表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLACK DiVA  作者: 宵衣子
2/43

02.3人の夢


まだ希空が生きていた頃。

3人はよく将来の夢について話していた。


「私はね~今流行ってる奇病の薬を開発したい」


そう言ったのは希空だ。

希空は祖母をその奇病で亡くしている。


「僕はお医者さんになるんだ~」


來之衛が優しく笑いながら言った。


「私は…歌手になりたい。歌を通して色々な人に色々な想いを送りたい」


にっこりと笑って琴子は言った。

そうして3人は笑い合う。

こんな日々が当然のように続いていくのだと3人は思っていた。


………


まだ痺れの残る身体。

琴子は担がれるまま抵抗もしなかった。

彼女にこの状況に抗う気力はもう無かった。

しかし今まで悠長に歩いていた來之衛の足が止まる。


「これはこれは…随分と早いお出ましで」


そう言って來之衛は不敵に笑いながら前方を見据えている。

その先にいたのはアンノウンを取り締まる、アンノウンで出来た組織、黒いガーディアンの制服を身にまとった1人の若い青年だった。

白金の綺麗な髪に右目は青空のように澄んだスカイブルー、左目は綺麗なゴールドのオッドアイで圧倒的な存在感を感じさせる端正な顔のまるでおとぎ話に出てくる王子様の様な青年が仁王立ちしていた。

その容姿からもさぞモテるのだろうなと不謹慎にも琴子は思ってしまった。


「君がここにいるって事は僕達の失敗かな?」


「お前達の狙いは《舞衣(マイ)》だろ?残念だったな、もう舞衣はここにはいない」


「なるほど…偽の情報だったか。」


あの情報屋め殺してやると來之衛は呟く。

しかし、失敗したと言うのに來之衛の表情は悔しそうでもなく、ただ冷たく笑みをたたえているだけだった。


「で、君は単独で動いて我らの歌姫をどこに連れていくつもりかな?」


突如現れた王子様は來之衛に問いかける。


「黒髪黒目なんて珍しいからね、上から連れてこいと言われてるんだよ。売ったら金にもなるしね」


來之衛の口から出てくる自分に対する酷い言葉に琴子は耳を塞ぎたくなる。

來之衛の口からそんな事聞きたくないと瞳に涙を貯めた。

そんな琴子の様子に、琴子が怯えて恐怖のあまりに涙していると思ったのか白金の青年は彼女を安心させるように声をかけた。


「黒蝶…安心してください。貴方の事は何がなんでも俺が守りますから」


白金の青年は安心させるように琴子に優しく笑いかけた。

その間にも來之衛はなにやらカードを取り出し白金の青年に投げつけようとする。

しかし、そんな來之衛の動きよりも早く白金の青年は來之衛の懐に飛び込んだ。

瞬間、來之衛は動けなくなる。


「(なるほど、これが停滞の力か)」


そして担いでいた琴子を來之衛から引き離し距離をとった。


「《舞衣(マイ)》を手に入れて何をするつもりだ?」


「そんなの知らないよ…僕達はレッドアイだよ?金さえ貰えば何でもする」


「そうか…依頼主については後でゆっくり聞こう」


そう言って白金の青年は2丁のシルバーの拳銃を來之衛に向けた。

数分間にも感じられる静寂。

しかし時間にしたら数秒だろう。

両者睨み合ったまま1歩も動かない。

その時、來之衛の耳元の通信機から声がしてくる。


『來之衛、こちら紅葉(クレハ)。作戦は失敗。速やかに撤退せよ』


撤退している途中なのだろう少し息があらい、女の声がしてきた。

來之衛はわざとらしくため息をついて戦闘態勢を解いた。


「はぁ~作戦失敗みたい…僕はこれで撤退させて貰うよ」


そう言って冷たい笑みを浮かべると白金の青年に向かってカードを投げた。

思わず彼はそのカードを拳銃で撃つ。

弾がカードに当たると煙を放ち視界を奪った。

視界がクリアになった時、來之衛の姿はもう無かった。


「ちっ、逃がしたか」


少し悔しそうに白金の青年が呟いた。

來之衛が撤退し事態は収束した。

琴子は白金の青年に肩を支えられ会場から外に出た。

薄暗い中にいた琴子にとって外は眩しく、視界がホワイトアウトする。

俯き、落ち込んでいる琴子を白金の青年は琴子のマネージャーに託し、事後処理へと向った。


…………


意識の奥底で声がする。


『琴子…琴子ってば!!』


「誰??」


真っ白な光に満ちた世界にただ1人、それなのに声がしてきて琴子は目を凝らす。

すると銀色の肩くらいまでの長さの髪をハーフアップにしている見慣れた後ろ姿が見えてきた。


「希空…??」


琴子の呼び掛けに銀髪の少女はゆっくりと振り向く。

少し哀しげに瞳を揺らし琴子を見つめた。


『お願い…來之衛を止めて』


「來之衛…」


今まですっかり忘れていた來之衛の事を、そして今日の出来事か蘇ってくる。

途端に視界は真っ暗になり、今度は深い闇の世界に1人きりになった。


「っつ!!希空!!!」


手を伸ばした先には仮面をつけた來之衛の姿。

一瞬、琴子を見ると踵を返し暗闇の中を歩いていく。

遠のく來之衛の背中。


「待って…來之衛!!!」


ガバっと琴子は起き上がる。

見慣れた自分の部屋が視界に入ってきた。

どうやら現実に戻ってきたようだ。


「そうだ…あの後………よし乃さんに送ってもらって帰ってきたんだ。」


よし乃さんとは琴子のマネージャーだ。

琴子の家は高層マンションの上層階。

大きな窓からは煌びやかな街並みが見下ろせる。


「來之衛……」


琴子は窓に寄りかかり目を閉じる。

そして決心したように目を開けた。

それから数日後、人々を震撼させるニュースが飛び込む。


国民的歌姫、黒蝶が無期限休止…と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