05.バンパイアの少女
真夜中人々が寝静まる頃、琴子はアンノウンを追う任務に着いていたのだが、ターゲットは突然現れた何者かに目の前で殺されてしまった。
銀髪の長い髪に血色の瞳の女の人が銀の細剣でターゲットを一突きにした。その傍には栗色のくせっ毛の髪の青年がいた。
瞳の色は女と同じ血色だった。
「あなた達は…ガーディアン?」
「…そうだ。なぜ殺した?」
女の問いかけに玲音は女を睨みつける。
「彼は人間じゃないバンパイアよ…バンパイアは私が全滅させる」
「ディアーナ行こう、目的は果たした。」
「そうね」
そう言って2人は闇に溶けるように消えた。
琴子は消えた2人の男女に見覚えがあった。記憶を辿って思い出す。
はっとしたように彩芽を見た。
目が合うと彩芽は頷く。
さっき東の宿で見た2人だったからだ。
「バンパイアを狩る青年と女性…か。」
彩芽は東の宿で見た2人とバンパイアを殺した人が同じ人だと言う事を話した。
「その2人も放っておけないな…」
それに…と玲音は付け足す。
バンパイアは殺されたにも関わらずその被害は後を絶たない。
という事はこのまま、ただバンパイアを捕まえても根本的な解決にはならないと言う事だ。
……………
私はバンパイア。
人間の男の子に恋をした。
彼は私がバンパイアであっても受け入れてくれた。
それと私に血を分けてくれるよき理解者でもあった。
ただ彼の事が好きなだけだった。
それなのに、それに目をつけたバンパイアの仲間が彼の血を啜って彼を殺してしまった。
本来、バンパイアは人間が死んでしまう程の血の量を飲まなくても生きていけるはずなのに。
そいつは面白おかしく笑いながら私に言った。
「人間なんてただの食糧じゃん?」
って。
違う…違うよ。
人間もバンパイアも同じ生き物で感情もあるし同じ言葉だって話すんだよ。
それに彼は私の大好きな人。
「違う…違う!!!」
気が付いたら私はそいつの首をはねていた。彼に護身のために持たせていた銀のナイフで…。
それから私は無闇に人間を殺すのをやめるように長老達に訴えた。
だけど、誰も耳を傾けてくれなく私を嘲笑い、仲間殺しの裏切り者として私を追放した。
だから決めた。
バンパイアを全滅させる事を。
もう誰も死ななくて済むように。
「ディアーナ」
遠くで声が聞こえてくる。
その声はだんだん近くなってきて、目を開けると心配そうにディアーナを見つめるイヴァンがいた。
「ディアーナ!!大丈夫?」
「大丈夫だよ…?」
「凄くうなされてたから」
「そう…」
どうやらディアーナは眠っていてうなされていたらしい。
「最近…よく眠るよね、顔色もあんまり良くないし」
イヴァンはディアーナの頬に優しく触れる。
「そうかもね…」
「もっと俺の血を飲んで…俺はか弱い人間とは違う」
イヴァンはディアーナが心配でたまらなかった。
幾千も戦ってきた、それなのにディアーナは必要最低限の血しか飲まない。血を飲めばバンパイアは力が増すのに…だ。それに最近、ディアーナが弱ってきてる様に見える。血の摂取量が足りていないのではないか…?
