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BLACK DiVA  作者: 宵衣子
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04.長い夜


カーテンの隙間から朝日が差し込む。

それから程なくして端末のアラームが鳴り響く。


「ふぁ~」


ここはエウス中央区。

とある高層マンションの上層階の一室。

琴子はセミダブルのベッドの上で大きく伸びをした。

それからシャワールームに移動してシャワーを浴び追えると、髪を三つ編みにし、赤いリボンを頭の上でヘアバンドのように結んだ。

黒髪黒目はそれぞれシルバー髪とブルーの瞳へと変化した。

琴子は支度をすませ自宅を出た。


…………


「ほいっ!もういっちょう!!」


元気よく響くその声に琴子は地面に這いつくばり、息を切らしながら声の主を見上げる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


ここは修練場。

琴子は今、第1部隊隊長の玲音に体術を教えて貰っている。

琴子は立ち上がる。


「っと、もうこんな時間か…彩芽!組手はこの辺にするから、あとは拳銃の使い方を教えてやってくれ」


傍に控えていた彩芽は頷くと琴子を連れていった。

それから数時間後。

琴子は第1部隊のオフィスに戻ってきていた。


「ふぅ~。」


一息ついてオフィスの机に突っ伏してると上から何かを掛けられた。


「???」


顔を上げると会議から帰ってきた玲音がにっと笑った。


「ガーディアンの制服だ…着替えてこい」


そう言って通り過ぎて言った。

琴子はロッカールームで着替える。

隊服は黒を基調としていて、差し色には紫が使われている。

隊服は隊員それぞれ好きなデザインに出来るらしく、基本の色は一緒だが皆それぞれ形が違う。

琴子の隊服はロングコートにショーパンにニーソにショートブーツと言うような感じだ。

着替え終えて部屋の外に出ると彩芽が声をかけてきた。


「琴子…巡回に行くから着いてきて」


「はい!」


琴子は返事をすると彩芽と一緒に巡回に出かけた。

しばらくして、彩芽に連絡がくる。

とある宿で変死体が上がった…と。

2人は急いでその宿に駆けつけた。


「ガーディアンです。どうしましたか?」


「あ、あぁ。こっちです。2階の一室から変死体が…」


そう言って案内された部屋にはからからに干からびた死体がベッドの上にあった。

琴子は初めて見るそれに絶句し目を逸らした。


「うっ」


「これは…」


彩芽は死体を見るやいなやすぐに玲音に連絡し状況を話した。

そして2人は一旦、本部に戻った。


…………


「干からびた死体か…」


意味深に玲音が呟く。

玲音の周りには隊員達がいる。


「総司令からこの案件は正式に第1部隊に任された。そうだな…今回は俺と那由多、彩芽に琴子で行こう。」


那由多と呼ばれた男性は、青髪にグレーの瞳の玲音の右腕とも言える人物だ。

それから4人は会議室でミーティングをした。


「この死体はカラカラに干からびてる事から、最近、あちこちで発生している吸血鬼、またはそういう類の力を持ったアンノウンの仕業の可能性が高いです」


手元の端末の情報を見ながら彩芽は言った。


「いずれも、深夜のうちに犯行に及んでるっぽいしな…日が落ちたら任務開始だ」


………………


すっかり日が暮れて、4人は中央広場付近のとあるビルの屋上に来ていた。


「いつ、どこで犯行に及んでいるか分からないのに一体どうやって的を搾るんですか?」


琴子は玲音に問いかける。


「ん?それは…那由多にお任せ♪」


そう言って玲音はにっと笑って那由多を見た。


「はぁ~。」


那由多は仕方ないようにため息をつくとビルから街を見下ろす。

