file:食虫花 その4
file:食虫花 その4
「じゃあ早速だけど、仕事の話をしようか」
タラコの長い話が終わり。私の仕事内容がこれでやっとわかるようだ。
長かった。とても長かった。
ただ、私はその仕事の話も勿論気になるが、それ以上に気になっていることがある。
私の精神衛生上、これを聞かないわけにはいかない。というかはやく聞きたい。
彼はなぜ―――――
「あのぉ。その前にお聞きしたいことがあんですが・・・・」
「あん? なんだよ」
あーやっと、これで聞ける。
やっとだ。
あんな真面目な話をしてるのに視界に映るのはピンクの色の寝袋で。笑ってはいけないのに、雰囲気ぶち壊しで。ほんとなんなの?
「なんで寝袋のままなんですか?」
聞けたーー!! みんな! やっと聞けたよー!
あーもうどんな回答が来てもいいや。
とりあえず、その寝袋の謎さえ解ければそれでいいや、なんかもうフリークスとか、どうでもいい。
まぁどうでもいいとか失礼な話なんだけど、目下私の一番気になることは、なんで寝袋なのかってこと!!
「はぁ? お前さ、仮にさ。仮にだぞ? 俺がスーツ着てたらそんな質問するか?」
????
こいつはなにを言ってるんだ?
「あの仰る意味がよくわからないんですが」
「そのままの意味だろ。俺がスーツ着てようが、寝袋着てようが、なんか違いはあるか? ないよな? 裸じゃなければ基本問題ないよな?」
あ、これ寝袋に誇り持ってる系か。
厄介な。
というか寝袋に誇り持ってる系ってなに? つまりなにか? 私はこれから、このピンク色の寝袋と仕事していかないといけないのか?
嘘だよね? え、なんか調査とか言ってたけど、そのままで外に出るつもりなの? バカなの?
「ま、まぁ。裸じゃなければ、なに来てても問題はない、ですね」
いやいや、大有りだろ。
そのままコンビニとか行くのかよ、Twitterが大騒ぎだぞ。
絶対カメラパシャパシャだぞ。こんなやつと外歩くとか拷問だよ。
「だろ? しょーもないこと聞くなよ」
「は、はい。すいません」
あれ? なんで、私が謝ってんの? おかしいよね?
え、なに。私がおかしいの?
「じゃあ、とりあえず。お前の担当になるフリークスの情報だ。目を通しておけ。あ、ちなみに、その書類は絶対外に持ち出すなよ。まぁ書いてる中身は荒唐無稽でぶっ飛んでるか見られて困るってことはないけど、決まりだからな」
そう言いながら、タラコはジェンガのように積み上げられた書類の山から、1束のファイルを抜き去った。
グラグラと書類タワーは揺れるが崩れることはない。
あれもう、一つの特技よね。
「わかりました。拝見します」
タラコから渡された書類のタイトルは
――――file:食虫花
「食虫花? ですか?」
「そう。食虫花。粋な名前だろ?」
「え、でも普通って食虫植物って言いません?」
「お前、名前の時点でそんな質問してたらキリがないぞ? とりあえず中身読んどけ、俺は一旦顔洗ってくるわ」
file:食虫花
該当者名:不明
住所:不明
被害状況:殺人1 未確認3
影響判定:C
調査レポート
3月20日 調査員 飯島 遥
多々良町で、奇怪な殺人事件があったと警察から報告あり。
死体は破損が大きく、身元の特定が困難。人体の一部が溶けた状態で発見されており、薬物による事件と想定し調査開始。
鑑識の結果、薬物による溶解ではなく、“人間の胃酸”による溶解とのこと。
俄かには信じがたいが、この人間大の大きさのものを丸呑みにし、一部は溶かしきれなかったため、吐き出されたものと予想される。
警察側も、犯人像の特定が困難かつ、奇怪であるため、当調査局に報告。
捜査権を当調査局に委譲。
身元不明の死体は、特別鑑識室へ移送。
今後の事件報告は調査局まで共有するよう連携。
