二話 剣流
「DJ本部に来てください?」
DJ本部とはダンジョンの実装の連絡が行き交う、いわばダンジョン専門店だ。
その場所に手紙という形で招かれた?
それが意味するのは明確で、かつ明白だった。
「俺もダンジョンデビューか!!!」
カルハの脳内は歓喜一色になったのは言うまでもない。
そうと決まればさっそく準備だ!
身支度を急いで整える。
ダンジョンにもっていく荷物をまとめる。
「これでよしっと!」
戸締りをきちんとしてDJ本部へ急いで向かう。
ダンジョンを攻略すれば、同時に借金も攻略できるのだ。
急がない理由がどこにある。
こうして、カルハは急いでDJ本部へ向かったのだった。
無事にDJ本部前に着いたカルハは早速、中に入り受付カウンターに赴いた。
「すみませーん」
声をかけると、昨日と同じ受付嬢が後ろから出てきた。
「あら、カルハ君。また来たの?いくら頼んでもダンジョンの場所は教えないよ?」
「え、ダンジョンに行かせてくれるんじゃないんですか!?」
「どうしてそういう話になったの・・・」
カルハは手紙の件をナルハに伝えた。
すると彼女は、首を傾げた。
「なんだろうね、これ。少なくともDJ本部から出たものじゃないね」
「そんな!!!」
淡い夢が砕け散った瞬間だった。
誰かの悪戯だろうか。
それにしても悪趣味すぎる。
ただでさえ、お金の件で困っているというのに。
もうこの件は忘れよう。
全てを諦めたようにその場を立ち去ろうと踵を返すと、いきなり胸ぐらを掴まれた。
「え、え、なんなんだ!?」
胸ぐらを掴むその女性は全く見覚えのない顔。
あったことすらない人だった。
だとしたらなぜ胸ぐらを掴まれているのか。
全く見当もつかなかった。
「あ、あのー。なんですか?」
「随分とうちの娘がお世話になったね」
うちの娘?
カルハの思いつく限り、女の人と関わったのは、あのいじめられている事件現場の女の子しか思いつかなかった。
この人はあの子の母親・・・?
いや、違うだろう。
顔が全然違っていた。
あの子はもっと可愛らしい顔していた。
こんな顔はしていなかった。
だとしたら・・・・誰?
全然心当たりがなかった。
その態度に腹が立ったのか、その女性はこう告げた。
「あんたにいじめられたってあの子が言ってたのよ!どう責任とってくれるわけ!」
「えっと、人違いじゃ・・・」
「いいえ、あなただわ!あなた以外いない!」
そんなこと言われても、人をいじめた覚えはない。
そのことをきちんと話す。
「あ、あの、俺いじめたことないし、いじめた覚えないんですけど・・・」
「とぼけないで!」
この時、カルハは感じた。
この人はどう考えても攻略できないと。
俺は無実なのに・・・
今にでも泣き出したいところに一人の救世主が登場した。
「あなたの娘が私の妹をいじめてたの間違いではなくて?」
「はあー?」
そう言い振り返るその女性は、完全に動きが止まった。
掴まれていた胸ぐらも離され、ようやくこの地獄を攻略した。
「た、たすかったーーー」
これだけの騒ぎがあったんだ。
きっと注目されているに違いない。
カルハがゆっくり辺りを見渡すと誰一人カルハのことは見ていなかった。
注目の的になっているのは助けてくれた銀髪の女性。
みんな揃って口を開けて見ている。
当然、この女性も知らなかった。
「・・・・誰?」
すると、怒り狂っていた女性は、何も言わずにDJ本部を出て行った。
「何だったんだ?」
「大丈夫?」
銀髪美女のお姉さんがいきなり話しかけてきた。
ここまでの高難易度のものは攻略したことがない。
つい、その美しさに見惚れてしまう。
「大丈夫?」
「あ、はい!大丈夫です!お姉さんは?」
「私なら大丈夫よ」
微笑みながら語りかけてくる。
この人が女神にしか見えない。
「あ、あのカルハ君?知り合いなの?」
「いえ、知り合いじゃないですけど?」
なんで、ナルハさんはそんなに驚いているんだ?
なんで、みんな口を開けて驚いているんだ?
彼女に見惚れているからだろうか。
状況を理解できないでいると、銀髪のお姉さんが言葉を発した。
「はじめまして。君が妹を助けてくれたんだよね?」
「え・・・」
妹・・・助ける・・・
そのワードにピンとくるものがあった。
「あ、昨日の路地裏の女の子の・・・」
「そう!その子の姉のベイン・シュバルトって言います」
「あ、俺はカルハ・ロバンって言います」
「手紙読んでくれてよかった」
「あ、あれってベインさんが?」
「ベインでいいよ。そうだよ。私が送ったんだ」
DJ本部からではなかったことに、多少の虚しさが残るが、まあいい。
こんな美女に出会えたのだから。
そんなことを思っている間にも、皆んなの空いた口が塞がっていない。
そこまでか!?
だが、その理由をナルハから告げられた。
「カルハ君、この人。剣流だよ・・・」
「剣流・・・・・・・・・・・・剣流!?」
ダンジョンを志す者にその単語を知らない人間などいなかった。
剣流はこの世界に存在する剣士のトップだ。
まさか、こんな形で出会えるとは・・・
だが、疑問なのはなぜそんな人が俺なんかを?
もう訳がわからなかった。
呼び出された理由は彼女の口からすぐに出された。
「妹がお世話になったからね。お礼がしたかったんだよ」
「俺、何もしてませんよ?」
「助けてくれたでしょ?」
「まあ、そうですけど・・・」
「それとも、妹に何か破廉恥なことをしたとか?」
「してません!してませんからね!?」
「じゃあ大丈夫だよね?」
そういうとベインは、カルハの手を引き、DJ本部を出た。
こうして、カルハは剣流の家に招待されたのだった。