そして目をカッと見開いた。

すると那由多のグレーの瞳は黄色に光り、まるで鷹の目のように鋭くなった。


「…………」


那由多は集中している様だ。


「あの瞳は…?」


琴子は不思議そうな顔をした。


「あの瞳は…〝イーグルアイ〟。那由多はあの瞳でかなりの広範囲を一度に見ることができる」


「凄い…」


彩芽の解説を聞いて琴子は感嘆の溜息をついた。

それから数時間して、額に汗を滲ませながら那由多が口を開いた。


「2箇所。2箇所に不振な動きをする奴らがいます。中央区、北の宿屋と東の宿屋」


「了解。さんきゅーな那由多。」


その言葉を合図に那由多はガクッと地面に膝を着いた。

どうやらかなり体力を消耗したようだ。


「那由多はここで待機。万が一俺たちに何かあった時は本部へ。俺は北へ、彩芽と琴子は東へ行け」


「「はい!!」」


琴子達は中央区の東側にある宿屋へと急いだ。

走りながら琴子はふと思う。


「辿り着いたとしてもどこの部屋で何が起きたか分からないんじゃ…」


「大丈夫」


彩芽がそう言った瞬間に頭に映像が流れてくる。

北の宿屋と東の宿屋のとある一室でアンノウンが人の血を吸っている。


「これはっ?!」


「那由多の能力の1つ、情報共有よ。イーグルアイで見たものを共有できるの。」


「那由多さんって凄いっ」


流石、隊長の右腕だけある。

そうこうしているうちに宿屋に着いた。

昼間に見た死体の惨状が琴子の頭によぎる。またあんなものを見るのかもしれないと思うと吐き気がしてくる。

でも、そうも言ってられないだろう、自分で決めた道だ。そう自分に言い聞かせた。

宿屋につくと店員なんて無視して一気に目的の部屋まで直行した。

2階の部屋だ。


「ここね…」


彩芽はドアをノックする。

しかし応答がない。


「琴子…壊せる?」


「やってみます」


琴子はドアノブに意識を集中した。


「《爆ぜろ》」


瞬間、ドアノブが小さく爆発した。

彩芽はドアを勢いよく開けた。

中の様子は随時、那由多から共有されている。

ドアを開けて目に入ってきたのはうす暗い部屋で窓枠に片足を掛けながら、髪の長い女性を抱え込む、服の乱れた青年が血色の瞳でこっちを見据えていた。

女の人に意識は無いようだ。

青年は一瞥すると窓から飛び降りた。


「待ちなさい!!」


彩芽が声を上げるも虚しく、2人は青年が飛び降りた窓に駆け寄った。

しかし窓の外に青年の姿は無かった。


「逃げられた…っ」


彩芽が悔しそうに呟いた。

それから琴子達は那由多の支持で玲音の所へと向かった。

どうやらアンノウンと戦闘中らしい。


「ここの宿は大きいですね」


東の宿と比べて北の宿は大きく玲音と合流するのは骨が折れそうだ。

それに那由多からの情報の共有もいつの間にか途絶えていた。


「那由多は電池切れね」


彩芽が呟く。

宿の中は静かでみんな寝静まっているようだ。

受け付けにガーディアンの証を見せて2人は客室のロビーへと向かう。

彩芽は鼻をくんくんさせた。


「大丈夫。隊長の匂いなら分かるから。琴子…気を引き締めてね。血の匂いがするから。」


彩芽にそんな得意技があるのかと感心しながら琴子は気を引き締めた。

2人は廊下を歩いていく。


「匂いが濃くなってきた」


2人が曲がり角を曲がろうとした時、何かに襲われる。

彩芽は気配に気づいていたのか咄嗟に琴子に覆い被さるようにして地面に転んだ。


「っつ!」


「うっ!!」


琴子は衝撃に顔をゆがめる。

そんな琴子を他所に彩芽は既に立ち上がり拳銃を構えている。


「琴子、早く立って」


「は、はいっ!」


2人の目の前には口から血を滴らせ、銀髪に血色の瞳をした男性が、牙と鋭い爪をむき出しにしながら立っていた。


「おや…今日はよく餌が群がる」


「隊長は…隊長はどうしたっ」