イヴァンは心配そうにディアーナの頬を撫でた。
イヴァンを見つめながらディアーナはふと昔の事を思い出す。
彼に出会ったのは何時だっただろうか…。
まだ幼かった彼はバンパイアに両親を殺され、彼自身も瀕死の所を私が少しだけ血を分け与えた。
だから彼はバンパイアと人間のハーフになってしまったのだ。
まだ幼い彼が死にゆく姿を見た時、とても不憫で可哀想だと思ってしまったからどうしても放っておくことが出来なかった。
「ありがとう…でも大丈夫よ」
そう言ってディアーナはイヴァンの手に自分の手を重ねた。
…………
一方、ガーディアン本部第1部隊のオフィスでは、琴子が休憩室のベッドで眠っていた。
バンパイアの調査のため夜勤が続いてるのだ。
この件で動いてるメンバーは琴子、彩芽、玲音、那由多だ。
アラームの音で琴子は目が覚める。
「!!!」
音にびっくりしながらも起き上がると制服に着替えた。
すっかり日が沈みこんだ真夜中。
琴子と玲音はペアを組んで巡回をしている。
「昼夜逆転すると体がおかしくなりそうですね」
「…そうだな。早く終わらせてぇ~」
琴子の言葉に玲音は少し項垂れた。
瞬間、琴子は何者かに路地裏へと引き釣りこまれる。
「きゃっ!!」
「琴子っ!!!」
玲音が手を伸ばすも虚しく、凄まじいほどの速さで琴子があっという間に連れ去られてしまった。
「クソっ、なんて速さだっ」
…………
真っ暗な空に数え切れないほどの星が輝いていた。
大切な幼馴染みを失い、傷心していた琴子は気分転換も兼ねて祖父の別荘に遊びに来ていた。
祖父の別荘は周りに明かりがあまりない所だったから星がとても綺麗に見えたのを覚えている。
「綺麗だね」
「うん…綺麗だね」
琴子と一緒に星を見ている男の子がいた。
その男の子はどんな容姿だっただろうか…綺麗な白金の髪だった事だけは覚えている。
でも、名前と顔は思い出せなかった。
「っ!!」
琴子ははっと意識を取り戻す。
口に布が巻かれていた。
「っっっ!!」
傍らには銀髪の長い髪に血色の瞳をした綺麗な容姿の女が琴子をじっと見ていた。
この容姿はバンパイア特有の髪の色と瞳の色だ。自分かバンパイアに攫われたと瞬時に判断して、これから起こるであろう惨劇に琴子は身震いした。
「大丈夫よ。殺したりしないわ」
そう言う女に琴子は見覚えがあった。
つい先日、東の宿で栗色の髪のくせっけの青年と一緒にいたバンパイアだった。
「私はディアーナ。あなたの血を少しでいいから分けて欲しいの」
そう言ってディアーナは琴子の髪を結んでる赤いリボンを解いた。
みるみるうちに銀髪の髪は真っ黒になり、スカイブルーの瞳は黒くなった。
「やっぱり。あなた…魔女ね」
魔女?私が?そんなの聞いた事ないし、私は魔女なんかじゃないと思いながらも琴子は意味が分からないといったような顔をする。
「魔女は言の葉を使うと言われているわ。それにその容姿…」
ディアーナは確信したように呟くと注射器を取り出し採血をし始めた。
「!!!?」
噛み付いてくるんじゃないの!?採血???と予想していた斜め上をいかれて逆にパニックになる琴子だった。
ひとしきり採血を終えてディアーナは琴子の布と手足の拘束を解くと立ち上がり琴子に背を向ける。
「ありがとう」
振り返りそう言うと闇に溶けるように消えた。
「待って……っ」
琴子はディアーナに追ってこられないように動けない程度に加減して血を抜かれ、貧血でフラフラだった。
「うっ……気持ち悪い」
そのまま目を閉じて蹲ってしまった。
瞼の裏に浮かぶのは満点の星空。
そして琴子はその星空を一緒に見た少年の呼び名を思い出した。
一方、玲音は那由多にイーグルアイで琴子の居場所を見つけ出してもらっていた。
那由多と瞳を共有してる玲音の瞳も那由多と同じ鷹の瞳になってる。
路地裏を曲がってやっとたどり着いた時、琴子は蹲って倒れていた。
「遅かったかっ」
玲音は最悪の状況を想定しながら駆け寄る。
抱き抱え、琴子が息をしていることにほっとする。
「…ほ、しの………王子さま…?」
意識が朦朧としているのだろう、琴子はぼんやりと焦点の定まらない瞳をしながら呟く。
玲音を通り越して見える夜空は星が満天でとても綺麗だった。
「き…れい……な…星空………」
そう呟き今度は完全に意識を手放した。
「………」
玲音はそんな琴子に自身の隊服の上着を琴子の髪が見えないように被せお姫様抱っこをする。
この世界で黒髪、黒い瞳はとても珍しいことだ。それにこの姿だとすぐに琴子が黒蝶だとバレて大騒ぎになってしまうだろう。
深夜ということで人通りは少ないが一応だ。