三話 最悪の再開
「剣流」こと、べイン・シュバルトはダンジョン攻略の最有力候補。
その美しい立ち振る舞いから出る一撃が、水のように流れ出るものだということでこの異名が付いた。
他にも、「可憐な戦乙女」であったり「銀髪剣豪」であったりと様々だ。
大多数の冒険者は「剣流」と呼んでいる。
そんな神様とダンジョンの場所すら教えてもらえない落ちこぼれは接点を持っていいのだろうか?
明日に殺されたりしないだろうか?
本当に危ない。
こうしている間にも、村の人たちが皆こっちを向いている。
「あ、あのべインさん」
「どうしたの?」
「その、そろそろ手を離してもらえませんか?」
「どうして?離したらカルハ君逃げるでしょ?」
「逃げませんって・・・村の人たちの視線も痛いのでちょっと・・・」
「そうか、だったらこうすれば誤解されないかもね!」
「ちょ、ちょっと!?何してるんですか!」
カルハが驚いたのも当然、「剣流」ことべインがいきなり腕を組んできたのだ。
女性経験が少ない上に、相手はあの「剣流」。
カルハにこの状況を攻略できるとは到底思えない。
「大丈夫だって、こうしとけば誤解されずに済むでしょ?」
「誤解の意味わかってます?さらに複雑に絡まっただけですよ!」
「そうかな?そういう関係なんだってみんな思うと思うけど?」
「それが誤解だって言ってるんです!明日にでも殺されたらどうするんですか!」
「そんな大げさな」
クスクス笑っているが、彼女は何も知らない。
この世の中に「剣流」LOVE隊が存在することを。
これだけの美貌の持ち主だ。
ファンクラブが存在したってなんの不思議もない。
だから、すぐさまこの状況を攻略しなければならなかった。
「べインさん!離れてください!」
「もうーわかったよ」
すると、彼女はすんなりカルハから身を引いた。
最初からそうしてくれればよかったのに。
安堵の息を漏らしていると、べインの口からその理由が告げられた。
「ついたよ」
「え?ついたんですか?」
「そう言ってるでしょ?ここが私の家」
「ここが・・・」
さすがっといったところだろう。
この家は見上げてしまうタイプの家だった。
その大きさ故に、一つの感情が芽生え始めてた。
「あの・・・べインさん」
「何?」
「俺、帰っていいですか?」
「何言ってるの!ここまで来たんだから!ほら」
「ちょ、だから引っ張らないでください!」
強引に家に連れ込まれるカルハ。
本当に、お邪魔していいのだろうか。
こんな汚いネズミが入り込んで。
領主様に怒られたりしないだろうか。
「剣流」LOVE隊に殺されたりしないだろうか。
だが、時はすでに遅し。
その「剣流」の家の領土に足を踏み入れてしまったのだから。
「ただいま戻りました」
挨拶からして普通じゃない。
攻略できる未来が全く見えない。
「剣流」の帰りとカルハの招待を受け入れたのは、まぎれのない聖母だった。
先ほど襲ってきた女性とは全くの大違いだ。
華やかで美しい女性で、この人からべインと妹が生まれたと言われても納得のいく理由だった。
「この人がシェルを助けてくれた・・・」
「あら、あなたがそうだったのね」
「あ、俺、いや、僕はカルハと申します。この度はお招きいただきありがとうございます」
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ?自然体でいてちょうだい」
「あ、はい・・・」
「さ、あがって。大したものじゃないけど、お菓子用意しているから」
「はい、失礼します」
やばい、本当に帰りたい。
第一に女の子の家なんて行ったことがないし、最初の経験が「剣流」の家とかハードルが高すぎる。
攻略不可能。
だが、何とか乗り切るしかない!
靴を脱ごうとすると、べインから、
「脱がなくていいんだよ?」
とクスクス笑われ、少しの段差につまずいた時には、
「大丈夫?」
とクスクスと笑われた。
死にたい・・・帰りたい・・・
その希望は打ち砕かれ、とうとうリビングに来てしまった。
「そこにかけて待っててね」
「あ、はい・・・」
いかにも高そうな椅子。
その精神攻撃の影響かカルハは背筋を伸ばして座っていた。
「あら、背筋が良いのね」
「あ、いつもこんな感じで・・・」
「そうなのね。でもくつろいでいいからね?」
「あ、はい・・・」
嘘を完全に見抜かれていた。
この家に来てから恥さらしにしかなっていない。
気持ちを一旦リセットしなくては。
席を立ち、両腕を広く上げ深呼吸する。
「すーーーーはーーーーー。すーーーーーはーーーーーー」
「・・・・何してるの?」
「え・・・?」
後ろから声をかけられ、振り返ってみると、金髪の美少女がそこにいた。
見間違える訳がない。
あの路地裏でいじめられていた子だ。
こうして、最悪の再開を果たしたのだった。