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フリークス  作者: 遠見 翔
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file:食虫花 その3

file:食虫花 その3


「お前、フリークスって知ってるか?」


フリークス? はて、そんな言葉生まれてこの方聞いたこともない。


というか知らないことわかって聞いてるだろう。このタラコは。


あ、というかこのタラコの名前ってまだ聞いてないや


「フリークス、ですか。すいません。その言葉に聞き覚えは全くないです」


「そうだよなー。知ってるわけないよなー」


性格悪いなこの人。最初からわかってたけど、ちょっと頭おかしいんじゃないかな? と思う。


「いいか? フリークスって言うのはな」


そう言ってタラコは、これから私が巻き込まれていく、彼ら「フリークス」について語り始めたのだった。







フリークス。


意味は、変種や奇形。あることに異常に心酔することを指す言葉。


彼らはその言葉の意味のまま、自身の生を体現している。


自らの望みのため、自らの願いのため、自らの願望を叶えるため、彼らは新生する。



彼らは、どうしても叶えたいことがある者だけが到達できる、人間という種の進化の形。


人の形はしているが、人ではない。


人の外形を残してはいるが、その中身はほとんど形骸化している。


中身がまるっきり違うのだ。


空っぽで、その空っぽを埋めるために彼らは自分を変質させる。



渇望し、希求し、心願し、そして嘱望する。



例えば、例えばだ。


自分がどうしても欲しいものがあったとする。


なんでもいい。


お金だったり、地位だったり、名誉。


それこそ夢でもいいも、なりたい自分でもいい。


それらを手に入れるためにはどうする?


普通ならば、世間の布かれたルールに従って、その願いを叶えようとする。


法律だったり、常識だったり。


方法は違えど、その枠の中で培われる。


そういった人が人としてあるがために、先人達が作り上げたルールを中で願いは叶えられる。


お金なら、働いてその対価として得たり。


常識という箱の中で完結するが普通だ。


決してそのルールを破ってはいけないのだ。


それは、人が人でなくなることと同じ意味なのだから。


しかし、本当の想いとは、願いとは、そんな箱には収まりきらない。


箱という規格を無視してでも、到達しようとするのが彼ら、フリークス。



人の願いは無限だ。



「自分の全てを捨てでも叶えたい願いがある」


言うのは簡単だ。


ただ、誰が全てを捨てられる?


命すら捨てられるか?


普通なら捨てることはできない。


遠くのさらに以遠。


本当に叶えたい願いとは、近くにあるようで、遙か彼方先にある。


思えば思うど。望めば望むほど、心は苦しくなる。


届かないとわかっていても、手を伸ばしていくのだ。


伸ばした手が傷だらけになったとしても。


皮を裂き、肉を抉り、覗く骨の白さを目にしても彼らは止まらないのだ。



ただ、願いのため。


自身の欲望のため。



彼らは止まることをやめたのだ。



願いを叶えるために、人であることを捨てたのだ。


ただ、それでも願いは叶えられない。


もちろん例外はあるだろう。


ただ、己の願ったものは、その小さな常識という箱の中にしかないのだから。


箱から逸脱したものに、箱の中を覗けないように、彼らの願いは叶うことはない。


彼らは箱を捨ててしまったのだ、自らの願いがその箱の中にあるとも知らず。


だからは彼らは求めて続けるのだ。


叶わない願いを追い求めて、自分が壊れるまで、その願いを成就させるために。



あるものは、食べることをやめたいと願った。

あるものは、愛する人ともう一度逢いたいと願った。

あるものは、友達が欲しいと願った。


ただ、その純粋な願いを叶えるため、フリークスはその身をかえる。


食べなくていいように、目の前の全てを食べることを選んだり。

愛する人ともう一度会うため死から逸脱したり。

友達が欲しいから、友達と出会うため友達以外を全て殺したり。


純粋だった願いは、いつしか歪み、己の願いからもっと遠いところに、その足を進める。


ブレーキすら捨ててしまった、彼らは、もう進むしかないのだ。


その先に、なにもなかったとしても・・・・。





タラコの長い話が終わった。


彼が語った話を聞いてると、胸が痛んだ。


だってどうしよもないじゃない。


自分の願いを叶えるために、自分の全てを捨てて。それでも、その願いは叶わないなんて。


誰も悪くないのだ。ただ願っただけなのに。


そんなことをグルグルと考えていると知らないうちに、自分の肩を抱いていた。


「つまりフリークスは自分の願いを叶えるために、なにか新しいものへ変質した怪物だということですか?」


「そうだ。簡単に言えば間違っていない。ただ一つ付け足しておくことがある」


「フリークスは人を捨てている。だから人の常識なんて基本通じないんだ。この意味がわかるか?」


タラコは話疲れたのか、ふっーっと大きく息を吐く。


また器用なことに、顔のところから腕をニョキっとはやし机にあったタバコを口に咥えて火をつける。


ボッ、っとライタの火が彼を一瞬だけ照らす。火の影で顔の彫りがよく見える。


煙がゆらゆらと天井を目指して、そして消えていく。


彼はその言葉の後に続けて、こう言った。


「人が持っている、人の尊厳ってやつがないんだ。あいつらは自分以外のなにがどうなってもお構いなしだ。だから平気で人を殺す。人の迷惑なんて考えちゃいないんだからタチが悪い」


「わかるか? だから俺たちみたいな奴が必要なんだよ」


ふーっと、煙が舞い上がる。


彼の視線を掻き消すように、彼の今までがいかに壮絶だったのかをその眼に宿して。


何人救ったのだろう。


何人救えなかったのだろう。


そして何人の死を見てきたんだろう。


「そういうことだったんですね。だから前任者の方も、そのフリークスの調査中に亡くなってしまったんですね」


「そういうこと」


タラコは、どこか物悲しそうな目をして、タバコの煙の行方を追っている。


本当は追っていないのかもしれない。


ただ、彼の中では様々な思いがあるのだろう。


人が死んだのだ。


それも同僚が。


少なからず、話もしただろう。


少なからず、顔見知りだっただろう。


人の死は決して軽いものではない。そんな思いがヒシヒシと空気となって私の肌を突き刺している。


「わかりました。お話ありがとうございます。じゃあ早速ですけど、私はなにをすればいいですか?」


タラコは驚いたように、固まってしまっている。


目は見開き、咥えたタバコも吸わずにチリチリと端から灰になっていく。


そして、ふっと、口角が上がり、優しそうな微笑みが煙の先に残った。


「お前って、結構強いのな」


「え? どういう意味ですか?」


「だって、お前な。普通こんな話聞いても信じないだろう?」


「大概のやつは、冗談ですよね?とか。そんなわけないじゃないですかーとか。普通の反応はこうだろう?」


「なのにお前は、なにをすればいいんですかときた。なんでそんな反応ができるんだ?」


私は自信を持って言う。


「だって、あなたの目は嘘を言ってるようには見えません」


「それに、亡くなられた同僚のことを大切にしていたんだなって、僭越ながら思ってしまいました」


「だから、そんな人の言葉を信じないわけには、いかないじゃないですか」


その言葉聞いた彼は、泣きそうな、でも嬉しそうななんとも言えない表情だった。


机に落ちたタバコの灰も気にせず、聞こえないようなか細い声で


ただ


「ありがとう」


と言っていたような気がした。


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