死亡した人物の特定を急ぐとともに対象者の確保を優先する。
3月21日 調査員 飯島 遥
多々良町付近で、聞き込みと情報収集。
これといって、不審な情報はなし。
被害者の身元も特定ができていない。
鑑識の調査が進み、通常の胃酸ではありえない量の胃酸と確認。
想定ではあるが、胃酸の量から対象者の胃の大きさを予想すると通常の人間の10倍。
人体は身長5メートルほどになるという。
ありえない大きさではあるが、該当者の手がかりとして調査を進める。
3月22日 調査員 飯島 遥
多々良町付近で情報収集を継続するが、目立った情報はなし。
食べたものを消化しきれないことから、まだ成長過程のフリークスと想定される。
事件の露見から他に報告もないため、“成り立て”と仮定。
人体を溶かし、食物とすることから食虫植物の生態を例に挙げ、これ以降、該当者を“食虫花”とする。
3月23日 調査員 飯島 遥
食虫花の情報はなく、聞き込みと情報収集を続ける。
3月24日 調査員 飯島 遥
食虫花の犯行か不明だが、最近多々良町付近で野良犬や野良猫が少なくなっていると地元民から情報提供あり。
多々良町に流れる多々良川沿いに、普段なら多數の犬や猫が目撃されるが現在は一頭も確認できない。
現場確認をするため、多々良川沿いを調査するが犬猫の死体は発見できず、食虫花の形跡も確認できない。
3月25日 調査員 飯島 遥
本日も多々良川を調査。特に目立った情報なし。
3月26日 調査員 飯島 遥
同上
3月27日 調査員 飯島 遥
同上
3月28日 調査員 飯島 遥
多々良川で、犬の死体を確認。
皮は溶けてなくなり、内蔵や骨が浮き出た状態で発見。
食虫花の犯行と断定。
死体は特別鑑識室へ移送。鑑識結果を待つ。
3月29日 調査員 飯島 遥
多々良川付近が、食虫花の狩場と想定し調査を進める。
上流から調査を開始。
本日は異常なし。
3月30日 調査員 飯島 遥
多々良川付近の調査を進める。異常なし。
3月31日 調査員 飯島 遥
多々良川付近の調査を進める。異常なし。
4月1日 調査員 飯島 遥
多々良川付近の調査を進める。異常なし。
4月2日 調査員 飯島 遥
警察から、多々良町在住の1家族が全員行方知れずになっていると報告あり。
報告内容確認。
該当家族構成、父、母、娘の3人家族。
夫 久保 龍彦(46歳)
妻 久保 加奈子(45歳)
娘 久保 雪江(17歳)
警察の聞き込みによると、夫、久保 龍彦が職場に出勤せず連絡もなく無断欠勤していることから、不審に思った同僚と上司が久保家を訪れたことで発覚。
家の中はも抜けの空で、争った形跡もなし。
ただ、人間が誰一人いなかったという。
温められた食卓に、手をつけた様子もなし。
家財が盗まれた形跡もなく、強盗の線は薄い。
家族に借金はなく、借金がらみでの夜逃げの線も薄い。
またご近所トラブルや、親戚関係、親族関連での人間関係でのトラブルもなし。
夫、久保 龍彦も温和な人柄で優しい性格をしていたと言う。
妻、久保 加奈子も同様。ただ妻 加奈子に関しては、娘を溺愛していたとご近所では有名だったとか。
トラブルに巻き込まれるようなこともなかったという。
娘 雪江に関しては、通っている多々良高校の春休み中ということもあり、学校側でも不審な点はなかったという。
成績も優秀で友達とのトラブルもなく優等生だったという。
なんの問題もない1家族が全員居なくなっているというは不可解だ。
食虫花の犯行とも疑われるが現段階では断定できず。
4月3日 調査員 飯島 遥
久保家の失踪に関連があるか不明のため、久保家についても平行して調査を進める。
本日は久保家内の調査を実施。特に変わった点はなし。
――――資料は、ここで終わっていた。