彩芽が怒りに滲んだ瞳をその男に向けた。


「隊長…ああ、さっきの若い金髪の青年か…喰ったよ」


そう言い放ち愉快そうに笑った。

でも、食事の後だったからあまり食べられなかったなと呟く。


「ミラージュパヒューム」


彩芽がそう呟くと甘い匂いが辺りに広がった。


「甘い匂い…?」


「なんだこの匂いは?」


男はその匂いを嗅いだ瞬間に自分の身体に異変が起きている事に気づく。


「目の前が暗く………っ!!」


そして次の瞬間には、たくさんの人間が自分の前に山積みになっていた。


「餌だ…餌がたくさんっ!!!」


男は嬉しそうに笑った。

一方、琴子も目の前が真っ暗になっていた。

そして次の瞬間、子供の頃の自分になっていて、希空と來之衛と楽しく遊んでいた。凄く居心地がよくて、嬉しくて楽しい気分になった。


彩芽は目の焦点があってなく動かなくなった琴子にごめんね。と告げると、同じくヨダレを垂らしながら焦点が合わない目をして動かなくなった男に近寄り額に拳銃を向ける。


「よくも隊長を…」


そう言って拳銃の引き金を引こうとした時、男にの口がニヤリとつり上がった。


「っつ!!」


異変に気づくが時すでに遅し。

男の額に当てていた拳銃を持つ手を男は掴み、そのまま上に彩芽を吊り上げた。


「っつ!!」


彩芽は男を睨み付ける。


「いやいや、焦った焦った。でも幻覚の中でもその甘ったるい匂いがしたからね」


「(こいつ…キレる)」


そう彩芽の幻覚は嗅覚に働きかけて発動する。

幻覚の中で、鼻を塞がれると技を解かれてしまうのだ。

男は鋭い爪を彩芽の喉元に突き立てる。


「さぁ、君の血はどんな味かな?」


にやりと男は笑うと爪を突き刺そうとする。

絶体絶命の瞬間、銃声が2発聞こえてきた。それは彩芽を掴んでいる男の手に当たる。


「ぐっ!!」


男は手を離し後ずさった。

彩芽は地面に落ちる。


「っつ」


「ってー。ったくすばしっこい奴だ。」


聞き慣れた声がして彩芽はほっと胸を撫で下ろす。

白金の髪にゴールドとスカイブルーのオッドアイの青年、我らが隊長の玲音が2丁のシルバーの拳銃を手に現れた。


「隊長!!」


「おのれっ」


男は苦痛に顔を歪めながらも、既に撃たれた手の傷は塞がり始めている。


「殺してやる!!」


そこで琴子は目を覚ました。

1番に目に飛び込んできたのは白金の髪の青年、玲音の後ろ姿だった。

その手には2丁の拳銃が握られている。


「隊長…?」


「目覚めたか?」


振り返りニッと、笑う。


「そうだっ…彩芽さんは?」


「戦ってる」


彩芽は拳銃をくししながら男と戦っていた。


「ほんとにすばしっこい…」


彩芽の撃った弾をいとも簡単に避けると瞬時に彩芽の懐に入り込んだ。


「っつ!!」


彩芽の首筋にその鋭い牙を突き立てようとした瞬間、男の動きが止まる。


「やっと効いてきた…」


彩芽は安堵の吐息を着いた。

効果を発揮するまで時間がかかるが無臭の幻覚を彩芽は使っていたのだ。


「ミラージュパフューム・無式…どう?さっきよりも強力な幻覚の味は」


男は幻覚の中にいた。

鎖で幾重にも拘束され身動き1つ出来やしない。これでは鼻を塞ぐことができない。

男は悔しさに顔を歪ませた。


「おのれっ…おのれーーー!!!」


…………


「これで…よしっと」


動かなくなった男に玲音は動きを封じる特別な術が組み込まれた手錠をかけた。


「さて、帰るか…っ」


そう言って男を連れて3人が帰ろうとした瞬間、拘束した男の胸を銀の剣が突き抜けた。

血飛沫を上げて男は絶命する。

倒れる男の背後には、白銀の長い髪に血色の瞳の女が銀の剣から血を滴らせて立っていた。

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