嫌われている相手に嫁いだはずがいつのまにか溺愛されていました
嫌われている相手に嫁いだはずがいつのまにか溺愛されていました
…なにがどうしたらこうなるのかしら?
はじめまして、ご機嫌よう。私、マドレーヌ・フェリスィテと申します。侯爵令嬢ですの。今まで起きたこと、ありのままを説明致しますわ。
私には公爵令息のエメ・アンベシル様という婚約者がいましたの。といっても、あまり仲が良かったわけではなくあくまでも政略的婚約でしたけれども。
そんなエメ様には愛する方が他にいらっしゃいました。お相手は平民のマノン・ピヤージュさんですわ。学園内で堂々と浮気されていた為、お二人の仲は学園の噂の的でしたの。
それだけでも胃がキリキリするのに、私には厄介なお相手がいましたの。隣国の王太子で、我が国に留学しにきていたアレクシ・メルヴェイユー殿下ですわ。事あるごとに私に突っかかってきて、喧嘩を売ってきたり辛く当たってきたりと、それはもう面倒なお相手でしたわ。私がなにかしたのかしらとも思いましたけれども、心当たりがないのでどうしようもありませんでしたわ。
さて、そんな中でなんとか迎えた学園の卒業パーティー。これでようやく浮気者の婚約者様達のいちゃいちゃを見せられずに済むし、アレクシ殿下に虐められずに済むとほっとしていたのも束の間。事件は起こりましたわ。
「マドレーヌ・フェリスィテ!この場で貴様との婚約は破棄させてもらう!そして今ここで、貴様の悪業の数々を断罪する!」
浮気者の婚約者様達の断罪ごっこが始まってしまったのです。
「…一応聞きますが、悪業というのは?」
「ふん!しらを切るつもりか!貴様がマノを虐めていたことは既に知っているんだぞ!」
「変な噂を流されたり、持ち物を隠されたり、暴力まで振るわれて、挙げ句の果てには階段から突き落とされました!謝ってください!それ以上は、何も望みませんから…」
「可哀想なマノ…謝るだけで許してやるなんて、なんて優しいんだ…」
なんだかいつの間にか、お二人の世界に入ってしまいましたの。その間に、何故か私の隣にアレクシ殿下がそっと寄り添ってくださいましたわ。…私、最初はアレクシ殿下も一緒になって私を虐めるおつもりかと思っていたのですけれど。
「エメ殿。マノン嬢がマドレーヌ嬢に虐められた証拠はあるのか?」
「アレクシ殿下!はい、もちろんです!」
「…その証拠は?」
「マノの証言です!」
はぁ、と溜息をつくアレクシ殿下。一瞬だけ可哀想なモノを見るような目で私を見つめると、私を背中に隠してエメ様達に問いただしました。
「具体的に、いつどのようなことをされたか言えるか?」
「はい、一週間前の放課後に持ち物を隠されて…五日前には休み時間に校舎裏で暴力まで振るわれました。三日前には階段から突き落とされて…打ち所が良かったからこうして卒業パーティーにも出れていますが、打ち所が悪かったらどうなっていたか…」
「ふむ…」
ちらっとこちらを見るアレクシ殿下。やってないやってないと必死で首を振りましたわ。
「こいつはやってないと言っているが?」
「嘘です!」
「なんて奴だ!アレクシ殿下にまで嘘をつくなんて!」
エメ様達がそう言うと、アレクシ殿下はまた溜息をつき。
「嘘つきはお前らだろうが。…いや、エメ殿は騙されているだけなんだろうけどな」
「え?」
「アレクシ殿下?」
「マノン嬢が虐められたと証言した時間、俺がマドレーヌ嬢と一緒にいた。というかここ最近、あんまりにも鈍臭いこいつの側から離れたことはあんまりない。なんなら女子寮に戻るまでずっと一緒にいた。虐めなんてしてる暇無かったぞ。取り巻き共に虐めを指示する暇もな」
「えっ…」
「ま、待ってください!それじゃあマノが嘘をついたというのですか!?」
「そうだって言ってるだろ。あーもー、面倒くさい!マドレーヌ!お前さっさとこいつと婚約破棄しろ!今ならこいつ有責で破棄できるぞ!」
「えっ…」
「浮気した挙句平民の女の証言を鵜呑みにしてお前の顔に泥塗ったんだ、当たり前だろ!早くしろ!」
「あ、は、はい!婚約破棄します!」
私は場違いなほど元気よく宣言しましたわ。正直混乱しておりましたの。
「よし、この場にいる全員が証人な!はい、婚約終了!ということで、マーレ、俺の婚約者になれ!」
「えっ…は、はい…」
あんまりにも突然のことで、よく考えもせず返事をしてしまいました。
「アレクシ殿下!?なにを!?」
「なんだ、エメ殿?逃した魚は大きいか?今更返さないぞ」
「アレクシ殿下!騙されてます!マドレーヌ様は本当に…!」
「くどい!」
アレクシ殿下の一喝でエメ様達は黙ります。
「マーレはこれより俺の婚約者だ!俺の婚約者に喧嘩を売るなら俺が買う!何か文句があるか!」
会場は一気にシーンとしました。…エメ様達も、悔しそうにしながらも黙りました。
「…こんな空気の中パーティーも何も無いな。マーレ、行くぞ。お前の家で二次会だ」
「えっ…えっ…と、はい、わかりましたわ」
未だに混乱していた私は、そのままアレクシ殿下にエスコートされつつ家路につきましたわ。
そして今日。アレクシ殿下との結婚式です。…風の噂によると、エメ様の方は廃嫡され、平民としてマノン様と結婚なされたとか。経済的に余裕がなく、いつも喧嘩してばかりで、結婚早々にお互い愛人を作ったそうですわ。
「…うん、ウェディング姿、似合ってるぞ。俺のマーレ」
ちゅっ、と私の頬にキスを落とすアレクシ殿下。
「あ、アレクシ殿下…」
「アレンと呼べと何度言えば覚えるんだ、お前は」
「あ、アレン様…」
「うん?」
「私のことが、お嫌いだったのではないのですか…?」
きょとん、とするアレクシ殿下。
「…ああ、学園での態度か。…確かに俺はお前が嫌いだったよ」
「でしたら…」
「俺のモノにならないお前がな」
「え?」
「あんな浮気男、さっさと切り捨てて俺を選べばいいのにそうしなかったお前は嫌いだったよ。俺のモノになった今のお前は可愛くてしょうがない」
食べてしまいたいくらいだ、とアレクシ殿下。え?ということは。
「あの、アレン様は私が好きなのですか?」
「…今更か。本当に鈍臭いな、お前」
耳に口を近づけて、小声でそっと囁きかけるように。
「愛してるに決まってるだろ」
…どうしましょう。私、アレン様にメロメロになってしまいましたわ。
幸せな家庭を築いていけそうです