08.決戦2
ディアーナとイヴァンは地下の大きな扉の前にいる。
「ディアーナ…ここにいる、アーヴィングと長老が。」
「ええ。分かってる。準備はいい?」
「もちろん」
ディアーナは銀の細剣を、イヴァンは銀の拳銃を手に扉を開けた。
中に入ると、広い部屋に椅子に座る長老とその傍にはアーヴィングがいた。
「おやおや…騒がしいと思ったらやはり貴女でしたか。」
ディアーナは細剣の剣先を彼らに向ける。
「長老…アーヴィング。決着を付けましょう」
ディアーナは細剣を手に真っ直ぐ長老へと向かっていく。
途中にアーヴィングが間に入るがそれをイヴァンが銃を撃って阻止した。
「あんたの相手は俺だ」
少し緊張した面持ちのイヴァン。
それもそうだアーヴィングに手も足も出なかったのだから。
異様な程の殺気を放つアーヴィングに冷や汗が出てくる。
でも、ここまで来たらやるしかないのだ。
「やるしかねぇよな」
恐怖心などしまいこんでイヴァンは銃を撃ち続ける。
しかしアーヴィングはその銃弾を一つ一つかわし、あっという間にイヴァンとの距離を縮めてしまう。
アーヴィングは鋭い爪でイヴァンを襲う。
イヴァンはそれを紙一重でかわしていく。
「(速いっ)」
防戦一方のイヴァン。
アーヴィングはお構い無しに鋭い爪でイヴァンを追い詰める。
「(ダメだかわしきれない)」
アーヴィングの鋭い爪がイヴァンの喉元をさこうとした時だった。
「ぐぁっ!!」
長老が苦しげに声を上げた。
アーヴィングとイヴァンは声のした方を見る。
すると長老の胸部をディアーナの細剣が貫いていた。
しかし、ディアーナは長老の手応えのなさに疑問を抱く。
こんなにあっさりとやられるような人だったか…あまりにも弱すぎる。
何かがおかしい…
「くくくく」
訝しげに考え込むディアーナに対し長老は笑いだした。
「アーヴィング…分かっているな」
「もちろん分かっていますよ」
瞬間、アーヴィングは長老の胸に手を突っ込み心臓を取り出した。
「ディアーナ…お前の負けだよ……私の寿命はもう尽きる。だがバンパイアは十二血族は終わらん」
そう言い残し長老は灰となった。
アーヴィングは長老の心臓を自身の胸に抱え込む。すると心臓はアーヴィングの中へと入っていき、アーヴィングの背中に大きなコウモリのような翼が生えた。そしてその容貌は血の鎧を纏いまるで化け物のよう。
物凄い地響きと殺気にイヴァンとディアーナは呆然とした。
今までに対峙したどの十二血族よりも強いプレッシャー、威圧感。
絶望的だった。
「おいおい、なんだこれは…」
そこへ辿り着いた玲音は珍しく瞳の奥が動揺で揺れていた。
「っつつ!!!」
玲音と一緒についてきた琴子も初めて対峙する強敵に震える。
「なんなの、これはっ」
震えは止まらず腰を抜かしてしまった。ドサリと座り込む。
こんなの勝てっこない、みんな殺される。琴子は恐怖心に支配された。
「琴子!」
ふと玲音が琴子の名を呼ぶ。
「た…隊長…」
「大丈夫。琴子の事は俺が守るから」
そう言っていつもの様にニッと笑った。その玲音の言葉と表情に琴子は安堵する。
そして琴子の震えがおさまった。
「(震えてる場合じゃない。こんな所で死んでたまるか!)」
脳裏に來之衛の後ろ姿が過ぎる。
こんな事で震えていたら來之衛なんて止められない、と自分を叱咤した。
「イヴァン!」
「あぁ、分かってるよ」
全力で行く!
「「ブラッドモード!!!」」
ディアーナとイヴァンがそう言うと2人のからだを血の鎧が包み込み背中からコウモリのような形をした羽根が生えた。
「(もう、後先なんて考えてられないわ)」
ディアーナは細剣を手に化け物と化したアーヴィングに向かっていく。
アーヴィングから血でできた赤い無数の刃が向かっていくディアーナを襲う。
それからの3人は人の目では追い切れない程のスピードで攻防戦を繰り返していった。
屋敷はみるみるうちに破壊されていく。ここが地下じゃなかったらとっくに部屋に日が差し込んできていることだろう。
まさしく化け物同士の戦いだった。
そんな戦いのさ中、地響きと爆音に何事かと目覚めたバンパイア達が地下に集まってきた。
10数人はいるであろうバンパイアに琴子と玲音は囲まれる
玲音は琴子を守るように前へ出て構える。
「那由多達だけじゃ捌ききれなかったか」
「バンパイアの弱点…弱点っ…」
琴子はテンパる頭でバンパイアの弱点を思い浮かべる。
この日のためにバンパイアの弱点のものを具現化できるように調べて努力してきたのだ。
「ニンニク!!!《ニンニク爆弾》」
琴子がそう呟くと琴子の手にニンニクの絵が描かれた爆弾が現れた。
「いっけー!!」
バンパイアの群れに琴子はその爆弾を投げ付けた。
爆発したそれは、煙と凄まじいニンニク臭を放つ。
その臭いに思わず玲音と琴子は鼻をおさえ、涙を流す。
「やべぇ、強烈っ!!」
「臭いですっ!!!」
人が嗅いでもこの臭さ、身体能力共に嗅覚も優れたバンパイアなら尚更キツいだろう。
煙が消えた頃あたりには数十体のバンパイア達が目を回して倒れていた。
一方、ディアーナ、イヴァン、アーヴィングの戦いは白熱して行く。
「そんな姿になってまで貴方は何がしたいというの?」
「私はバンパイアの王だ。長老の力を継承し、バンパイアを増やし、ただの人が貪る世界をバンパイアが貪る世界へと変える。人を喰らい尽くしてやる」
「どうしてそこまで…」
「人が私の大切な人を殺したからだ」
アーヴィングの言葉にディアーナはハッとしたような、そしてどこか悲しげに彼を見返す。
「そう…」
彼も私も元は同じ理由で、彼は人間を私はバンパイアを滅ぼそうとしている。
やっぱり私たちは相容れないのだ。
「ディアーナ、もういい。話し合いなんてとうの昔に諦めたでしょ?」
そう言い残しイヴァンはディアーナを横切ってアーヴィングに向かっていく。
その手には血でできた剣が握られている。
「俺はディアーナの願いを叶えるだけだ」
「バンパイアの血なぞ半分しか入ってないできそこないが…汚らわしいヤツめ」
いつの間にかアーヴィングから生えている血でできた複数の尾。それは先端が鋭く刃物のようになっている。それがイヴァン目掛けてまるで蛇のようにグネグネと動き襲ってくる。
変則的な動きにイヴァンは四苦八苦する。
「クソっ」
そうこうしてる間にいつの間にかアーヴィングがイヴァンの懐に入ってきていた。
「死ね」
その言葉と同時にイヴァンの心臓をアーヴィングの剣が貫く。
「がっ!!!」
「イヴァンっ!!!」
目を見開きイヴァンはディアーナに手を伸ばしながら落ちて行く…。