」


 いまいち意味が分かっていない様子のマキトに、ディオンは笑みを浮かべた。


「変に考え過ぎず、いつもどおりに油断せず――要はそういうことだ」

「はぁ……」


 マキトは生返事しかできなかった。ディオンの言いたいことが、分かるようで微妙に分からないからだ。

 すると――


「キキィッ!」


 アロンモンキーがマキトの肩にポンと手を置きながら、話しかけてくる。


「キキキキキッ、キキキ……キキキキィ、キキキッ!」


 明らかに何かを伝えようとしている。ちゃんと身振り手振りも加えており、表情も豊かであった。

 ラティが通訳しようと口を開きかけたその時、マキトが笑みを深めた。


「――そうか」

「キキッ」


 微笑むマキトに、アロンモンキーもニカッと笑顔で頷く。その光景に、ラティは思わず呆然としてしまう。


「あ、あの、マスター? なんか今、言葉聞き取ってませんでしたか?」

「いや?」


 しかし振り向いたマキトは、サラッと返すのみ。なんてことなさげに否定してきたその声を、ラティはすぐさま受け入れることはできなかった。


「で、でもでも! 今確かにアロンモンキーさんと意思疎通できてたのです!」

「別にそんなのできてないよ。なんとなく『ガンバレ!』って、励ましてくれたような気がした……そう思っただけさ」

「うぅ~」


 納得できずに頬を膨らませるラティの頭を、マキトが優しく撫でる。こんなことで誤魔化されないのです、と言おうとしていたラティだったが、結局その気持ちよさに押し負け、見事なまでに有耶無耶となってしまう。

 無論、それを見て黙っていない者たちもいた。

 ロップルとフォレオが即座に気づき、割り込むようにして参戦する。ギャアギャアと叫ぶその声は、ラティばかりずるいと言っているのは、もはや誰が見ても明らかであった。

 やがてノーラや子ドラゴンも、負けじとマキトに甘え出す。野生の魔物たちも楽しそうだと言わんばかりに、ノリで参戦し出すのだった。

 数分と経たぬうちに、マキトとノーラは、魔物たちに埋め尽くされる。

 いつもの森での出来事と変わらないじゃないかと、マキトはそう思いながら苦笑することしかできない。

 そして、そんな楽しそうな様子を、ディオンは遠巻きから見つめていた。


(森から出ても、マキト君はマキト君ってことか……)


 そう思いながらもディオンは、ある種の感心を抱いていた。どこまでもブレない少年少女と魔物たちの心が、旅においては必要な力強さとなるからだ。

 あくまでまだ、その兆しがある程度に過ぎない。しかし彼らの可能性の高さは、一定の評価とせずにもいられない。


(まぁ、何気に有力な情報が得られたし、儲けもんってことで良しとしとくか)


 考え過ぎるのもよくない。たまにはのんびりするのも悪くはないだろう――そう思いながら、ディオンは寝そべっている相棒の体を、優しく撫でた。

 ドラゴンはチラリと目を開け、大きな欠伸をしたのち、再び目を閉じた。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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